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合田玲英の フィールド・ノートVol.100 《 2021年VT・フランス 》

 年が明けて2か月がたち、生産者たちから今年のアロケーションが来ています。
 去年2021年VTの作柄を受けて、数量の減少と価格の上昇が顕著です。それも去年だけ減った訳ではなく、この数年続けて収穫量が減っていたなかで更に輪をかけての収穫量減でした。
 以下にメッセージの一部をご紹介しますが、どの生産者も苦渋の決断を強いられるVTだったのだと、容易に想像されます。 

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アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール / ブルゴーニュ・シャブリ
 私たちの20年以上のワイン造りのキャリアのなかで一番難しいものでした。遅霜に加えてベト病が蔓延し、かつてないほどの収量減です。私たちはまだ収穫が少しはありましたが、北部ブルゴーニュの私たちの仲間のヴィニュロンでは、全く収穫が出来なかった人たちもいます。

リシャール・シュルラン / シャンパーニュ
 ようやく今年の収穫がおわりました。春の霜害のため収穫はとても少ないものでした。3週間連続して-5℃を記録し、ブドウ樹自体がだめになってしまった区画もありました。また、夏季の多量の降雨はベト病の原因となりました。上記のような理由からブドウの熟度に大きな開きがあったため、同じ畑を何度も収穫せねばならず、収穫期間がとても長引きました。
 収穫量は豊富とは言えないが、質については十分なアルコール度数を伴った、美しい酸に特徴づけられるブドウが得られ、醗酵の終わったワインの結果には、勇気づけられました。1年間の苦労が報われた思いです。

ピエール・フリック / アルザス
 確かに、ブドウの木にとってこれほど難しい年はありませんでした。とはいえ、私たちはポジティブであり続け、より”正常”な2022年VTを期待しています。ワインの歴史のなかには、収穫量が非常に限られたヴィンテッジが常に存在しており、2021年もその一つにすぎません。
 ※アルザスも大きく分けて南北でかなり収穫量の差があるようです。フリックやシュレールのいる南部では、非常に厳しい状況で、ブルーノ・シュレールは、ピノ・ノワールはロマネ・コンティと同じ価格でリリースしたいくらいだと言っていました(もちろんそんなことはありません)。一方で、北部では適切な雨量だったそうで、むしろかなり収穫量が多かったそうです。

ニコラ・ルナール
 現在畑を管理している、ヴーヴレでは幸運にもシュナンが25hl/haはとれた。悪くない量だ。
 ※ロワールでもエリアによって(もっと小さい単位で、畑の区画によって)、かなり収量に差があるようです。シュヴェルニー、トゥーレーヌ、アンジュー、ナントのエリアでは、生産者から収穫量大幅減の知らせが届いています。

マズィエール
 2021年は収穫量が非常によかった。鳥害対策のため、小さな鷹を飛ばす人を雇って毎朝畑に来てもらった。また、銃声を録音したものを30分おきに鳴らしたりもした。高額な投資だったけれど、効果は抜群だった。

ラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエール
 これほど繊細な年は2013年以来です。春から夏にかけて雨が止まないので、警戒心はいつまでも続きました。農家という職業では、私たちはますます混乱した気候に直面しており、常に警戒心を持ち続けることが重要なポイントです。気を落とさずに根気よく畑に出て、懸命に手入れをしなければなりませんでした。
 しかし、このようなヴィンテッジのポジティブな点は、冷夏によってブドウの成熟期間が長くなったことで、濾過機を通さずに済むほどドライなワインが出来上がることが保証されていることです。
 また、ヴィンテッジごとに自分たち自身のありかたを改め、未知の道を探りつづけていくことは、本当に楽しいことです。例えばグロロー・ノワールは、かつては敬遠されていた品種ですが、ヴィンテッジを重ねるごとに多義性を発揮し、醸造法によってはシラーやピノ・ノワールに匹敵する複雑さを見せてくれます。

 2016、2017、2019年の霜、2018年の嵐とベト病を経て、2021年VTの収穫量はまた半分でした。4月7日から12日までのうち三晩、霜がブドウの木を襲い、必死の努力をしても、出てきた芽をすべて救うことはできませんでした。
 過去6年間のうち5年間は、平均して通常であれば30hl/haのところ、半分程度しか収穫できていません。経済的に生き延びるために、そして、気候変動によるブドウ栽培への影響を軽減するためにも、投資を継続していく意思が必要です。ワインの熟成と瓶詰めにふさわしい時間を与えることができるように、また、季節労働者に私たちと同じ時給、つまりフランスの最低時給よりも15%多い時給を支払い続けるためには、単価もあげなければなりません。生産にかかる実質的なコストと、ワインの作品としての質とに直結する「適正価格」を、生産者側も模索しなければなりません。
 と同時に、仲介業者や消費者たちもまた、高い価格を主張するワイン生産者に対して、その根拠となる有機栽培やビオディナミ栽培の認証、ヘクタールあたりの収穫量、雇用している人の時給、ブドウ畑で過ごす時間、ワインとなるブドウの原産地などについて、尋ねるべき時が来ているのです。 

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 また、以下は2/10から販売開始となった、ロワールのヌーヴォー(プリムール)3生産者のテイスティングコメントと生産者の分析です。
 やはり全体的にアルコール度数も低く、どのワインもこの数年のたっぷりとした果実味ではなく、はっきりとした酸が特徴の年でした。青さはあるものの、味筋としては個人的には好きなVTにはなりそうではあり、これから夏以降にリリースされるワインにも期待をしたくなる味筋です。収穫量がすくないのが本当に悔やまれます。

ドメーヌ・ランドロン
ミュスカデ・ヌーヴォー 2021 アルコール度数:11.80%
 極微量に発泡していて、果実の青い酸がネガティブではなく、フレッシュで快活な印象を与えるのは、やはり熟練の腕のなせるわざ。

~以下、生産者より~
キャロル「一般的には簡単な年ではありませんでしたが、極めて健全な状態で収穫できました。果汁は高いポテンシャルを感じさせ、今年のワインが非常に上質で、凝縮感や緊張感、フレッシュな果実味を備えています。」
 2021年産のワインは、みずみずしく、緊張感があり、フィネス、凝縮感と余韻の長さが特徴です。バランスがとれ、熟成ポテンシャルの可能性が十分に見込めるヴィンテッジだと予想されます。気候条件の面でいうと1991年、ワインの品質でいうと2013年ヴィンテッジと似ていると思います。

ピエール=オリヴィエ・ボノム
ヴァン・ヌーヴォー・ブラン 2021 アルコール度数:12%
 きっちり仕上げてくるランドロンと比べると、まだ微生物の活動が落ち着いてはいない。まさに瓶詰を春以降にするワインを樽試飲しているような雰囲気で、後味に豆の気配はあるが、これはこれで新酒らしく面白い。

~以下、生産者より~
ピエール=オリヴィエ「今年のヌーヴォーは、残糖1. 5gのほぼ辛口で、アルコール度数は例年よりも低め。淡い黄色でとてもアロマティックです。今年は春に霜が降り、夏にはベト病が多発し、果実の成熟が困難な年でした。」 

ル・クロ・デュ・チュ=ブッフ
ヴァン・ヌーヴォー・デュ・チュ=ブッフ ブラン 2021 アルコール度数:11.52%
 確かにフレッシュではあるが、ロワールの地品種特有の、果実味の厚みがある。成熟度が高く、熟成期間の長いシュナンとはまた違った魅力。 

~以下、生産者より~
ゾエ(ティエリーの娘)「ブドウはヴーヴレのシュナンで造ることができました。2022年のヴィンテッジと、ブドウの木が育った場所の典型的な石灰岩の土壌に特有の、フレッシュな果実味と緊張感のある味わいが魅力的です。ボディがやや少なく、酸の高い、数十年前までこのエリアで造っていたタイプのワインといえます。」 

ヴァン・ヌーヴォー・デュ・チュ=ブッフ ルージュ 2021 アルコール度数:11.15%
 ゾエも書いてきてくれている通りの、新酒の赤らしい、快活で軽快な赤。白赤ともに、不安定さを感じさせない。 

~以下、生産者より~
ゾエ「ブドウはヴァレ・デュ・シェールのガメです。フレッシュで飲みやすく、フルーティな味筋を狙いました。このワインについては、ワインの性質上、瓶詰めが早いのでフレッシュな果実味がそのままに感じられます。」 

 

~プロフィール~


合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住

 
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