合田玲英の フィールド・ノートVol.102 《 オーガニック・シャンパーニュに関するコミュニケーションに携わるすべての方々へ 》
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最終更新日:2022/07/08
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ラシーヌ取り扱いのシャンパーニュ生産者から、オーガニック、バイオロジック、ちゃんと理解していますか?という質問とともに、オーガニック・シャンパーニュ協会(ACB – Association des Champagnes Biologiques)からの本記事のタイトルの“手紙”が届きました。
認証を取らずにビオロジック栽培を行っていると説明する生産者、またそれをそのまま顧客やSNS上で流すインポーターや酒屋などの仲介業者を批判し、証明された事実に基づいてそのような発信をすべきだという内容です。
ACBは1998年に、シャンパーニュ地方のオーガニック栽培のパイオニアである数人のワイン生産者により設立されました。毎年、新しいメンバーが協会に参加しており、2020年時点での会員登録者数は114のワイナリーが加盟し、以下の理事会と役員たちから構成される協会です。
代表 : パスカル・ドケ
副代表:ジェローム・ブルジョワ
会計:ジャン=セバスチャン・フルーリー
書記:デルフィンヌ・ブリュレ
名誉会長:ジャン=ピエール・フルーリー
加えて14人の役員と、6人の研修生から組織されています。
ACB役員会
【役員14名】
◆トマ・バルビション ◆ジェローム・ブルジョワ ◆エルヴェ・ブリッソン ◆デルフィンヌ・ブリュレ
◆アレクサンドル・シャイヨン ◆サリム・コルドゥイユ ◆パスカル・ドケ ◆ジェン=セバスチャン・フルーリー ◆オリヴィエ・オリオ ◆シリル・ジョノー ◆ティボー・ルグラン ◆ドミニク・ルファルジュ ◆ラファエル・ピコヌ ◆エティエンヌ・サンドラン
【研修生6名】
◆アントワンヌ・シェヴァリエ ◆サンディ・デュルドン ◆フィリップ・ランスロット ◆フラヴィアン・ノワック ◆ジャンヌ・ピオロ ◆ジャン=ルイ・ヴィクトール
また、ACBがその枠組みの中で活動を行っている、フランスの有機認証機関では、生産者名、地域で有機認証を受けているか検索できるディレクトリを公開しています( https://annuaire.agencebio.org/ )。
ラシーヌ取り扱いのシャンパーニュ生産者の登録状況は以下の通りでした。
生産者名 | 有機認証機関への登録 |
Benoît Lahaye | あり |
Champagne Marguet | あり |
Emmanuel Brochet | あり |
Champagne Fleury | あり |
Hervé Jestin | あり |
Pascal Mazet | あり |
Vouette et Sorbée | あり |
Richard Cheurlin | Lucie Cheurlinの名前で取得している。 一部Bio認証取得のキュヴェをリリースしている。 |
José Michel & Fils | なし |
Laherte Frères | なし |
Jérôme Prévost | なし |
Ulysse Collin (Olivier Collin) | なし |
フランスの法律では認証機関に登録の無いものを、「非認証だけどビオです」といった、僕もよく使ってしまう表現は違法であり、罰則の対象にもなるとかならないとか。それでは代わりの伝え方をするべきなのか。「化学合成農薬を使わない栽培」といったところで、それを証明するものは何もなし。「生産者の考えるままの自由な栽培」これでは何が何やら全く分からないし、まさに無法地帯。
オーガニック栽培を信じ、また広めていくべきだと考えるワイン生産者からすると、そういうマーケットが存在することを利用し不当に利益を得ている生産者がいること、またそのようなワインを扱う仲介業者の存在は、鼻もちならないものでしょう。「あいつはオーガニックを謳っているが、嘘っぱちだ」なんていうのは、生産者訪問をするときによく聞く話でもあります。かといって、有機認証が保証するものは、有機栽培や醸造までで、それ以上の味わいが保証されるものでは決してなく、カテゴライズされるものの外側に、面白いワインがあふれているのも事実なので、あくまで参考までにACBからの“手紙”ご紹介いたします。
【 オーガニック・シャンパーニュに関するコミュニケーションに携わるすべての方々へ 】
この手紙をお送りするのは、貴社が事業活動において、オーガニック・シャンパーニュに関する情報を発信している、または今後発信する可能性があるからです。
オーガニック・シャンパーニュ協会( ACB – Association des Champagnes Biologiques )は、1998年に設立されました。この協会には有機農業( AB, Agriculture Biologique )を実践する生産者を集め、シャンパーニュ地方の有機ブドウ栽培の発展を促進することを目的としています。現在、シャンパーニュ地方の114のワイナリーが加盟しています。
ACBは、フランス有機農業連盟( la Fédération Nationale de l’Agriculture )のメンバーであるグラン・デスト地方の有機農業( Bio en Grand Est )の枠組みの中で日々活動しています。ACBの重要な使命のひとつは、AB商標の不正使用を防止することです。
これについては、以下の我々のHPで詳しく説明されています。
http://www.champagnesbiologiques.com/index.php/home-gb/the-association/our-mission
このことを念頭に置き、この手紙の目的は世界中のワイン専門家に、「有機栽培(AB)の実践規範の背後にある哲学」、「認証を得るために従わなければならない手続き」、さらにこのことが「シャンパーニュのアペラシオンにおいて実用レベルでどのように適用されるのか」をより詳細に説明することにあります。
AOCシャンパーニュは、フランスのワイン生産地の中でも、有機農業の発展が遅れている地域のひとつです。全国レベルでは、2019年にフランス国内のブドウ畑の14%が有機農法を採用していますが、シャンパーニュ地方ではその数字はわずか3.4%で、売上高で見ても、オーガニック・シャンパーニュは全体の1%未満にとどまっています。シャンパーニュ地方において特筆すべきは、スティルワインと異なり、【シャンパーニュ地方ではオーガニックへの転換を開始してから、1本のオーガニック・シャンパーニュを製造するまでに最低6年かかるということ】。そして、【2012年のオーガニック・ワインに関する欧州法の施行以来、「オーガニックへの転換中のシャンパーニュ」という言葉が存在しなくなったということ】の2点です。
したがって、オーガニック・シャンパーニュは、皆様もよくご存知のように、現状では極めて困難な市場状況の中で、希少な存在であることがわかります。2019年の数値は、有機農業地域観測所のこちらの資料で確認できます。
http://www.champagnesbiologiques.com/application/files/7616/0380/5171/BGE_Fiche_Chiffres_Viti_Bio_en_Champagne_2019_ORAB.pdf
しかし、現在の状況は有機農業を行ううえで非常に好ましいものです。合成農薬の使用による取り返しのつかない汚染について、より多くの人々が認識しています。生態系を保護する必要性が広く認識され、消費者にも大きな影響を与えています。環境に対する関心はますます高まり、生産者は環境負荷を最小限にする努力をセールスポイントとして強調するようになっています。
しかし、その内容は千差万別です。自分たちの農法を語るとき、完全に透明性があり正確に伝える生産者がいる一方、自社の農法について程度の差こそあれ躊躇なく「グリーンウォッシュ」し、誤解を招くようなメッセージを、恥ずかしげもなく発信する生産者もいます。
また、有機農業を保護するための法律を単に無視する生産者もいます。残念ながら、こうした誤った、あるいは誤解を招くことを狙った売り込みは、従来のワインに特化したメディアや、監視の目が行き届きにくい様々なソーシャルメディアで繰り返されることとなります。
そのため、シャンパーニュ地方では、「ビオ栽培だが認証はとっていない」、「申請はしていない」、「ほぼ有機栽培」、「有機栽培にインスパイアされた」、「いわゆる有機栽培の哲学にインスパイアされた」、「合成農薬を使用していない」などと表現されるワイナリーが増えてきています。これらの表現は、有機認証を得ることは「複雑で、官僚的で、コストがかかりすぎる」あるいは「分裂的で、宗派的でさえある」という言葉が添えられ、発信されていきます。
このような背景から、残念ながら、一般消費者を混乱させる可能性があるため、我々は以下の点を明らかにする必要があると考えます。
◆オーガニックの認証を受けずにオーガニックを名乗ることは法律で禁止されている。
「非認証オーガニック」という言葉は矛盾語法、互いに矛盾する2つの言葉を使った言葉である。つまり「オーガニック」と呼ぶことは、農法が管理され、認証されている意味を含んでいるのです。有機認証を受けるということは、消費者が有機農産物を購入する際に、「生産過程で化学合成農薬が環境中に放出されていない」という事実を保証する信頼契約を、生産者と消費者が結ぶことを意味しています。
「ビオ」、「オーガニック」、「バイオダイナミック」、およびこれらの用語にまつわるすべての表現は、国の承認を受けた独立組織によって認証された製品および農法についてのみ使用することができます。これらの言葉や言葉から派生した言葉を使ったコミュニケーションはすべて厳しく規制されており、これらの規則を守らない場合は不正なコミュニケーションと見なされ、罰則や罰金が科せられます。
ブドウ栽培が多くの農業汚染と同義ではなく、化学農薬を使用する農家の方が製品ラベルにその使用を宣言する義務を負うような理想郷では、オーガニック・ワインメーカーやブドウ栽培者は、その生産方法の認証を受ける必要はないでしょう。ですが残念ながら、現実はまったく違っていて、合成農薬を使用しない農家が認証を受けなければならないのです。
◆認証が高価すぎる、あるいは管理上の負担が大きすぎると主張する人は、あなたを騙しているか、あるいは彼らが自分自身を正しく理解していないかのどちらかです。
シャンパーニュ地方のブドウ栽培者は皆、有機栽培に関わる作業量と、ブドウの木が最も危険にさらされる時期に週7日間いつでも畑に出られる状態にいることの必要性が、認証取得に関わる努力よりはるかに大きいことをよく理解しています。
管理面からみると、AB認証の場合、事前予約による会計と作業記録の検査、関係する区画の年に数時間の視察が必要で、この検査にかかる費用は、わずか2~300ユーロです。これに、年間を通じて適宜行われる抜き打ち検査や、生産段階での製品分析が加わります。
有機認証の本当の難しさは、合成化学物質を一切使用せず、有機栽培の手順を忠実に守り、その結果生じる収穫量の減少という潜在的なリスクを受け入れることです。シャンパーニュ地方(海洋性気候の他の地域と同様)では、このような損失が大きく、繰り返し発生する可能性があります。ブドウ栽培のような農業分野は、19世紀末にフィロキセラと同時に発生したウドンコ病やベト病の非常に影響を受けやすいのです。
最後に、オーガニック・シャンパーニュに関する情報発信の規制について熟知しておくことは、情報発信に携わる者の責務であると考えます。また、読者に誤りや混乱を与えないために、ブドウ栽培者が農法について語る際に、その主張を確認する義務があります。
当協会は、DGCCRF( Direction Générale de la Concurrence de la Consommation et de la Répression des Fraudes:フランス競争政策・消費者問題・不正防止総局 )と連携し、オーガニック・シャンパーニュに関するコミュニケーションに関わる法律の注意点として、テキストを作成致しました。この文書は、フランスのグラン・エスト地区のオーガニック生産者協会( BIO en GRAND EST )が共同署名したこの手紙の付録として、当協会のウェブサイトでもご覧いただくことができます。
http://www.champagnesbiologiques.com/index.php/home-gb/organic-winegrowing/legal-reminder
また、生産者には、管轄の認証機関が発行したオーガニック証明書を求めることを提案いたします。 また、オーガニックを主張するすべての製品に義務づけられている、ボトルに貼られたユーロリーフを参考にすることもできます。ブランドによっては、1つのキュヴェがオーガニックであっても、すべてのワインがオーガニックでない場合もあります。特定のドメーヌでの実践について話すときは、非認証製品がオーガニックであるという印象を与えないよう、注意深く、正確に話す必要があります。有機機関BIOは、有機生産者のディレクトリを作成し、各生産者の証明書を見つけることができます(これを行う最も簡単な方法は、ボトルに記載されている生産地を入力して「詳細検索」を行うことで、そのワインを生産した企業の詳細が表示されます)。
https://annuaire.agencebio.org
セーヌ=ノルマンディー地域圏の水資源局( l’Agence de l’Eau Seine-Normandie )が、シャンパーニュ地方の様々なワイン生産地の地下水位と集水域の悪化について絶えず警告を出している今、シャンパーニュを造る男女と、いくつかのシャンパーニュメゾンや協同組合が、今日、有機生産への勇気ある転換を進めているのです。2020年は、シャンパーニュ地方における有機栽培への転換数の記録的な年となるはずです。
アジャンス・ビオ( Agence Bio )が発表した最新の数字によると、シャンパーニュ地方では、転換面積が60%近く増加する可能性があります。
この取り組みを認識し、奨励するために、私たちは、すべてのコミュニケーションにおいて、警戒心と開放性を示し、そうすることで、読者とリスナーに最も明確な情報を提供することをお願いしています。私たちは、あなたが環境問題に対する意識を高めるために積極的に参加してくれることを確信しています。そうすることで、自然のサイクルを尊重し、地球上に拡散する、今日の社会を悩ませている問題をさらに悪化させる化学物質を放出しない、これらの実践の発展に寄与することになります。
当協会では、皆様からのご質問にお答えいたしますので、お気軽にご連絡ください。
【オーガニック・シャンパーニュに関するコミュニケーションに関する規制】
◆法律に関する注意喚起
認証を受けていない製品をオーガニックと称し、あるいは認証を受けていないにもかかわらずオーガニック栽培を行っていると称し、誤解を招く表現が多発したことを受け、シャンパーニュ・ビオロジック協会およびビオ・アン・グラン・デストは、以下のことを再確認します。
・シャンパーニュは、有機農業の産物であることが証明された場合のみ、有機であると主張することができます。有機認証を受けたブドウを生産し、有機認証を受けたシャンパーニュのみが、有機農業と名乗ることができます。
・有機農法で作られたすべての商品と同様に、ラベルには、ユーロリーフと呼ばれるヨーロッパの有機ロゴ、「有機ワイン」の文字、認証機関のコード番号(FR-BIO-XX)、使用した農産物原材料の産地が法律により表示されていなければなりません。
・有機農業の実行者としての事前認証は、バイオダイナミックについて発信する生産者の必須条件です。「バイオダイナミック」の「バイオ」という言葉があることで、同じ権利と保護が与えられます。
・転換中であることを伝えるには、認証機関と契約し、アジャンス・ビオに登録した後でなければ許可されません。とはいえ、転換中の生産者は発言に細心の注意を払う必要があり、まだ完全に認証されていない生産物の一部について、有機農業を実践していると主張してはなりません。例えば、有機(ビオ)やバイオダイナミック(ビオディナミック)という言葉とともに、転換中のエステートの名前をソーシャルメディア上で使用することは許されません。
・ブドウの樹の転換に必要な期間は、収穫前の36カ月間です。つまり、転換を始めてから4回目の収穫で有機農法として認定されます。シャンパーニュのキュヴェを作るためには、アペラシオンの規則により、さらに2年間の醸造が必要です。したがって、2020年に転換を開始した生産者がオーガニック・シャンパーニュを販売できるようになるのは、早くても2025年以降となります。
輸入業者、ワイン小売業者、ワイン専門店、レストラン、オンライン・サイト、ジャーナリスト、イベントを企画する人は、今一度警戒を強めてください。あなたたちには生産者に証明書を提出するよう求める義務があります。すべての人の仕事と有機農業の信頼性とトレーサビリティを尊重するため、これらの規則に違反する者は、DGCCRF(Direction Générale de la Concurrence, de la Consommation et de la Répression des Fraudes:フランスの競争政策、消費者問題、不正防止総局)による報告や法的手続きの対象となる可能性があります。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住
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