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『ラシーヌ便り』no. 208 「ポルトガルワインの新時代 到来!ポルトガル、重要ワイン産地の新たな胎動-焦点は、バイラーダとピコ島」

【ポルトガルワインの新時代 到来!
 ポルトガル、重要ワイン産地の新たな胎動―焦点は、バイラーダとピコ島】
 2015年8月に初めてポルトの空港に降りてから8年。私たちの「ワイン探索の旅」ポルトガル篇は、集中的なフィールドワークをかさね、現在世界のワイン人が注目するピコ島にまでたどり着きました。ようやく2023年、ダォンでポルトガル探索の総仕上げを終えて、今は胸をなでおろす思いです。思えば各地には、優れた土壌、好適な固有品種、微風たなびく冷涼な気候、フィロキセラと無縁な高樹齢の畑。これだけ好条件が揃えば、良い栽培、酵母の無添加、亜硫酸の賢明な使い方などによって、特別なワインが生まれないはずがありません。しかも、途方もない可能性を高レヴェルで実現できる偉材や逸材も、各地に出没。かくして叡智と情熱にあふれるポルトガルの新世代が、近年の「ワイン革命」を着実に導いてきました。とりわけバイラーダとピコ島からは目が離せません。チーム・ラシーヌが選び抜いた《新時代のポルトガルワイン》は、いずれも酸がみずみずしく、果実味豊かで複雑、軽やかで澄んだ味わいが特徴。13生産者のうち、9生産者は10月リリース、ダォンの4生産者は来年1月にリリース予定です。ご期待ください。

ルイシュ・ロペシュ
 ポルトガルワインを探す中で、ルイシュ・ロペシュに出会わなければ、これほどまでにも、ポルトガルワインに入れ込まなかったでしょう。この30年間、素晴らしいワイン人に会ってくることができましたが、その中でもルイシュは特別な存在です。彼は、自己表現としてのワインを造るだけでなく、周りをまきこんでムーブメントを起こし、若くて才能のある造り手を育て、時代を創る、そのような人です。日本における、ブルース・ガットラヴと似た点があるかもしれません。彼のワインには、見せびらかしや派手な果実味は皆無で、静かに自分が求める味わいの表現が感じとれます。

*ルイシュ・ロペシュの歩み 

 バイラーダにあるワイナリーに生まれ、醸造学を学び2007年に学位を取得。さらなるビオディナミと醸造を学ぶためにコント・ラフォンで研修し、2009年にオーストラリアに渡りました。その後、ドイツでの研修を経て、ダォン地方のキンタ・ダ・ペラーダで醸造責任者として働き(2006~2015)、 同地域でアントニオ・マデイラの立ち上げにコンサルタントとして参加、複数のワイナリーと緊密な関係を築いてきました。伝統と先進技術の共存するブルゴーニュや、世界のワイン市場でクオリティワインとして認知の広がるニューワールドでも醸造経験を積んだルイシュは、「クラシック/モダン/ナチュラルなどワインのスタイルによらず、こよなくワインを愛する」と話します。フランスで働いていた頃ピエール・オヴェルノワを1週間にわたり探訪したが、その時のディスカッションは忘れられない経験であり、醸造中の亜硫酸添加の是非について、とことんまで質問を投げかけたのだそうです。またそこで偶然クロード・クルトワに会ったことも、彼にとってナチュラル・ワインの理解を深める貴重な経験となりました。

*ルイシュ・ロペシュ、語る
キンタ・ダ・ペラーダでは9回収穫して、去ることにした。そして妻と二人で私達自身のブランドを創ることにした。錬金術師であり、アーティストであり、また作品を生み出す者として、私は自分自身を表現しなければならないと感じていた。自分が望むワイン、できるだけ透明感のあるワイン、私が選んだブドウの味わいと、ワインを造るときに私が生きているエネルギーを示すワインを造ることにした。他人のために働くことも素晴らしいが、自分のワインを持つことは、私たちのビジョンと経験を豊かにしてくれる。若い頃すでに私は家族のもとで、畑仕事、主にブドウ栽培と、ワイン造りに明け暮れていた。
 9年後、私は雇い主に転じて、一つのプロジェクトを実現することにした。自分自身のワインを造るという夢をかなえるということほど素晴らしいことはない。それはブドウの個性を探求し、かくも素晴らしい仕事すべてを表現するとうことなのだ。

Moreish モーリッシュの誕生
 2013年から自身の銘柄のワインを少量造り始め、2022年以降は、バイラーダ地方、コインブラの街の辺のブドウ農家からブドウを買い、友人のワイナリーを間借りしてワインを造っています。コンサルタント業の合間を縫ってのワイン造りなので、自身のワインの年間生産本数は1000本以下。何度も足を運んで畑を選び、ブドウ栽培家と関係を深めていくと、畑からすべての工程において積極的にかかわっていくことの重要性が改めて身に染みた、といいます。またそれらの畑はバイラーダ地方のDOバイラーダではなくIGベイラ・アトランティコに分類されるエリアにあり、いわゆる銘醸地とは認識されてこなかったため、古い品種構成の古樹のブドウ畑や、オリーブ園、果樹園がモザイク状に点在しています。
 ルイシュがブドウを購入する畑は1980年代に植えられた、ビカル種とフェルナン・ピレシュ(別名マリア・ゴメシュ)種。そこまで古い樹齢ありませんが、ライムストーン土壌で垂直的な味わいのワインができることから、このエリアのワインに目を付けました。栽培はルイシュがかかわるまで徹底したビオロジックではなかったのですが、栽培家が除草剤を使わずに手入れしてきたので、畑の状態がとてもよかったことも決め手になったそうです。

*モーリッシュ
 ルイシュは自身のワイン造りのプロジェクトをモーリッシュ(Moreish)と名付けました。英語でMore+ish、「つぎつぎと杯が進む、もっとほしくなる」といった意味で、彼が醸造修行で各国を渡り歩いていた間に耳に残っていた言葉だといいます。「多くの素晴らしい生産者が言うように、食事が終わった後に、ボトルが空になっているワインがいいワインだ。そんなワインを造りたい」と、ルイシュ。まさしく彼のワインには味わいの透明感と飲み心地の良さが備わっており、本人は自分のワインをglou glou(グルグル。仏語で“ごくごく”と喉の鳴る音)なワインだといいますが、それだけにとどまらず、品位のある味わいに仕上げられています。

*新たなプロジェクト 【ドミニオ・ド・アソール】 

ギレルメとルイシュ

 ダォン地方でのルイシュのこれまでの実績が、新たなプロジェクトへの参加に繋がりました。同地域に誕生したてのドミニオ・ド・アソールで、2021年収穫から協働作業が始まりました。ポルトガルの中でも、エレガントで精妙なワインが生まれる可能性がきわめて高いダォンで、ビオディナミで栽培し、その土地のまぎれもないテロワールを映し出す傑出したワインの生まれる予感が、すでに今からしています(まだ瓶詰めされていません)。
 ブラジル出身のギレルメ・コレアの一族を中心とする大きな資本を背景に、ギレルメがマネージャー、ルイシュ・ロペシュがコンサルタント、ルイシュの愛弟子/相棒であるジョアォン・コシュタが栽培と醸造を担っています。ギレルメは、大学で経済を学んだ後、2000年にトスカーナ州のイタリアソムリエ協会が認定した初のブラジル人ソムリエとなったとか。2006 年と 2009 年にブラジルのソムリエ・チャンピオン、ラテンアメリカ全体の最優秀ソムリエなどの数々の栄誉を授かり、南アメリカを代表するソムリエの道を歩みました。その後インポーターに転身し、現在もブラジルで優良ワイン専門の輸入会社を経営しています。
 そんなワインビジネスの申し子のような人物と豊かな資本力を背景に、森に囲まれた広大な農園のゆったりした雰囲気の中で、ルイシュ・ロペシュ、ジョアォン・コシュタが参加するドリームチームが結成され、本格的に動き出したのです。それは彼の究極の夢を実現し、ワイン愛好家や専門家を喜ばせ、ダォン地域と彼の愛するポルトガルの価値を高め、エレガンス、典型性、ミネラル感を備える、ベンチマークとなるようなワインづくりを目指しています。
 人柄もさることながら、醸造感覚とワインへの見識の深さから、他の生産者からはすでに「ワイン界のナショナルスターだ」とも評価されている、ルイシュ。これからのポルトガルワインシーンにおいて重要人物になること、間違いありません。 

 
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