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『ラシーヌ便り』no. 206 「ラシーヌが歩む、ポルトガルワインの新時代 」

【ポルトガル、新しい世界の始まり】
 6月6日からフランス経由で、ポルト周辺を訪問してきました。ポルトガルワインの取り組みの経緯については、昨年ラシーヌ便り6月号no.194( http://racines.co.jp/?p=18493 )とno.195号( http://racines.co.jp/?p=18633 )にお知らせしましたが、今回の訪問はこれまで歩んできたネットワーク造りの総仕上げと言えるでしょう。
 思えば、2015年8月に初めてポルトの空港に降りてから8年、本命の生産者に出会うまでにはかなりの年数を要しました。あの時は、事前のリサーチ不足もあって「ロングリスト」が整わず、ダン地域のど真ん中に滞在していたのに、郷土料理にも出会えずじまい。「国籍不明、無個性、価格は高いし、まだまだだなー。これだったら、国境を越えてすぐのスペインワインの方が何倍も素敵、料理も新鮮でない魚を焼いただけ」と、単純に思ってしまいました。

2017年2月 パリ
 それでも、ポルトガルワインのことはずっと気になっていて、2017年2月にパリのワインバーで、数人の造り手のいる試飲会に参加したり、ワインバーに通ったりしました。当時の印象は、いわゆるナチュラルなワイン造りに向かっているとはいえ決め手に欠け、味わいが平板で面白くない、というさんざんな印象でした。

2018年3月 リスボンへ
「面白いワインがでてきている」と聞いて、急遽リヨンからリスボンへ。フランス各地の空港からもポルトガルへはたくさんのフライトがあり、2時間余りで着きます。東京から大阪に行くような容易さで、魅惑的な異文化の街に行けるのですから、ポルトガルが人気観光地なのはもっともなことです。訪問先は、リスボンから北へ車で2時間、 トレシュ・ヴェドラシュ地域の【ヴァレ・ダ・カプーシャ】へ。これまでも何度か出会っていたのですが、親類や一族が所有する慣行農法の呪縛から抜け出るのに時間がかかったのでしょう。キンメリジャン土壌を活かした海を感じさせる味わい、リリースまでの熟成期間が長く、確かな腕と先見性にとむペドロ・マルケシュの、真骨頂ともいうべきワインが生まれ始めていました。親切なペドロは、その時数人の仲間のワインを紹介してくれ、【キンタ・ダ・セッラディーニャ】との取引が始まりました。

ヴァレ・ダ・カプーシャ フォッシル・ブランコ

 

セッラディーニャ ヴィーニョ・ティント

 

2019年7月 【キンタ・ダ・エルメジェイラ】の登場 

 リスボン滞在3日の間に、たまたま瓶詰めが終わったばかりの新人のワインに出会ったのが、【キンタ・ダ・エルメジェイラ】ブラジルでワイン商をしていたリカルドが造る瓶詰まで亜硫酸無添加を前提としたワインです。さらにパリにもどって、【アリバシュ・ワイン・カンパニー】自身のルーツであるアリバシュ地域の高標高のワイン文化保全に精魂を傾ける、驚くべき期待の新星たちと出会いました。この頃には、他にもフランス・イタリアのヴァン・ナチュールの影響を強く受けたワインが次々と登場してきており、ポルトガルに新しい味わいが生まれました。

アリバシュ サロート・レッド

 

エルメジェイラ クリシュトヴァン

2020年2月 コロナ禍ロックダウン直前のパリでの出会い
 パリに来るたびに、寄っていたワインバーで出会ったのがルイシュ・ロペシュ作のモーリッシュ・ブランコ2015でした。味わった瞬間に、「ついにポルトガルにも、このような味わいが登場した! 控えめで清らかで、知的な核があり、でしゃばらず、まるで素敵な友達と話しているみたい」と思いました。2022年5月にようやくルイシュその人と出会い、思っていたとおりの、笑顔の素晴らしい、経験豊かな人でした。クラシック/モダン/ナチュラルなどワインのスタイルによらず、こよなくワインを愛するルイシュですが、フランスにいた頃の忘れられない経験の一つは、一週間にわたって、ピエール・オヴェルノワに通ったことだそうです。醸造中の亜硫酸の是非について、とことんまで質問を投げかけた、といいます。 

・ポルトガルワインの新時代

ルイシュ・ロペシュ

「漆黒の液体、アルコール度数が高くて、多収量のためエキスがない。大柄で単調、白ワインも薄い石鹸水のよう」と思っていたポルトガルワインですが、すぐ近くのフランスでのヴァン・ナチュールの大きなうねりは、ポルトガルの次世代に感動を与え、瞬く間に広がっていきました。優れた土壌、各地に適した数々の固有品種、畑にいるといつも風が心地よく、冷涼な気候、極端な昼夜の寒暖差、そしてフィロキセラのいない高樹齢の畑、これだけの恵まれた条件がそろっているのですから、良い栽培をして、酵母添加をせず、亜硫酸の使い方を工夫すれば、数年後には素晴らしいワインが生まれないはずがありません。中でも、【ルイシュ・ロペシュ】は世界のワイン産地で醸造家として経験を積み、【キンタ・ダ・ペラーダ】で醸造責任者を務めてきましたが、彼のワインは、醸造技術者が造るヴァン・ナチュールであり、また、その周辺に働く若者たち、ピコ島のリカルドとアンドレが造る【エントレ・ペドラシュ(秋リリース予定)】と、【ジョアン・コシュタ】らに新しい世界を伝えました。 

2022年5月コロナ禍ロックダウン後のこと
 ルイシュに会いにバイラーダへと出かけると同時に、もう一人注目をしていた人物が【ルイシュ・ゴメシュ】。塚原が「次回ポルトガルに行くときは、この人のワインを飲み、会いに行かなくては」と決めていた人物です。生産本数が少なく、ポルトガル国内でもなかなか出会えませんが、運よくリスボンの近くのレストランで飲むことができました。驚いたのなんのって、「バガ品種から、なんと見事な味わいだろう。この地ならではの個性と洗練を備えた、スパークリングワインがあるだろうか?」と、言葉を失いました。後日、ポルトガル人の、ある著名な醸造家に会った際、2人のルイシュについて「ルイシュ・ロペシュはナショナル・スターだ。ルイシュ・ゴメシュは、別世界のワインを造り始めている」という絶賛の言葉を聞きました。彼らを訪問する日程の合間に、大西洋の真ん中に位置するピコ島をはるばる訪問し、誕生まもない造り手2人との取引が確定したことは、ラシーヌ便り195号にお知らせしたとおりです。

2023年6月ルイシュ・ロペシュと仲間たち、ドリームチームの出発
 そしてこの度の訪問では、サプライズが待っていました。これまでのラシーヌのポルトフォリオには、ダン地域のワインがありませんでした。しかし実は2021年から、ルイシュが参加する新たなプロジェクトが始まっていたのです。ダンの【ドミニオ・ド・アソール】は、ローマ時代の遺跡が残る、森に囲まれたヴィッラのような広大な敷地の中に、高樹齢の畑が広がっています。栽培はルイシュの右腕ジョアン・コシュタ、醸造はルイシュ、経営とマネージメントはブラジル出身のギレルメ・コレアとその家族。ギレルメは1997年にフィレンツェでのソムリエ修業中に、ジャン・フランコ・ソルデラを訪ねて以来親交を重ね、ブラジルでバイヤーとして働くようになった時には、カーゼ・バッセほか数々の重要ワインをブラジルに紹介してきた目利きで、まさにワインビジネスのために生まれてきたような、温容を湛えた人物。確かな資本を背景に、賢明で、何よりワインを愛してやまないオーナーと、敏腕なルイシュたちのチーム、今後ここから生まれるワインが楽しみでなりません。このドリームチームについては、詳細が決まり次第お伝えします。
 以上、ラシーヌのポルトガル開発を振り返りました。2018年7月にポルトガル第一便が届き、ちょうど5年になりますが、ラシーヌ開発チームとしても一段落着いたと胸をなでおろす思いです。 

ローマ時代の泉の写真

 

ルイシュとギレルメ

 2023年度は2回に分け、既存の生産者も含め、あらためてお披露目をして、ご案内申し上げます

第一弾 今秋ご案内予定の生産者
◆ミーニョ
エドムン・ド・ヴァル(新規)

◆トラズ・ウズ・モンティシュ
アリバシュ・ワイン・カンパニー(取引開始から3年目)

◆バイラーダ
ルイシュ・ロペシュ(2年目)  

◆リシュボア
キンタ・ダ・セッラディーニャ(5年目)
ヴァレ・ダ・カプーシャ(5年目)
キンタ・ダ・エルメジェイラ(4年目)  

◆ピコ島
エントレ・ペドラシュ(新規)
ティトズ・アデガ(新規)
アデガ・ド・ヴルカン(新規) 

第二弾 冬以降ご案内予定の生産者
◆ダン
ジョアン・コシュタ(新規)
ドミニオ・ド・アソール(新規)

◆バイラーダ
ルイシュ・ゴメシュ(新規)
ミラ・ド・オー(新規) 

 
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