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『ラシーヌ便り』no. 194 「ラシーヌのポルトガルワインの歩み」

【ラシーヌのポルトガルワインの歩み】

 4週間を超える出張を終え、5月11日に帰国しました。今回は、前半はヴィニタリー後にイタリア各地を訪ね、後半はポルトガルを訪ねました。
 ポルトガルワインとの取り組みは、試行錯誤の旅をかさね、漠然とした像が少しずつ姿を鮮明になりながら、ようやく2020年にCapuchaSerradinha、COZs、Ermegeira、そしてArribas Wine Company の5社が揃いました。そして、まだリリースされていませんが、Luis Lopesが造る素晴らしいバイラーダのワインが少量ながらすでに入荷済みで、リリースを待っています。今回の出張は、この6社との取引から見えてきた「ポルトガルの今」を確認することと、開発の仕上げともいうべき作業の為に長く滞在しました。その結果、まったく予期していなかったことですが、AzoresのPico Island (アソーレス諸島のピコ島) を訪ねました。(ピコ島訪問記録は、来月のラシーヌ便りでお話しさせていただきます。)

 ラシーヌは西ヨーロッパの主要産地で、実際に何度もフィールドワークをかさねて、これはというワインを選び、皆さまにご紹介してまいりました。が、結果的にポルトガルはどうやら、その最後の国になってしまいました。
 実際は、優れたポルトガルワインを探し続けていたのですが、ラシーヌの開発ティームが現地を訪問したのは7年前がはじめてです。そのときは、いずれも北部を中心に周ったこともあり、事前のリサーチ不足のせいもあって、ほとんど感銘を受けることなく無収穫で戻りました。
 「漆黒の液体、アルコール度数が高くて、エキスがない。大柄で単調、白ワインも薄い石鹸水のよう」と、愚痴ばかり。サラザール独裁政をうけた国内志向型生産の後遺症や、量産型の協同組合支配などのせいか、旧式な作り方が目立ちました。凡庸なワインでなければ、(一時のスペインのように)フランス流を意識したワインばかりでした。
 というわけで前回以前には、小規模で自社で栽培醸造しているワイナリーには出会えませんでした。ポルトガルワイン界は、何回目かの変動のさなかにあり、とくにナチュラルワインの新しい流れは明確ではなく、外からは捉えにくかったのでした。
 ご存じのように1990年代終わり頃から、ポルトガルワイン界には変化の兆しがみえ、各地に意識の高いワインリーダーが台頭し、グループでも活動しはじめてはいました。ですが、自らの作りたいワインを自らの感覚のままに作ろうとする、若手の小生産者が登場するのは、この10年ほどのこと。そして、ここ数年のあいだに飛び切りの若手生産者がめきめき腕を上げてきました。
 4回目となった、リスボンを中心とした前回のポルトガル訪問の際、その潮目の変化をようやく捉えることができたのです。 

 ポルトガル全土は縦長の小さな国土ですが、北から南、海岸と山間部、標高差など、栽培環境は変化に富み、樹齢は高く、自根が残っています。歴史ある国ですから、建物の壁は厚く、巨大な地下セラーや、今では建設できないような醸造設備に目を見張るばかりです。これだけの条件が揃っていて、飛びぬけてすごいワインができないはずがない。実際のところ、最近続々登場するワインは面白いものだらけです。
 地球温暖化のため、世界各地で栽培環境に大きな変化が見られます。平均気温の上昇、乾燥と雨不足の極端な繰り返し、気候が荒っぽくなり、酷暑の時は熱風がふいて、ブドウが干からびてしまいます。ポルトガルのブドウ栽培環境は、そのような変化からは今のところ恵まれているようでした。地域による差はありますが、寒暖の大きな差、吹き続ける風のゆえか、病害は少ないようで、雹や霜害の話しはあまり聞かれませんでした。2018年、2021年も驚くばかりのワインに出会いました。何よりも、多くの産地が特別な土壌で構成されていて、古樹も多い。このような産地なので、ordinaryレベルでもいいワインができるのですが、有機栽培で、誠実と優れた感性から生まれるワインには感動しました。
 リスボンを中心に動き始めたポルトガルの新しい流れは、1990年代にロワールでヴァン・ナチュールのムーヴメントが若者を中心に始まった当時のことを思い出させます。ひとにぎりの真に優れたヴァン・ナチュールが現在の大きな流れを引っ張ってきました。
 ラシーヌがこの数年ようやくご紹介することができたポルトガルワインは、いずれも軽やかで澄んだ味わいをもつ、選び抜いた自信作。酸がみずみずしく、果実味豊かで複雑、草の香りが心地よいが青臭くない。どのキュヴェも個性の違いが鮮やかに見てとれ、酒質が素晴らしい。ポルトガルの新世代達は始動したばかりですが、本当に素敵です。安易さなどみじんもなく、しかも楽しいワインです。次の登場者達が産むワインは、今までになかった世界を表現し始めていると確信した旅でした。リリースにはまだまだ時間がかかりますが、どうぞご期待ください。 

 

キンタ・ダ・エルメジェイラ、キンタ・ダ・セッラディーニャ、ルイシュ・ロペシュ

左:キンタ・ダ・エルメジェイラ(リスボン):リカルド・メーロ
中:キンタ・ダ・セッラディーニャ(リスボン):アントニオ・マルケシュ・ダ・クルス
右:ルイシュ・ロペシュ(バイラーダ)

 

ティアゴ・テレスとアントニオ

ティアゴ・テレス(左)とアントニオ(右)のジョイントプロジェクトであるコズ(COZs) リスボンにある、モンテユントという丘陵地帯のブドウでワインを造っている。

 

ヴァレ・ダ・カプーシャ(リスボン) 弟マヌエル(左)と兄ペドロ(右)

ヴァレ・ダ・カプーシャ(リスボン) 弟マヌエル(左)と兄ペドロ(右)

 


 
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