『ラシーヌ便り』no. 207 「クロ・ド・キュミエール 」
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定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー シャンパーニュ, エルヴェ・ジェスタン, クロ・ド・キュミエール, マルゲ
【クロ・ド・キュミエール】
エルヴェ・ジェスタンが作るClos de Cumières 2012が、ついにお目みえです。
近年、素晴らしいシャンパーニュが次々と登場し、話題の絶えることのないシャンパーニュ地方ですが、Clos de Cumièresの登場は、歴史に刻まれる出来事となるでしょう。
エルヴェはこの畑をボルドーでネゴシアン業を営む弟さんと一緒に、2011年秋に購入しました。エルヴェは、このクロの特別優れた可能性を多くの関係者に紹介しましたが、誰も購入に至らず、「これは、畑が私に引き継がれることを望んでいる」と確信し、エルヴェの息子(1989年生まれ)の将来の為と、ジェスタン家の事業として購入しました。シャンパーニュには“クロ”は31あるとされていますが、エルヴェによれば 以下の5つのみが“クロ”として認められているということです。
1) Le Clos du Moulin (2,2 ha), à Chigny-les-Roses
2) Le Clos des Goisses (5,5 ha), à Mareuil-sur-Ay,
3) Le Clos du Mesnil (1,84 ha) au village du Mesnil-sur-Oger (歴史は1698年に遡る)
4) Le Clos Saint-Hilaire (1,04 ha) à Mareuil-sur-Ay と
5) Clos de Cumières 0.5ha
Clos de Cumièresは、1768年に創設されました。建物の壁に1768 と記されているのが読み取れます。垂直式のプレスには1899 と記されています。購入して10年を経た今も、建物は廃墟めいた姿をしていますが、この建物がどのように修復され、順調に再建されていくのか楽しみです。2012年当時、新しいレギュレーションを受けて、今後歴史の浅いクロは「クロ」を名乗れなくなり、上記の5つだけがクロとして残る、と、エルヴェは言っていましたが、Clos de Cumièresと名乗る許可をなかなか得ることができませんでした。史実に基づき書類を整理、提出し、認可がおりるのに10年近くかかり、そのために、2019年9月に予定していたリリースが4年近くも遅くなってしまいました。しかしその分、理想的な熟成を経たのですから、これほど喜ばしいことはありません。まだ熟成香は現れていませんので、あと数年は待っていただいたら、途方もない世界が現れるでしょう。繊細で、飲み手に語りかけてくるかのようなシャンパーニュです。最上のコンディションならではの味わいが命です。平行輸入により高価格で流通していますが、そのようなワインは本来の姿を破壊したもので、残念でなりません。
2023年7月18日オフィスで、皆で乾杯をしました。コルクを嗅いだだけで、鼻腔からお腹までじわじわと香りが満ちていくことを感じました。一口味わうと、液体のなめらかさにおどろき、また身体の中を通っていく様子が、明確に感じられ、胃が大きく波打ちました。その内に、頭の後ろの毛穴が広がることを実感し、汗がでてきました。まだ余韻は続き、なかなか二口目に移ることができません。この印象は私の個人的なものですが、静謐でエネルギーがこもっており、他のメンバーも、静かにワインを感じ、対話をしていたように思われます。抜栓二日目は、息をふきかえしたかのように、活き活きとした味わいです。
Clos de Cumièresの畑は、2011年末に購入した後は、ヴァンサン・ラヴァルによって、馬で耕作されました。初ヴィンテッジは2012年で、2022年までが、ルクレール・ブリアンの地下セラー深くに、キュヴェ・ジェスタンと共に眠っています(上写真)。
エルヴェが、1997年にデュヴァル・ルロワ社で始めた、ビオディナミで栽培されたブドウによる《シャンパーニュ醸造方式》は、マルゲとのプロジェクトを経て、遂に自らの所有畑での作品づくりとなりました。
「Clos de Cumièresには、私のいままでの経験と思考の全てが注がれている。十数年前の私と今の私は、全く違っていて、はるかに進化しているのです」と、明快に言い切るエルヴェ・ジェスタン。すでに、10年の時を経て、熟成していますので、近いうちにリリースをしますが、希少な1本を手にされた方は、是非5年ほど待って楽しんでください。
Biodynamie et Champagnes (Fabrice Dehoche LIRALEST2022 Editions Dominique Gueniot )より
「Clos de Cumièresは0.5haの畑に、1965年にシャルドネとピノ・ノワールが半分ずつ植樹されました。言うまでもなくビオディナミで栽培されていますが、エルヴェは認定を求めていません。この区画はそれまでルクレール家の所有で、パスカル・ルクレールによってビオディナミで耕作されてきました。クロには18世紀に建てられた母屋といくつかの建物があり、そのうちの一つには今も19世紀の圧搾機が置かれています。
100%木樽で10ヶ月間熟成された後7月に瓶詰され、10年近くもの間瓶内熟成されました。酸化防止剤は全く使用せずに醸造。この巨匠の署名とも言うべきキュヴェです。全てモノアネで、最大でも年に2500~3500本しか生産されず (2017年には霜のため1200本しか造られなかった)、とても貴重なものです。ドザージュは年毎に異なるが全く行わないか、最小限(2グラム以下)に抑えられる。2012年のミレジメは2020年の春にデゴルジュマン、2022年にリリースされました。(翻訳:ラシーヌ)」