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『ラシーヌ便り』no. 200 「フランス出張」

【フランス出張】

 11月3日から11月21日までフランスに出張し、アルザスからロワール、ルシヨン、ブルゴーニュ、シャンパーニュを訪ねました。
 フランスへは、昨年秋から1年ぶりの訪問でしたが、昨年耳にしなかった現象がおきていることに気づきました。親世代のワイン造りの大変さを見て育った子供たちが親の跡を継がず、大手にドメーヌごと売る現象が起き始めていて、この現象がこれからも続いていくだろうと聞きました。現在40歳から60歳の世代にある優れた造り手達の次世代が、継がなくなり始めているのです。また、これから親のあとを継ぐ世代では、若者たちは好んでヴァン・ナチュールを楽しんでいて、世代交代後のワインスタイルが大きく変わってくる予兆を感じました。ブルゴーニュのような、歴史と高い評価と価値が定まった世界では、大きく流れは変わらないかと思っていましたが、すでに新しい動きが出始めています。その一部をお伝えしたいと思います。

 

◆11月12日 ネゴシアンPierre-Henri Rougeot (ムルソー村)にて。
 昨年の出張時に、ワインバーでたまたま出会った、醸造過程で亜硫酸ゼロのワインですが、自然な伸びやかさがあり、雑味がなく、芯のしっかりとした味わいなので、すぐに訪問しました。【ピエール=アンリ・ルジョ】のネゴシアンの在り方は、新しい流れの象徴ともいえます。この幸運な出会いに、大変喜んでいます。
 今年40歳になるピエール=アンリは、10年以上も樽を販売する仕事をした後、2010年に実家に戻りました。当時、叔父と父が醸造していたため、将来のためにひたすら畑で働き、ドメーヌの畑は2020年にビオ認証を取得しました。実家を継ぐと同時に、2017年にネゴスを開始。

ピエール=アンリ・ルジョ

 とても面白いのは、生産本数を増やすために買いブドウをするのではなく、もっと他のクリュを作りたいと思って、ドメーヌのブドウの一部と買いブドウを交換してワインを造っていることです。5代続く実家には10haのムルソーの畑があり、他にヴォルネイ、サン・ロマン、ブルゴーニュ・ブラン合計3haを所有。ムルソーに生まれ育ったので仲の良いヴィニュロン仲間はたくさんいて、彼らの畑での仕事ぶりもよくわかっている。信頼と互いの理解がないとブドウの入手はとても困難で、ましてやビオで栽培されたブドウは手に入るものではありません。有機栽培のムルソーのブドウは宝物。そこで、ドメーヌのムルソー用ブドウの一部を、仲間が作る他のクリュと交換することにしました。こういうタイプのネゴス運営は、インサイダーとして背景にドメーヌがあればこそ実現できることです。2022年はコルトンとシャサーニュ・ヴィラージュとプルミエ・クリュを作ることができたと喜んでいました。「今40歳、醸造を始めたのが遅いので、できる限りのことに挑戦したい。休日でも働く」とのこと。

 ワインは無理な抽出をしないので色調は淡いが、飲みごたえがある。酸が高く、いきいきとした味わいで、エレガント。このようなブルゴーニュを探していました。生産本数が少ないので、入荷数はわずかですが、ラシーヌの新しい宝物です。

 

◆11月4日 Jean-Pierre Frick 訪問記より。
 2022年は厳しい旱魃に見舞われたが、果汁は思ったほど失われなかった。8月15日にわずかだが雨が降り、それでも助かった。ブドウの状態はとてもよく、フリックでは収量は2021年よりはましな程度にとどまった。

 「リースリングは発酵が難しい品種で、昔は補糖せずに度数が11度になれば万々歳だった。最近は、アルコール度数を低く仕上げるのに苦労する」とジャン=ピエール。
 クレマンは、最近は気温が高すぎて、クレマンに適したセックなワインが作れない。ミュスカを軽くマセラシオンをすることで、微かなタニンが心地よいパンチをもたらしている。このような独特のニュアンスが加わり個性ある味わいとなっている。

ジャン=ピエール・フリック

 ジャン=ピエールとのお付き合いは25年ほどになりますが、10年くらい前までは、まさか今のようなスタイルになるとは思ってもみませんでした。テイスティングした2022ヴィンテッジの28種のワインは、1つを除いて現段階で亜硫酸がゼロ。しなやかで、軽やか。亜硫酸が低いリースリングにありがちな重さがなく、微かな揮発酸が心地よい。丹精した栽培から生まれるエネルギーと熟練のたまものと、つくづく思いました。
 マセラシオンしたワインは、一般にマセラシオン特有の癖に支配され、みな同じようなワインになることが多いのですが、ゲヴュルツもピノ・グリも年を追うごとに持ち味を発揮している。ジャン=ピエールが楽しんでいる自由さが感じられる。リリースが待ち遠しいです。

 

◆11月14日 Bruno Schueller訪問。
 セラーが拡大されて、扉も新しくなっていました。2021年はベト病がひどく、平年の10分の1しか収穫なく、近隣の有機栽培をしている知り合いからブドウを買いました。村の老人の話では、1928年は3度もベト病にみまわれたが、それ以来の酷い作柄だった。今年は平年並みの収穫で樽にワインが満ちて嬉しそう。迫力を感じるワインばかりで、楽しみです。

 アルザスの2022年は、かなり局地的に雨の状況が異なったようで、幸いなことにHusseren-les-Château では7月29日に雨が降り、8月にも適度の雨が降った。収穫期間は一度だけ半日雨にみまわれたが、おおむね天候に恵まれた。5月に雹害で1haの30%失ったものの、厳しい旱魃の年としては平年並みの収量となった。
 まだ樽に入った2020年のPinot Gris、Riesling H、 Pinot Noir Bildstoeklé、 Pinot Noir – Le Chant des Oiseaux、Pinot Blanc はどれも熟した豊な果実といきいきとした飲み心地で、時間をかけて待ちたい。
 ビン詰めの終わった2021 年(収穫少ないので、全て各品種1種ずつ) は、難しい年ならではの面白さでポテンシャルが高い。
 2022年は是非マグナムとジェロボアームをお願いしようと思います。

 

◆11月8日 Thierry Puzelat近況。
 写真は、船便での出荷を待つ Vin Nouveau 2022。
 お嬢さんのZoéとLouiseの希望で、今年からラベルが変わりました。
 ヌーヴォー用のブドウは、近くで長年有機栽培をしているピエールさんから買ったもので、9月1日収穫。白く濁っていると還元が出やすくなるので、飲み心地よく、楽しめるヌーヴォーに仕上げるため、一番粗い濾過をしてビン詰。SO2ゼロで酸は低いですが、果実味たっぷりでバランス良い。船便のため1月リリース予定です。

ティエリー・ピュズラ

昔のピュズラ家の写真

集荷を待つヌーヴォー

 

◆11月15日 Nicolas Renard訪問。
 会うなり、「こんなに樽がいっぱいになったのは、とっても久しぶり。ha当たり30hl も収穫できたよ」と嬉しそうなニコラ。樽を手に入れるのが大変だった。ニコラのワインはフランス国内にほとんど出ていないので、パリでは「ニコラはまたロワールを出て、南に行ってしまった」という噂を聞いてびっくり。

洞窟で暮らすニコラ・ルナール

 ロワール川南のSaint-Martin-Le-Beau 村にあるla vale Biseau(lieu dit) はモンルイのシュナン0.5haを 2018年から栽培している。すぐ近くににあるPintray (lieu dit) はシャルドネを造り、Rochecorbon 村のヴーヴレの畑 les plantes (lieu dit)0.8 haは 2021年の11月に借りた。樹齢50年が30%、80年が70% 森の中にあるシュナンの畑は、隣人がいない。2022年初収穫で、ニコラはやっぱりシュナンの人。
 2022年は多くのヴィニュロンは少なくとも80-100hl/ha 収穫した。2021年、ベト病ひどく収穫はほとんどなかった。そのようなヴィンテッジの翌年は、花芽がたくさんつく、それで多くの造り手では2022年の収量は過去最高となったらしい。1991年もひどいベト病の翌年に、豊作となった。水っぽく味がないところに、旱魃と暑さで、房数が多いと甘い水のようなブドウになったという。

 

◆11月15日 Claude Courtois訪問。
 「私のワインはミネラルが溢れている。気候変動など、関係ない」とクロードが言うように、最近のクルトワ家3人のワインは、瑞々しく、digestibilité (消化が良いこと) そのもので、清らかな水のような飲み心地がさらに増してきている。どんな作柄にも振り回されない強さがあり、味わいはどこまでも優しく、まさに真の個性というべき世界を表現できるようになった。

クロード・クルトワ

 「樹を高く仕立てて、葉をたっぷり繁らせて、葉が土中の水分をどんどん吸い上げる。旱魃でもここは地下に水がある。1983年にこの地にやってきた時は、白く固まったセメントのような畑だった」とクロード。 
 周りは大量生産の作り手に囲まれる中で、さんざん馬鹿にされながら羊、山羊、豚、牛、ロバ、30羽以上の家禽類などを飼って、堆肥を作り、ブドウの樹の間の畝に腐葉土をすきこみ、30年を経た今、微生物が活動する柔らかな土となった。現在38種の品種が栽培されている。

「エビデンス」の収穫時のジュリアン
11月7日、今年最後の収穫の日

 一般にワイン造りの継承は難しいのですが、さいわいクロードはジュリアンとエティエンヌに確かに受け継がれ、それぞれが新たな境地を表現しています。彼らのワインは、飲み手を深い感動へといざなってくれます。ル・テロワール時代からの長い取引を、いつも喜んでくれていますが、こちらの方こそ感謝しかありません。

 ありがとう、クルトワ家のみなさん!

 
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