『ラシーヌ便り』no. 191 「フランス出張など近況のご報告」
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定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー 出張, シャンパーニュ, フランス, 月からの呼びかけ, ヴエット・エ・ソルベ, ラエルト・フレール, ジョゼ・ミシェル, アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール, 映画
すでにお伝えしたことも交えながら、近況をご報告させていただきます。
1)Vimeo 有料配信のお知らせ
【シャンパーニュ・ヴェット・エ・ソルベ】を営むベルトラン・ゴトローの1年に焦点を絞ったドキュメンタリー映画 “Le Champagne a rendez-vous avec la lune” (邦題「シャンパーニュ、月からの呼びかけ」日本語字幕ver.)が公開され、現在Vimeo でもって有料で見ることができます。
https://vimeo.com/ondemand/crdvljp/597056157
この映画は昨年7月に世界中で公開されましたが、反響は大きく、Zoom でロンドン、USA、イタリアの各地でベルトランを交えた交流会が催されました。
ベルトランは私にこう語っていました。「初めは5分か10分の映像を撮りに来ると思ったんだ。ところが監督のエリー・セオネは1年半も通い続けて、この作品にまとめあげた。これは私だけでなく、ビオディナミを実践してきた仲間たちの仕事を現している。日本でも映画会を一緒にできたら嬉しいね。」
ラシーヌでは井原摩耶社員を中心に翻訳をはじめ、専門家のアドヴァイスと助力を受けながら日本語の字幕を制作しました。是非ベルトランのシャンパーニュを飲みながら、この映画を楽しむ会を開催したいと思います。
2) 2年ぶりのフランス出張
10月14日から1カ月間フランスへ出張し、パリに戻ってPCR検査を受け、11月13日の便で帰国しました。長らく訪問できませんでしたが、お会いできた造り手の方々はどなたもお元気で、喜びながら互いに現在を確認しあいました。あらためて、長年の取引をありがたく思いました。
地球温暖化による栽培の困難化は厳しい現実ですが、素晴らしいワインを造りだす人々は、知恵を重ね柔軟に対応しながら苦境を打開しているように思えました。それなりの栽培方法では、それなりどころか出来損ないのワインになりかねません。何度もお話ししているので今更なのですが、有機栽培にもいろんなレヴェルがあって、それなりの栽培では、せいぜいそれなりの味わいしか感じられない。最終的には造り手の腕次第ですが、特に亜硫酸の低いワインは残酷なほど畑での仕事の質が問われる、とあらためて思った訪問でした。
幸運な発見と新しい出会いも少なからずありました。この出会いは必ずやラシーヌの新たなエネルギーとなっていくと信じています。後半あいにく風邪をひいてしまいましたが、寒いさなかの移動続きという無理が重なったからでしょうか。今後の仕事のあり方を考える良い機会でもありました。
*探し続ける
旅程は、10月16日から23日までロワールとアルザス。25日から30日はブルゴーニュ。11月1日から7日にシャンパーニュ。その後ボジョレからローヌを周り、コルビエールのマズィエールを訪ねて帰国しました。
その間に長く取引いただいている方々以外に、10人以上もの「新しい」造り手を訪ね、驚くほど美しくて魅力あふれるワインとも出会うことができました。困難な時代であっても、素晴らしい造り手との出会いは、「探し続ける」大きな勇気を与えてくれます。入荷順にご案内させていただきますので、楽しみにお待ちください。
3)出張中のお話
① Le Barav(パリのワインバー、レピュブリック駅近く)
バー内のショップでワインを購入して、+6ユーロで飲める。テラスを入れると80人ほどが皆ワインを楽しんでいます。客が次々と回転するから、いったい1日に何人が来るかしら? 食事はうんとシンプルなものが数種、ワインはヴァン・ナチュールばかり。特別人気の高い造り手のものはありませんが、良いセレクションです。「これはヴァン・ナチュールならではの光景。他のワインではこれほどの人が集まるだろうか?」
② マ・カーヴ・フルーリー(パリ、サン・ドニ地区)
いつあっても、素敵なモルガンヌ・フルーリー!
「最近のお気に入りのおもちゃなの」と言って、自動ピアノ演奏器を聴かせてくれました。
シャンパーニュの大きな家に生まれ、パリで大衆演劇風のコメディを学び、いつもとても楽しい話をしてくれる。「去年この通りは人通りがなく、とても寂しくて、何か楽しいことをしたかったの。そしたらムッシュー・フルーリーという、今フランスでただ一人この楽器を作っている人が、これを売ってくれた。ノエルにこの通りで大きな音でかけて過ごしたの」
モルガンヌが店を構えるサン・ドニは、日本では歌舞伎町のような所。「外出禁止期間は本当に辛かった。人のいないパリなんて。特にこの通りはいつも人が溢れているから。だから家に帰って、畑で働いていたの。2021は天候がひどくって、平年の1/4しか収穫できず、長く働いていてブドウも売ってもらっていた2人が、実家でワインを造るようになったから、さらに生産本数が減ってしまったの。」
2020年のリリース以来、目覚ましい味わいの変化にお気づきの方も多いと思います。今年入荷のウルトラディションは入荷後瞬く間に完売し、蔵元でも売り切れとなりました。クオリティの高さを考えると、大変お手頃で貴重な存在です。
数年かけてセラー設計の改良を重ね、大樽での長い熟成を増やし、また25年の古樽も大切に使う。栽培の更なる向上も加わり、全てが力となって、ワインが今までにない深さを現し始めました。さらに今のセラーの壁を壊して拡げ、コンクリートの大きなタンクをヴァン・ド・レゼルヴの熟成用に作る予定。ポンプを使用する回数を減らして、より大きなハーモニーを感じられる味わいを目指しています。オーレリアンのワイン造り、更なる深化が楽しみです。
現当主の若き造り手アントナン・ミシェルによれば、2019年の収穫はブルゴーニュのユベール・ラと、実家でおじいさんであるジョゼと収穫。その後、ジョゼ・ミシェルを引き継ぎました。聡明な造り手ゆえ、伝統のスタイルを守りながら今後生まれるワインが、とても楽しみです。
ジョゼ・ミシェルの地下カーヴには、1912 年からのシャンパーニュが保存されています。「第一次世界大戦が始まり、この年は皆戦争に行って、女性たちがシャンパーニュを造り続けたんだ」と、アントナン。
某国建国70年のお祝いに、政府からの依頼で2本デゴルジュマンした「1949」の1本をいただきました、白トリュフが炸裂、時間と共に柔らかな甘さと酸が静かに立ち上ってくる。ジョゼさんが亡くなられる一月前の2019年10月16日にデゴルジュマンされたボトル。ムニエ100%、SO2ゼロ。貴重な体験を本当に感謝いたします。
収穫後初めての雨の日に。
「2020年は暑かったけれど、収穫2週間前に涼しかったので、フレッシュさが保たれた」とか。キュヴェごとの鮮やかな特徴があり、どこまでもドライだけれど、甘美な風情を感じる。彼らが2018年から1er Cruを造れるようになれて本当に良かった。「長男のロマンがワインの様子を見てくれるから、また日本に行きたいわ〜」と、アリス。
ロマンの初ヴィンテージがリリースされました。
Domaine La Petite Empreinte /Roman de Moor
ドメーヌ・ラ・プティト・アンプラント / ロマン・ド・ムール
バックラベルのメッセージ
「ワインを飲むなら友達と、家族で、恋人と、ベロンベロンに酔っ払った仲間と。
もしひとりぼっちなら猫か犬と一緒に楽しむことを忘れないで。
分かちあって、ほほ笑み、エモーション
あなたの望むままに。でもCOVIDだけはまっぴらだ」
親譲りのユーモアと正義強さを感じさせてくれるロマン。ド・ムール家に新しい世代の登場です。
⑥ 今回 幾人もの造り手からよく聞いた話 — たとえば:
「コロナで、お金持ちのワイン好きの人達が、暇があるから、造り手に手紙を書いて送ってくるんだ。今までにこれくらい(10cm以上) きたよ。もう20年、30年も前からずっと飲んでいたって調子の美辞麗句のすごい手紙で、褒めてくれているんだ。けど要は、直でケース買いしたいので、訪問したいって。でもね、そんなに昔から飲んでくれているんだったら、昔だったら、簡単に訪ねて来られたわけだし、買うのも簡単だった。2015を 飲んで素晴らしかったって言ったって、ずっと飲んできているんだったら、2015はあと10年さわっちゃいけないってわかるはずだ。みんな、ネットで500ユーロや1000ユーロでもって、転売している。ワインってそんなものじゃない。だから僕は、ずっと取引あるところにしか案内しない。」