『ラシーヌ便り』no. 212 「Racines in Paris」
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定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
大変、お久しぶりです。とはいえ、やっとのこと、いや、気合を入れ直して、「合田泰子のラシーヌ便り」を書きました。まずは、遅ればせのご報告。
Ⅰ. “Racines in Paris” 2026年2月2、3、4、8日 @ Restaurant MAISON Sota Atsumi
ラシーヌを起業してから、23年。その前社に当るル・テロワールから数えると28年。ほどなく、独立して30年となります。短いながら私たちの歩みを振り返り、「本物のワインを求め、称える」“In Search & Praise of Real Wine” というラシーヌの原点に立ち返り、本年2月初めに“Racines in Paris”と銘うったイヴェントを催しました。
その目指すところは、
① 長年に私たちを支えてくださった《造り手の方々への感謝の念》をお伝えしたいこと。
② 《ナチュラルワイン・ムーヴメントが、なぜ日本で広がり、定着したのか》、その理由を世界中の人々に知ってほしいこと。
③ 日本人の心意気を、《Restaurant MAISONの料理と、ラシーヌのワイン》を通じて味わっていただ
きたいと願い、レストランの協力を得て、ディナー1回とワインバー3日間を共催。
ラシーヌ・イン・パリのイヴェントは、「ロワールのサロン」「Wine Paris」「RAW WINE」などの試飲会期間に当たるため、MAISONのファンはもちろん、造り手たち、パリのワインショップ、海外のインポーターなど、多数の方々にお越しいただきました。
《ラシーヌ・イン・パリを振り返って》
[ワインの空輸] 年末にパリまで空輸し、地下倉庫に納入。この荒仕事には、担当者と、フォワダーの代理人の方に大変お世話になり、すべての方に感謝のほかありません。
[パリに全員集合] 1月29日に関係者、パリに集結。準備と運営には、経験と献身的な作業が不可欠。輸入部の高橋雄希社員はもとより、パリにて長年ソムリエで鳴らした建部洋平さん(株式会社MeRCelation)、パリ住まいの頼もしきラシーヌ卒業生二人組(鬼田貴広さんと竹原宙希さん)が奮闘。パリで曲者揃いの合宿には濵田彩里社員も飛入り、楽しい思い出に。
[回る舞台Restaurant MAISON] Sotaシェフと竹林ソムリエの名コンビに脱帽と乾杯!そして、お店のスタッフの皆さんの総力でもって、やっと私たちの夢が実現できました。
《私のワイン生活》
顧みると、ワインの仕事に私が携わってきたこの30年あまりは、日本を含む《世界のワイン》が劇的な変貌をとげた時期でもありました。でも、《ワインの世界》が変身を遂げたのは、栽培醸造面での技術革新を駆使する大企業系ワイン製造工場のかたわらで、我が道を行く素晴らしい造り手たち、その動きやムーヴメントがあちこちに見つかります。つまるところ、ワインに命を吹き込んで表情や姿かたちを与えるのは人間であり、なかでも飛び切りその技芸に優れた造り手が次々と現れ、世界的なスターとなっていきました。
一つ一つのワインに出会いの思い出があり、それらの思い出深いワインと共に歩んできた道を振り返ると、いい時代に仕事ができて幸せでした。
それにひきかえ現代は、異例な現象に振りまわされています。たとえば
-気候変動によるワインの味わいの変化、
-混沌とした政治経済や円安、新禁酒主義や社会の分断現象、
-予想しにくい市場の動きや環境の変化、
世界の造り手と、(とりわけ日本の)ワイン輸入業はともに困難の最中にあります。が、困難な時こそ、原点に帰り、目指してきたことを再確認し、未来を創っていかなければならない。まさしく今は、そのような時です。
私にとってワインと共に歩むとは、ワインを物としてでなく、隣にいてほしい大切な存在として慈しみ、最上のコンディションで届けること。困難な今、理想を実現することをこれからも目指していきたいと思います。
Ⅱ. パスカリン・ルペルティエから驚きのプレゼント
“La Revue du Vin de France” 702号,Pascaline Lepeltier(著), Art de vivre//Vu d’ailleurs(欄) の1ページを費やして、“Racines in Paris”についてご紹介いただきました。パスカリンから事前になにも聞いていなかったので、この記事を知った時は大変驚きました。
※パスカリンの寄稿文はこちらのリンクをご覧ください:https://racines.co.jp/?page_id=28092
2016年11月、大統領選挙の直前にニューヨークの“Rouge Tomate”を塚原とともに訪問。しばし互いに大好きなシュナン・ブラン談義にふけり、夢のような時を過ごしました。素顔の彼女は、ワインとサービスへの敬意と情熱、仕事に対する誇りにあふれ、そして明るく誰に対しても垣根のない人柄です。私にとって「ワイン界のジャンヌ・ダルク」であり、ずっと憧れの眼差しでもって、その活動ぶりを追ってきました。
ロワールで生まれ、大学では哲学を学び、24歳で学問からワインの世界に方向転換をしました。2008年に活動の場をニューヨークに移しましたが、きっと、ニューヨークという多様な才能を持つ人々にあふれ、経済的にも、巨大なエネルギー空間である街が、彼女の純粋で、はてしないワインへの献身とプロジェクトを可能にしているのでしょう。2018年に女性で初めてフランス最優秀ソムリエに選ばれ、MOFを受賞、その他数々のタイトルを得てきたソムリエであり、2022年に大著“Mille Vignes. Pense le vin de demain” を出版「ワインとは何かを根底から考え直すきっかけを多くのワイン人に投げかけています。いまだにアンチ・ヴァン・ナチュールがはびこるワイン界に、ヴァン・ナチュールを正しく注目に導いた英雄(ヒロイン)です。
“Madame Goda, La leçon d’une pionniere”「マダム合田 ある先駆者からの学び」と題する寄稿文中、パスカリンは私たちの一つ一つの出会いの記憶を美しい文章に紡いでくださりました。タイトルからして、私の活動への賛辞でなく、私からの「学び」として受け止めてくださった深慮ぶりに感銘しました。
また「彼女はこのように、陰にいる存在でありつづけてきた―ベッキー・ワッサーマンや、マルティーヌ・ソーニエと同じように。しかし私は、私たちが今日このようにワインを飲んでいるのは、こうした信念ある女性インポーターたちの、表にはでにくい地道な仕事のおかげだと思っている」という、一節があります。わが敬愛するベッキーと驚嘆すべきマルティーヌは、二人ともアメリカのインポーター界では「ファーストネームだけで知られる」稀有な存在であり、そのお二人と並び称されるのは、過褒とはいえ光栄ですが、ラシーヌの全活動への評価であると甘んじて受けとめ、ただただ恐縮しつつ心から感謝しています。
合田泰子
注:パスカリン・ルペルティエ。2018年、女性で初めてフランス最優秀ソムリエに選ばれ、現在はニューヨークのチェンバーズ“Chambers”を営み、かつソムリエを務めながら、活発に発信しつづけ、常にワイン界の最前線で活躍中。
注:ベッキー・ワッサーマン。1937-2021。ニューヨーク生まれ。1968年からブルゴーニュに住む。フランソワ・フレール製オーク樽をアメリカに輸出する仕事を経て、1979年にワインの輸出会社 “Le Serbet” (ル・セルべ)をボーヌに創立。小規模な優れた生産者を発掘・育成しながらアメリカに紹介。ブルゴーニュのドメーヌワインが未知の世界であった時代に、彼らの名声を築く土台となった。叡智が輝く喩えようのない笑顔と、朗らかな声の持ち主で、とてもチャーミング。責任感は抜群。底抜けに親切な人柄で、やがてブルゴーニュの母と慕われた。ル・セルベの「卒業生」たちが、その後ワイン界を代表する重要な人物に育っていった。
https://racines.co.jp/?p=17723
注:マルティーヌ・ソーニエ。1934-2025。アメリカにファインワイン・マーケットを築いた伝説の女性。パリ生まれ。戦争中は祖母一族が住むマコンに疎開し、収穫から醸造を経験。1964年にアメリカ人の恋人とカリフォルニアに移住、結婚。戦後の混乱期に20代でKLM、Air France などの航空会社の広報で10年近く働き、ビジネスセンスを鍛える。1969年にワインの仕入れに携わり、「マルティーヌズ・ワインズ」を起業。未経験ながら天性のワインの感覚とビジネススキルで、ワイン輸入の大海原に乗り出す。ワインが未知の世界であった時代に、シャトー・ラヤス、アンリ・ジャイエ、ルロワといった比類ないワインに出会うことができ、即座に仕事にするのは、競争相手がいない時代とはいえ、破格の行動と評すべき。
https://www.vinography.com/2025/02/martine-saunier-1934-2025-in-her-own-words
文中URLにて、パスカリンの寄稿文の日本語訳を紹介するにあたり、訳者たちからの付言。(塚原/木村)
私たちラシーヌは、この度のパスカリンからの言葉を、この上ない栄誉と受け止めます。と同時に、今一度 《ヴァン・ナチュール》の世界的発展の歴史を振り返り、かつて革命的な存在であった《ヴァン・ナチュール》が、今後、「思想と内容に欠ける空疎な形式」と化さないよう肝に銘じ、常に目覚めたインポーターと飲み手とが交感しつつ、日本に存在し続けることの重要性を改めて思います。






