合田玲英のフィールド・ノートVol.48 《 ヴィニタリーあれこれ 》
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《 ヴィニタリーあれこれ 》
毎年恒例、4月のヴィニタリー。今年は特に、ときめくキアンティはないものかと、会う人会う人におすすめを聞いて回った、がそう簡単には見つからない。
ヴィニタリー前には、ワイナリー訪問もした。キアンティ・クラッシコの地域はいくつもの入り組んだ小さな丘にブドウ畑がひろがり、ときには古い段々畑が作られた当時のままに残っていてワインの歴史に浸るには絶好の場所だ。近年は栽培方法も、バイオロジック農法だけでなくアルベレッロ(ワイヤーを張らない一本仕立て)仕立てや、パーマカルチャー、不耕起栽培を実践する人も増えている(生産者たちは、それでもキアンティは有機農法の観点からあまりに遅れているという)。けれど醸造となると、新しくこの人は、という人はなかなかいない。
ヴィニタリーでは、とあるキアンティのワイナリーでコンサルタントを務める人物から、あまりに前時代的な低亜硫酸添加ワインへの考え方をまくしたてられて、唖然とした。いわく、「亜硫酸添加の少ないワインは、外国へ輸送後も品質劣化がないように過度なフィルターや清澄をしているし、多くのその他の化学物質が添加されているんだよ。でも低亜硫酸添加ワインとうたうために、他の化学物質で代用しているんだ」。
そういうワインもあるだろうけれど、こちらはその手のワインの話はしていない。その人物がコンサルタントをしているワイナリーは、ブドウ樹の仕立てもテラスも畑の手入れも古い醸造施設も、本当に美しかったので、もったいないと思った。そのワイナリーが従来から抱えている顧客や、オーナー自身がワインをつくっているワイナリーではないという事情などを考慮すると、仕方のないことだけれど。
ワイナリー訪問をすると、次のようなことがよくある。発酵がだいたい終わる3月頃に醗酵槽から試飲をして、この先の樽熟成を楽しみに思いながら、前のヴィンテッジの樽試飲に移る。が、ヴィンテッジをさかのぼるほど、澱引きのたびに亜硫酸が添加されているようで、味わいの中の光がなくなっていき、ボトル試飲する頃には暗~い味わいになってしまっているということがしばしば。そういうとき、相手からはうんざりされるとわかっていても、しつこく言って申し訳ないけれどと、亜硫酸の話をしてしまう。あくまでも僕の好みはというかたちで。
《 Wine Without Walls 》
ヴィニタリーでは“5 star Wines”呼ばれるワインガイドブックを出版している。去年来た時には気づかなかったが、今年はプーリアの【ファタローネ】のブースを訪れた時に、表彰状が飾ってあったのが目に止まった。ヴィニタリー出展者の中から選ばれるので、上位は有名どころの大きなワイナリーに占められるが、その中に2つの条件つき特別枠が設けられた。
審査条件は以下の通りである、
1)総亜硫酸添加量が40mg/L以下(酵母が発酵中につくりだすものも含む)
2)以下の技術の不使用:マイクロオキシジェネーション、コンセントレーター、逆浸透膜、
温度コントロール発酵、人為的にマロラクティック醗酵を止めること、ブドウ畑での灌漑
さらに2つのカテゴリーに分けられ、選考される。
a) 亜硫酸無添加
b) 総亜硫酸添加量が40mg/L以下(酵母が発酵中につくりだすものも含む)
選考委員は以下の面々、
・アリス・フェイリング(委員長):ワインジャーナリスト。自然派ワインに関する記事、著作多数。
・ピエトロ・ヴェルガーノ:トリノでナチュラルワインを紹介する、レストラン(コンソルツィオ)、バー(バンコの名で親しまれる)を経営。
・ディエゴ・ソルバ:ボローニャで、立ち飲みもできるワインバー(タバッロ)を経営。
・パスカリン・レペルティエール:フランスのアンジェ出身。ベルギー、アメリカでナチュラルワインレストランにいくならここ。ルージュ・トマトを経営。
・セバスティアン・ミユレ:リヨンでイタリアワインも扱うナチュラルワインエノテカを経営。
5人5様、ヨーロッパやアメリカでナチュラルワインシーンを牽引する5人のプロフェッショナルたち。選考基準は以下の通り。アリスは自身のブログで、これらの項目を選考基準に決めようと思った時、これほど有用なものだとは思っていなかったと綴っている。
生命力(Liveliness)、グラス内での変化、バランス、飲み心地、エモーション(emotional impact)、香味(Savouriness)、透明度(Transparency)、テロワール(Sense of place)
これらのワインはWine Without Wallsというカテゴリーの中で選ばれている。カテゴリー名の由来については分からなかったが、選考されるワインはジョージア、スロヴェニア、チリなどの国のワインも含まれていて、ワインのスタイルや国などが”壁・隔たり”なく選考されている。毎年20生産者ほど選出されていて、知っている人には見慣れた顔ぶれだが、世界に向けて出版されるワインガイドに、この項目ができることの意味は大きい。
ジリオ島の【アルトゥーラ】は2年続けて、選ばれており、いわゆる銘醸地ではないが、島という隔離された環境でつくられているワインにもスポットが当たることは、イタリアの地方性を理解する上で大切なことだ。そして驚いたのが【ファタローネ】の受賞だ。イタリア国内でもどちらかというと普通のレストランで見かけることのほうが多く、ヴィニタリーでもヴィヴィットからではなく、プーリアのパビリオンに小さなブースを出している。ナチュラルワインの定義については、置いておくとして、少なくとも上記の条件は満たした中での受賞ということで、とても嬉しい。
ヴィニタリーでは2012年に小規模で自然なワインづくりをしている生産者達の集まりである、ヴィヴィットのブースができた。その後、3年目だったか、ヴィニタリー内での開催をこれ以上続けるのは難しいかもしれないという話もきいたが、ヴィヴィットがあることによる集客力が大きいので、継続されることとなった。
僕が初めてヴィニタリーに来たのは2013年(合田 玲英のフィールド・ノート2013年5月)。2年目のヴィヴィットはすでに大盛況で、僕自身もそこに入り浸っていた。ヴィヴィットの会場は壁に囲まれていて、他のワイナリーのスペースに比べると、うんと狭いけれど、活気にあふれていた。その後、フィヴィやヴィニタリービオといったグループもヴィヴィットと同じパビリオンでブースをだしており、年々、ビオワイン生産者がヴィニタリー内で占めるスペースは増えている。そして6年目の今年はヴィヴィットブースの壁が取り払われていて、フィヴィやヴィニタリービオとも一体感がうまれていて、来場者としても邪魔な壁が消えて清々しい気分だった。
と同時に改めて、ビオ、ナチュラルでグループを作っている生産者たちだけでなく、【ファタローネ】のように、一般の各地方のブースで出展しているがヴィヴィットにいるような生産者たちの考えに極めて近い生産者が、まだまだいるはずだという考えに至る。
去年50周年を迎えたヴィニタリーが、イタリアの24州から、1州1生産者を選び、その内フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州から【レ・ドゥエ・テッレ】が受賞したことは記憶に新しい。団体やつくりのスタイルに関係の無い、いわば利害を度外視したワイン選考が行われることは、素直に喜ばしいことだ。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2007年、2009年:
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫
2009年秋~2012年2月: レオン・バラルのもとで研修
2012年2月~2013年2月:ギリシャ・ケファロニア島の造り手 (ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修
2013年2月~2015年6月:イタリア・トリノ在住
2017年現在、フランス在住
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