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ドイツワイン通信Vol.47

公開日: : 最終更新日:2015/09/01 北嶋 裕の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ

ドイツワインの基礎知識・品種編

 8月23日からドイツを訪れている。到着初日の夜は雨で、翌日は曇りで肌寒く、その次の日は青空が広がった。二週間前まで続いていたという猛暑と乾燥はどうやら一息ついて、落ち着きを取り戻しているようだった。ファルツのブドウ畑はどこも青々として、私が見た限りでは乾燥のダメージを受けたブドウ樹はごく一部に留まっていた。保水力のある土壌と、水はけの良い土壌との違いで、土壌の中に石が多い区画の中には、乾燥の影響で葉が枯れ、房の成熟が止まり、枝の先の方についた実が未熟な状態だった所もあった。しかし生産者達は皆楽観的だった。今年の収穫は昨年よりも2, 3日から1週間前後遅くなるだろう、と言う。リースリングは10月10日頃から始めるそうで、開花が6月中旬から約1週間前後かかってゆっくりと進行したので、ブドウの果粒は大小入り交じり、房の風通しが良く黴や病気になりにくいそうだ。優れた生産年となることが期待されているが、それも今後の天候次第である。

 

 さて、前々回のドイツワイン通信で、ドイツワインの基礎知識をまとめてみた。その時挙げた主な項目は:

(1) ドイツワインの個性を特徴づけているのは冷涼な気候である。ワイン生産地域が分布する緯度は樺太南部に相当するが、メキシコ湾流によりブドウ栽培が可能な気候となっている。

(2) 川沿いの斜面にブドウ畑を造ることで、光合成に必要な太陽熱エネルギーと暖気と水はけを確保している。平地にもブドウ畑はあるが、一般に優れたワインは斜面から産する。

(3) ワイン生産地域は大きく南北二つに分けることが出来、それぞれ分布する土壌に特徴がある。北西に位置する産地のラインガウ、ナーエ、ミッテルライン、モーゼル、アールは非石灰質のスレート粘板岩土壌が主体である。ラインヘッセン、フランケンから南の産地は石灰質のレス土が様々な厚さで堆積し、その下に雑色砂岩、貝殻石灰質、コイパーから成る地層が広範に分布していることが多い。

以上の基本条件を念頭に置きながら、今回はそこで栽培されている品種について整理する。

ドイツワインの品種の基礎

 ドイツではフランスやイタリアの様に原産地呼称によってブドウ品種が規定されていないが、生産地域毎の主要栽培品種に産地の個性や特徴を見て取ることが出来る。実際にどの品種が主に栽培されているのかを、毎年10月にドイツワインインスティトゥートが公表するドイツワインの統計資料で見てみることにしよう。

http://www.deutscheweine.de/fileadmin/user_upload/Website/Service/Downloads/statistik_2014_NEU_web.pdf

 この資料のÜbersicht/Table 2 (7ページ以下)に、各生産地域毎の2013年の栽培品種と面積、産地の栽培面積に占める割合がリストアップされている。生産地域は栽培面積の広い順にならんでいるので、地理的な位置とブドウ品種の関係は分かりづらいが、大抵の産地ではリースリングが上位に入っている一方、南部のバーデンや東部のフランケンではリースリングの栽培比率は低い。スレート粘板岩主体の産地ではリースリングが圧倒的に重要な地位を占めているが、アールとラインガウではシュペートブルグンダーが産地の特徴になっている。

 Übersicht/Table 3 (9ページ)の栽培品種一覧によれば、リースリングはドイツで最も盛んに栽培されている品種でブドウ畑全体の22.7%を占めている。続いてミュラー・トゥルガウ12.6%、シュペートブルグンダー12.0%、ドルンフェルダー8.0%、グラウブルグンダー5.2%、ジルヴァーナー5.0%、ヴァイスブルグンダー4.5%と続く。

 ここで状況を整理するため、主要品種をいくつかのカテゴリーに分類してみよう。まず、高品質なワインになるポテンシャルを持つものと、日常消費用のワインにされることが多い品種に大きく二つに分かれる。ここで高品質なワインとは、長期熟成能力のある、複雑でフィネスのあるワインとなりうる品種であり、地場品種と国際品種に分かれる。一方日常消費用のワインは、主に地元で消費される地場品種と、大量生産されることが多い交配品種に分類することが出来る。ここで言う交配品種とは、1960年代以降に一般に普及した早熟で収穫量の高い、概してアロマティックな品種を言う。1990年代以降は有機栽培に向く黴や病気に強い品種や力強い赤ワインを産する品種もあり、それらは一概に日常消費用とは言い切れないが、現状では高品質ワイン用の品種とも一般には受け止められていない。しかし今後変わっていく可能性はある。以上を項目別に列記すると以下となる。

1、高品質なワインになるポテンシャルを持つ代表的品種

   (1) 地場品種

   白:リースリング、ジルヴァーナー、ゲルバー・ムスカテラーなど。

   赤:レンベルガー(=ブラウフレンキッシュ)、ザンクト・ラウレントなど。

   (2) 国際品種

   白:グラウブルグンダー(=ピノ・グリ)、ヴァイスブルグンダー(=ピノ・ブラン)、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴュルツトラミーナーなど。

   赤:シュペートブルグンダー(=ピノ・ノワール)、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーなど。

2、日常消費用のワイン

   (1) 地場品種もしくは伝統品種

   白:エルプリング(モーゼル上流)、グートエーデル(バーデン南部)など。

   赤:トロリンガー(ヴュルテンベルク)、ポルトゥギーザー、シュヴァルツリースリング(=ピノ・ムニエ)など。

   (2) 交配品種

   白:ミュラー・トゥルガウ、ケルナー、バッフスなど。

   赤:ドルンフェルダー、レゲントなど。

 言うまでもないけれど、高品質なワインになるポテンシャルがある品種であっても工業的に量産されることもあり、普通日常消費用ワインになる品種であっても、生産者の意欲次第では高品質なワインになることもあるので、上記の分類はあくまでも一応の目安である。地場品種と国際品種の線引きも、例えばシュペートブルグンダーは中世以来ドイツで栽培されているので地場品種とも言えるが、便宜的に国際品種とした。

 上記のうち、特にリースリングとピノ・トリオはDWIドイツワインインスティトゥートがドイツワインを国際市場でアピールする際柱としている品種でもあり、栽培面積や生産量の多さからも少し説明を補足したい。

・リースリング

 よく言われるが、19世紀末から20世紀前半にかけてドイツワインはボルドーの一級シャトーやブルゴーニュのグラン・クリュと同等かそれよりも高価だったが、その立役者こそリースリングであった。遺伝子的にはライン川の原生品種に、恐らくローマ人が持ち込んだトラミーナーが掛け合わさって生じた交配品種に、現在も東欧諸国で栽培されているホイニッシュが自然交配して生じた自生品種である。史料には15世紀に登場する。

 リースリングにまつわる逸話に1786年にトリーアの選帝侯クレメンス・ヴェンツェスラウスが品質の劣るワインを産するブドウ樹(ホイニッシュ)を引き抜き、リースリングに植え替えるようにと命令したという話があるが、実際の史料にはリースリングとは書かれていない。ただ、1744年に現在のファルツでも、ダイデスハイムの領主だった枢機卿が「Alben (Elbling)を今後栽培してはならない、リースリングなど高貴な品種に限る」と指示しているので、この品種は18世紀には高品質なワインを産する品種として評価されていたことは確かなようだ。

 リースリングには独特の酸味とミネラリティがあり、特に辛口ではその良さを認めるにはある程度の慣れを必要とするようだ。構造がしっかりとして自己主張が明瞭で、徹頭徹尾ドイツ的なのがリースリングである。ドイツの文学、哲学、音楽とも相通じるものがあり、近寄り難い面がなきにしもあらずだが、一度慣れ親しんでしまうとその奥深さの虜になるほどの魅力がある。一般に、わかりやすいものはすぐ飽きる。本当に良いものは時間をかけてつきあうほどに、その良さが見えてくる。リースリングはそんな品種である。

・ピノ・トリオ

 2009年頃からドイツワインインスティトゥートがマーケティングに用いている言葉で、ピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)、ピノ・グリ(グラウブルグンダー)、ピノ・ブラン(ヴァイスブルグンダー)のピノ系三品種をまとめて指す。

 ピノ・ノワールは12世紀にラインガウに支院を設立した修道士が持参したという説がある。スレート粘板岩土壌でも、貝殻石灰質土壌でも、雑色砂岩でも、それぞれ個性的な素晴らしいワインが出来ることは周知の通り。

 近年はドイツ産ピノ・ノワールの品質向上が著しい。それには温暖化の影響ももちろんあるが、本当の原因は高品質な収穫を産するクローンの普及と栽培醸造方法の向上にある。1980年代までは赤ワイン用ブドウはブドウ畑の約10~20%を占めているにすぎず、1990年代までは量産に向くクローンが主に栽培されていた。しかも赤ワイン醸造の経験を持つ生産者も少なかったから完熟前に収穫して短期間マセレーション発酵したので、色も香味も薄かったし、甘味を残したものも多かった。

 しかし近年はディジョンクローンや、それをドイツの気候に適応させた高品質なワインを産するクローンが普及し、栽培方法や醸造方法も格段に向上した。ブルゴーニュは距離的にもそれほど遠くないので、生産者達はピノ・ノワールの生産者を訪ねて学び、仲間とノウハウを仲間と共有した。また、ブルゴーニュに限らずニュージーランド、オーストラリアや、例えばシェルターワイナリーのようにオレゴンでピノ・ノワールの扱い方を学び、ドイツで応用している例も少なくない。

 ピノ・グリ、つまりグラウブルグンダーはドイツのブドウ栽培面積の5.2%にすぎないが、過去10年で約2倍に急増している注目の品種だ。果皮が薄く果汁糖度が上昇しやすく貴腐菌が繁殖しやすいものの、アロマティックで酸味が穏やかで口当たりが良く、非常に複雑で華やかで味わい深いワインも出来る。一方ピノ・ブラン、つまりヴァイスブルグンダーは繊細でエレガントな辛口白で、この三つの中では最も地味で控えめな性格だが、却ってそれが幸いして食事には最もあわせやすく品が良い。やや派手目なグラウブルグンダーと、地味で控えめなヴァイスブルグンダーは好対照をなしている。

・日常消費用ワインに使われる品種

 この他にも多様な品種が栽培されているが、高品質なワインを産する品種はどこか肩肘を張ったところがあって、本当はもっと良いワインになれるのに、と不満に思うこともたまにある。一方、ミュラー・トゥルガウ、グートエーデル、エルプリング、トロリンガー、ドルンフェルダーなど日常消費用ワインの中には素直に飲みやすく快適なものや、予想外に美味しいものに出会うと嬉しくなる。リースリングやシュペートブルグンダーで評判の良い生産者は品質への意識が全体に高いので、日常消費用ワインになる品種でも素晴らしく快適なワインを造っていることが多い。例えばリタ&ルドルフ・トロッセン醸造所やエンデレ&モル醸造所のミュラー・トゥルガウである。そういうワインはワインガイドなどの点数は控えめかもしれないが、大抵の場合は値段以上の価値がある。

 

 以上、ドイツのブドウ品種の概略を思いつくままにまとめてみた。産地によって栽培品種が規定されていないので、様々な品種を生産地域に縛られることなく栽培出来るフレキシビリティと、土壌・気候・生産者の綾なす多様な個性がドイツワインの魅力でもある。ここまであれこれ説明しておいて何だけれど、あまり品種にあまりこだわらず、色々なワインを楽しみたい。

(以上)

北嶋 裕 氏 プロフィール:
ワインライター。1998年渡独、トリーア在住。2005年からヴィノテーク誌にドイツを主に現地取材レポートを寄稿するほか、ブログ「モーゼルだより」 (http://plaza.rakuten.co.jp/mosel2002/)などでワイン事情を伝えている。
2010年トリーア大学中世史学科で論 文「中世後期北ドイツ都市におけるワインの社会的機能について」で博士号を取得。国際ワイン&スピリッツ・ジャーナリスト&ライター協会(FIJEV)会 員。


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