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合田玲英のフィールド・ノートVol.18

公開日: : 最終更新日:2014/05/16 ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート

vol.18

1.Festivin Ver3.2初参加

フェスティヴァンは、ぼくにとって今回のVer 3.2が初参加でしたが、それがクルトワ夫妻参加と重なったため、さらに印象深いものになりました。第一部と第二部を合わせて750人もの来場者が来たこ とにまず驚き。そしてクルトワ夫妻も言っていたように年齢層が若いことに驚きました。”ヴァン・ナチュール”がここまで盛 り上がれる対象になっていることにも、二人は感動していました。しかも二人は、プロ用の試飲会ではなく、誰でも参加できて、吐器も無い、飲んで楽しむため の会だということ にも、あらためて感心していました。 18_01

2.クロード&クロディーヌ・クルトワ来日

フェスティヴァンだけでなく、東京と京都の催しにも二人に同行させてもらえました。 行く先々で夫妻に会いに来られた方々が、レ・カイユー・ドゥ・パラディ の古いボトルを持ってきては会の終わりに開けてくださり、その度にクロードは涙を目にため、「アリガト、アリガト」と繰り返していました。 また、ある 東北の小売店の方は彼のお客さんに対して、どのようにクロードのワインを勧めているか(例えば開けてすぐに飲まず、何日か待ち、飲み始めてからも3日間ほ どかけて変化を楽しんで欲しいということ)を伝えると、クロードは感動して次のように言っていました。 「自分の畑でワインを造っているだけでは、日本との 接点はほとんど輸入会社とだけだ。けれども、今回日本に来てみて、本当にたくさんの人たちが今まで私のワインを大事に思い続けてくれていたことが分かっ た。あなた方のようなお客様がいてくれたから、僕はワインを造り続けることが出来た」。 18_02 京都のある会では大きな会ではありませんでしたが、会場が体験したことも無いような、なんとも言えない雰囲気に包まれていました。日本の彼のワインを飲 んできた方々が、どんなに彼が日本に来てくれたことを歓迎しているのかが、すぐに感じとれました。 クロードと彼のワインが10何年以上も受け入れられ、楽 しまれているからこそ出来上がった雰囲気だったと思 います。僕自身はワインを意識的に飲みはじめてから6年たらずだし、レ・カイユー・ドゥ・パラディのワインを開けたことがあるのも数回だけです。なの で、”よく言われるように”前は ずいぶん飲みにくい頃もあった“というのが、なかなか信じられません。話には聞きますが、それならどうして十何年も愛し続けることが出来たのかと思ってし まいますが、彼らのワインを飲み続けてきた人たちはきっと、他のワインとは違った特別な付き合い方をしていたのだと思います。 クロードの言葉をいい換えれば、レ・カ イユー・ドゥ・パラディのワインを飲み続けていたいからという思いで、彼らもまた毎年飲み続け、飲みにくい年があっても信じつづけ、何年か待ち続けてくれ たのだと思います。時が流れてついにクルトワ夫妻が来ることになり、彼らのように愛し続けてくれた方々が、クロードと一緒に飲むことが出来たなんて、本当 に素晴らしいことだと思います。

3.クロードのワイン造りの秘密

フェスティヴァンのことについて書こうと思ったのですが、なんだかクロードの話ばかりになってしまいました。が、最後に一つだけ。「収穫後の醸造中、夜中 に突然目を覚まし何か奇妙な感覚がするからとセラーへ行くと、必ず何かしらの必要な作業が見つかり、その感覚に従って醸造を進めてきた。ただそんなことを 人に話しても、狂っていると思われるだけだった」と、クロード。また何種類ものキュヴェを造っているクロードですが、それについて「各々のキュヴェの醸造 法は、畑の中で不意に頭に降りてきた考えを、ノートに取るかすぐに実践しなければ、その感覚を忘れてしまう。そうしたら、決して同じようなワインを造るこ とは出来ない」と言い、最後に「Il faut ecouter(常に耳を傾けていなければならない)」と結びました。 18_03 奥さんのクロディーヌによると、畑やセラー以外の時間でもほとんどの時間をワインに関する本、特にブドウ品種に関する本(品種の本を読むことがなによりの 楽しみだと言っていました)を読んで過ごしているそうです。 なので、それらの知識に裏打ちされた感覚なのだろうと思いますが、知識だけではないところで五感(六感)を常に張り巡らしているのだと思います。でも、こ れらのことは、”ヴァン・ナチュール”がかなり受け入れられている現在でも、あまり声高に言わない方が良さそうです。クロディーヌは、クロードが本当に孤 独だった、と言います。現在では多くの”ヴァン・ナチュール”の生産者の集まりがありますが、それでも強い個性を持った生産者同士が分かりあえることは、 めったになさそうに思えます。それだけに、飲み手がいるということは、生産者にとって大きな力になるのでしょう。 勝山晋作さんが今回のクロードの来日について、「最後の大物の来日だった」と仰っていましたが、長い間彼のワインを知り、愛し、飲み続けてきたからこそ の言葉だったのではないでしょうか。そしてこれからも、今回書かせていただいた上の世代の方々と同じように、ただしクロードのワインとだけではなく、ワイ ンそのものと向き合って いきたいと思います。 1_1 合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール: 1986年生まれ。東京都出身。 《2007年、2009年》 フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で 収穫 《2009年秋~2012年2月》 レオン・バラルのもとで生活 《2012年現在》 ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中 《2013年現在》イタリア在住
 
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