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『ラシーヌ便り』no. 209 「合田泰子のワイン便り」

 ようやく秋らしい気候になり、ここしばらく毎日のように世界各地から収穫の便りが届きます。FacebookやInstagramで、お気に入りのワイナリーの写真を楽しみにされている方も多いことでしょう。
 去る9月11日から25日まで、アルザス、シャンパーニュとモーゼルを訪問してきました。日本はまだ猛暑が続いていましたが、ヨーロッパでは朝晩は10℃を下回り、念のためにもっていったダウンジャケットが手放せませんでした。

Vouette et Sorbée 収穫の様子

Schueller 収穫の様子

 作柄については、今までは地方ごとの情報をまとめればよかったのですが、今年は、狭い地域の中でも局地的に状況が異なるために、作柄・天候をひとまとめにくくることが難しくなってきています。特に土砂降りの雨や、極端な雹・雷が極限されて集中するため、被害を受けたところと、順調に成育した場所とで大きな違いがみられました。とはいえブルゴーニュでは、おおむね2022年よりも、香りの高いブドウが収穫できたようです。明るい便りが届き始めています。

 さて今回は主に、イタリアのティベリオ2023、フランスのマズィエール2015/2018、2020の収穫の様子について、詳細情報をお届けします。

1)ティベリオ/アブルッツォ

 クリスティアーナとアントニオのティベリオ姉弟から、2023年のヴィンテッジ情報が届きました。几帳面で詳細なレポートから、自分達の仕事を伝えて共有してもらいたいという意気込みが伝わってきました。丁寧な畑の手入れの賜物というべき洗練された味わいは、なめらかなテクスチュアで、透明感にあふれ、「なんと上質な液体だろう」といつも思います。次の一節は、「目標はただひとつ、品種と産地を明確に語るワインを造ること」と言い切る2人の2023年の記録です。

 “3月25日に剪定を終え、5月31日に開花が始まった。その間、3月から5月にかけて雨が続き、春の気温の上昇とともに、うどんこ病が深刻な問題となっていた。6月も雨と曇り空が繰り返し、7月に入ってからは乾燥した天候が続いたが、8月も雨は降り続いていた。だがクリスティアーナ・ティベリオの見方では、このような状況はヴィンテッジにとって悲惨かもしれないが、2021年と2022年、アブルッツォ州では2年続きで干ばつに苦しめられたので、ブドウの樹は十分に快復をし、芽吹きがよく、順調に成長することができた。”

 “結果的には2020年に似て、生育期間は長い年だった。果実は完全に熟したので、複雑な風味と深く長いテクスチュアを持つワインになるだろう。実際、これまでにサンプリングした果実のpHレベルは非常に低く、2022年と2021年の前2シーズンに比べて低く、リンゴ酸のレベルも2022年と2021年に比べて高い。”

 “雨の多い春にもかかわらず、古い葉っぱがカバーしてくれたおかげで、可能な限りうまくきり抜けることができた。私たちはいつものように芽かきを避けた。光合成に重要な葉面を保ち、房を日陰で覆うために、房を葉の中に押し込む作業をした。雨が降り続いたので、病害を防ぐために、この季節の最も困難な時期には、房のまわりのスペースを確保して、房に直接触れる葉だけを取り除いた。
 これはとても大変な作業だったが、その甲斐があった。日射しが非常に強い時期に、日焼けを避けるために十分な葉を残す必要があるからだ。どの葉を何枚残し、どの葉を取り除くか、そのバランスを取るのは経験のみであり、天候に恵まれないこの年にシーズンを成功させるか否かの鍵のひとつである。挑戦し続けた年だった。

成長期の恩恵
 “2年続きの深刻な旱魃のため、恵みの雨は土壌と有機物を活性化させ、根が発達して回復することができた。栽培期間が長かったので、果実が完全に熟し、より複雑なアロマとテクスチュアを生み出し、酸のレベルを保つことができた。栽培期間のどの段階においても、どの区画の芽も房も均質に成長した。”

今シーズンのポイント
 “雨が降り、湿度が高く、シーズン前半にカビが原因のべと病が広がり、心配が絶えなかった。8月になって高温が続き、今度は白色の粉状の胞子が表れるうどん粉病になやまされた。私たちのような有機農法で栽培する生産者にとっては、このような病害をおさえるのはとても大変なことだった。最も重要な時期にトラクターでブドウ畑に入ることができず、私たちはショルダーポンプを使って手作業で除草を行った。
 厳しい選果を余儀なくされ、全体的な収量は少なくなったが、結果としてはおおむね私たちはうまくやりとげたと思う。良いヴィンテッジになるでしょう。”

2)マズィエール/ファブリス・モナンの直談

 《今年の収穫は猪、鹿に荒らされ、その上、マカブーとカリニャンが盗まれ、非常に少ないものとなりました。来年は更に柵を強化して、鹿にも入られないように高くしなければなりません。悩みは尽きません。幸い、昨年は収穫量も多く、ワインも美味しくなっています。
 次に来るときに、熟成中の2022年を試飲していただくのを楽しみにしています。》

 この冬ラシーヌは、マカブー2015とカリニャン2018をリリースします。
 以下は、マカブー2015とカリニャン2018の特徴と、2020年の収穫についてのコメントです。

2020年の収穫後、ファブリス語る
 《次の出荷分の話ね。まずは、マカブー2015。マカブー主体、グルナッシュ・ブラン、ミュスカ、ブールブランのブレンド。少し醗酵中のマセレーションもあるので、タンニンはあまりないが、マセレーションの味はする。その後3年間スー・ヴォワル熟成。その後、補酒をして熟成を継続。
 リッチなボディで、残糖はほとんどなく、ドライ。アルコール度数も高い。僕はこのスタイルが好きで、このスタイルのワインを作ってみたかった。泰子が飲ませてくれたマッサ・ヴェッキアのようなイタリアンスタイルの、白のマセレーション。シュレールの白のマセレーション。とかね。
 例えば、シュレールのピノ・グリの、酸化熟成、スー・ヴォワル熟成、マセレーションしたキュヴェの熟成の仕方は、とても興味深いと思う。自分のマカブー2015についていうと、それらの特徴がいろいろ混ざっている感じ。マセレーションをしつつも、洗練されたジュラの白ワインのような味わいが、僕の根本にある白ワインの味。マセレーションをしてもタンニンが主張しすぎない。加えて、そもそも、この地域に残る、マカブーの古樹は素晴らしい。

 それから、カリニャン2018。アソンブラージュの際に、残糖の多いものは選ばず、ドライな樽をより多く選んだ。この地に来てから数年、畑の耕作の成果が表れてきており、ブドウの果汁の割合が増え、糖度が凝縮されたリッチさは、なくなってきている。耕作をしないと、“日照感”が強く、耕作をすると“鉱物感”が強くなる。2017からしっかりと耕作をすることを始めた。いい結果が出ていると感じる。これは自分にとってとても重要なことで、畑を耕作しないと、深みと、鉱物感を備えたワインはできないと考えている。気に入ってもらえたらうれしい。

 2020年は、収穫が早く、9月の2週目には収穫が終わるので、10月にはマカブー2015とカリニャン2018の出荷準備ができていると思う。
 2020年VTはとても大変だった。難しい。重労働。次から次へと、様々な要因のプレッシャーが多かった。冬はそこまで寒くなく始まり、春は湿度の高い状態がずっと続いていた。ベト病がすごかったが、例年通り、4回だけトリートメントを施した。自分が大切にしている作業は、畑の耕作と、トリートメント回数を減らすこと。その回数を減らすということは、一番重要な、開花の前後にだけ散布をするということ。4月初め、5月初め、6月初め、7月初めの、各1度だけ、ブドウ果に直接散布することになる。以上の散布だけで、今年のような病害の圧が強い年でも、収穫量は多かった。しかし、鳥にもたくさん食べられた。鳥害対策が近々の課題。より多くのワインを造るためにね。そうしないと、、、。
 2020は、雨量も多かったから、ブドウはしっかりと果汁をもって、美しかった。収穫前の2カ月間雨が降らなくても、水の過不足に陥ることはなく、良い収穫ができた。日照も良く、2014年のような、美しいバランスのブドウが取れた。ブドウ果の大きさや、環境や天候等など、2020年は2014年によく似ている。
 グルナッシュは少ないけど、カリニャンが多い。マカブーはたくさんとれて、良かった。

 少しでいいから、安静に保管しておいてね。亜硫酸を使わないので、僕のワインは、すでに酸素をふんだんに摂取している。なので通常、還元香などはないはずだ。瓶詰め前に3~5つの樽をブレンドするので、それぞれの樽の個性が調和するまでに、少し時間がかかるだろう。ラシーヌはリリースを少し待ってくれるだろうが、4年後くらいに飲んでくれたらいいと思うよ。
 近頃は、軽いワインが多くて、全部同じ感じがする。僕は軽いワインは好きだけれど、しっかりとブドウの成分が抽出され、真の深みがあり、“まっすぐな“ワインも好きなので、そういうものをつくろうと思っている。深みを備え、(飲んで終わりでなく)咀嚼する必要のあるワインに興味がある人が、まだいればいいのだけれどね。》

 飲み頃を迎えた、ファブリスが手塩にかけたマズィエールは、冬から春にかけて是非お楽しみください。

※少量入荷のためご案内先は限られます。

 
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