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合田玲英の フィールド・ノートVol.110 《 ワイン造りの栽培/醸造以外の話 》

 インポーターのワイナリー訪問では、生産者とインポーターお互いの近況報告から、入荷したワインの日本での反応、新しいヴィンテッジの試飲、栽培や醸造上の変化などの、ある意味形式的に聞くべきことがある程度決まってしまっている。今年の4月のイタリア出張では、Covid-19による制限が全面的に解禁になって久しく、以前のような外出意欲にあふれた人々の陽気が、去年よりも強く街の様子から感じられた。ワイナリー訪問時にもCovid-19期間中に醸造されたワインのリリースとともに、過去の話としてそれぞれの苦労話、今までの訪問時には聞かなかった話を聞くことが出来た。
 特に多かった話題は人流制限による人手不足の問題。畑の作業では収穫、剪定、誘引など1年のうち季節ごとにたくさんの人手が必要なタイミングがあるが、季節労働者だけでなく家族や親戚であっても違う村に住んでいたり畑が違う村にあったりする場合には(徒歩10分圏内であっても!)、移動が禁止される厳しい時期もCovid-19初期にはあったそうだ。

【Lavoro di Sguadra】
 以上のような話を、各生産者のところで聞いたが、ステーファノ・メンティの考え方は他の多くの生産者とは違っていた。
「同僚の生産者に聞いても働き手がいないというが、【メンティ】では働き手に困ったことはない。そして人手不足にならないように、年間6人(収穫も含め)の正社員のみで出来ることをするようにしている。メンティでは季節労働者は雇わず、正社員にこだわる。例えば若い人が働きたいと思った時に、いつ仕事があるのかないのか分からない不安な状況で、どうやって人生設計を立てられるだろうか。コンゴ出身のランディは5年以上前に農業学校の課程で1年間研修をしてくれた。その後5年以上たってから、【メンティ】で働きたいと応募してきてくれた。雇用する側はされる側を信頼して、チームを作りその中で出来ることをしていくべきだと僕は考える。雨が降ったら畑で出来ないことをやればいいし、エチケット張り、海外の顧客への書類作成だって、ワイン生産者が責任をもってやるべき仕事だ。僕には畑作業の大変な時期だけ、人を雇うということ自体に無理があることのように思える。」trust, trust, trust、とLavoro di Sguadra=チームワークの重要さを訴えるステーファノの声は力強かった。

ステーファノ・メンティ

 似たような話を、シチリア州パレルモ近郊の【協同組合ヴァルディベッラ】とトスカーナ州マレンマの【ポデーレ 414】でも聞いた。「ここ数年ヴィンテッジの変化ということ以上にワインがおいしくなったと思うのだが、なにかワイン造りの面で大きく変化したことがあったのか」という質問に、両者とも以下のように返事が返ってきた。「栽培と醸造において大きな変化はない。けれどワイン生産に関わる全ての人とのコミュニケーションの時間を多くとれるようにしている気を付けた。Covid-19の期間中は、ワイナリー訪問が減ったということもあったので、より多くの時間をチームのために使うことが出来た。」

【ヴァルディベッラ】は10の栽培家からなる協同組合で、醸造家はここ10年以上変わっていない。けれどワイナリーという組織全体でどういう製品を生産し販売していきたいか、どういう仕事をしていきたいかということを、栽培家含め改めて話し合い、どのような栽培をこれからしていくか。これまでしてきたつもり、分かっていたつもりのことも、再確認をして栽培から醸造、販売まで一貫した認識を持てるよう徹底したという。

広報担当のヴァルテル

【ポデーレ 414】はシモーネ・カステッリが醸造と栽培ともに責任者の家族経営より少し大きい規模のワイナリーで、10人以上のスタッフを抱えている。この数年は醸造や栽培の指示出しを今までよりも丁寧に時間をかけて、理論を説明するところから始め、実際に一緒にやってみせたという。すると従業員の理解も意欲も全く違うものになり作業の結果に大きな違いがでる。結果としてワインの品質の向上につながったのだろう、とシモーネは話す。

シモーネ・カステッリ

 いいワインを造るということは多くの要素が絡み合っており、一つの明確な答えがあるわけではない。しかし信頼と意志疎通の重要性を話す生産者達の姿に、僕もこうありたいと思った。

 

~プロフィール~

合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住

 
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