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『ラシーヌ便り』no. 203 「2月23日 私たちの独立記念日」

【2月23日 私たちの独立記念日】

 まもなく2月23日を迎えます。この日は、私たちに、合田と塚原にとって、忘れられない事件が起きた日であるだけでなく、ラシーヌの創設へと導いた記念日であり、原点を考える独立記念日なのです。

 「今年も2月23日がまもなく来るなー」と考えていると、あの日のできごとが鮮明に思い出されます。

 2003年2月23日、何が起きたかわからぬまま、天塩にかけたLe Terroir を離れることとなりました。が、何とか1日を普通に振る舞ったものの、翌日は長男の大学入試でした。受験に出かけた後、ショックで立ち上がれず寝込んでしまいました。「すぐ、自分たちの会社をつくる。ぐずぐずしていられない」という、塚原の新会社創立宣言に押し出されるようにして、フランスに発ちました。 最初の1週間は、ぼやっとして体調を整え、「大変なことになってしまった」と悲しく、情けなく思うと同時に、お世話になった造り手たちの顔が思い浮かび、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。 

 2-3日して、連絡した造り手たちから少しずつFaxで連絡が届き始めました。「ワイン・ビジネスは人と人とのつながり。僕たちは泰子の言葉でワインを伝えてほしい、がんばれ!」とすぐにクロード・クルトワとティエリー・ピュズラ、ジェローム・プレヴォーから連絡をいただきました。ジュゼッペ・ラット(『ラシーヌ便り』no.82:http://racines.co.jp/library/goda/82.html )からも「人生はエモーションだ。前進あるのみ」とFaxが届き、毎日不安ななか、一つ一つの手紙がどれほどうれしかったことか。よく、取引を続けてくださった、と忘れてはいけない日です。今から思えば、ブローカーのピーター・ヴェザンもよく、あの状況を調整してくださったと思います。

ジェローム・プレヴォー アンセルム・セロス

 あの事件のお陰で、独立できたと思いますが、独立に至るまで支えていただいた造り手の方々への感謝は生涯忘れることはありません。早20年、今「独立記念日」って言えることに、皆様に感謝です。心よりありがとうございます。

 

 変わりゆくワイン市場

 ワインの市場も大きな変化がおきています。終わりのない並行輸入マーケットへの対抗策として、一部の造り手からは、小売店へのワインの販売を停止し、飲食店のみへの限定販売を、強く求められ始めています。いわく、「私たちは“物”として売買される商品を作っているのではない。私のワインを喜び、楽しんでくれる人に届けてほしい。ネット販売はどこのだれかわからない人に“物”として売買される。これが転売されて他国に流れるのだ」。対抗策としてバックラベルのコードを控え、どこのインポーター経由で並行市場に流れているか厳密に管理し、インポーターには日本市場の中での販売先からの転売をとめる方策を求めます。

 日本国内では、特定ワインを幸運にも入手した一部の方の、心ない転売などによって、本当にそのワインを楽しみたい方のもとにワインが届かなくなる事態が迫ってきました。メルカリやヤフオクで転売されたり、海外マーケットに持ち出さられ呆れるばかりの高価格で販売されているワインの惨状には、目を覆いたくなります。商人資本主義の帰結なのか、利欲の末路なのか知りませんが、いずれにしても、健全なワインの楽しみ方やワイン・ビジネスとは無縁な、欲得ずくの商行為としか思えません。

 

ラシーヌ20周年

 ラシーヌは、今年4月に創立20周年を迎えます。 細かくいえばル・テロワール創設から数えて25周年、私が八田商店でバイヤーになって35年の大きな節目です。今世界は、大きな不安に包まれています。 思いもしなかったトルコ・シリアの大地震、ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症の蔓延の後遺症、アジアの先行き不安な情勢。そして何よりも大きな問題を抱える日本は、経済・社会情勢が困難の最中です。このような時代をまじめに生きぬき、健全なビジネスを続けることは、たしかに難しいことかもしれません。でも、どのような時代にも、素晴らしいワインは、味わいの中に輝きを感じさせ、明るく気持ちを切り替えてくれます。明日を信じ、ワインを通して、皆さまに喜んでいただけるインポーターでありたいと念じつつ、これからも変わらず努力して参る心づもりです。

 

感謝とともに

合田泰子・塚原正章

 
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