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社員リレー・エッセイ 北嶋 裕 (輸入部)

「ドイツ・オーストリアのワイン輸送事情」

 輸入部の北嶋です。入社5年目ですが、年季の入った昭和世代です。このエッセイのバトンを渡してくれた佐藤さんとは同じ大学の出身ですが、もしかしたら彼女の親御さんと同世代かもしれません。しかし、私からは同僚たちとあまり世代間格差を感じないのは、この会社で働く皆さんの心が広いからでしょう。

 ラシーヌのオフィスに最初にお邪魔したのは、私がドイツ留学を終えて帰国した2011年9月のことでした。ラシーヌが思いを定め、ギリシャに続いてドイツ・オーストリアを扱うのに先立って、現地調査に出かける準備のさなか、四谷三丁目の公園横にあったオフィスに呼ばれてドイツの生産者のことなど話した時のことを、今も鮮明に覚えています。その時「ラシーヌ便り」にドイツワインエッセイを書いてみませんか、というありがたいお申し出を頂いたのが、今の職場とのおつきあいの始まりです。

 2018年8月、それまでフリーランスのワインライターのはしくれだったのが、約20年ぶりに勤め人生活に戻りました。現在輸入実務に携わっているのは3人で、私はドイツやオーストリアだけでなく、フランス・イタリア以外の生産国を分担しています。

・ドイツ・オーストリアのワイン輸送事情
 よく、リーファーコンテナで輸送しているからワインの状態が良い、という趣旨の広告を目にしますが、それだけでは何の品質保証にもならないことを、ワイン輸入の現場に身を置いて初めて知りました。たしかにコンテナを醸造所まで運び込むことができ、その場で一杯にしたならば、コンテナ輸送中に品質が劣化する可能性はきわめて低いでしょう。しかし、複数の醸造所から集荷し、フォワーダーの倉庫でコンテナに積み込まれるまで保管する場合、その温度管理は、ことにドイツ・オーストリアでは容易ではないのです。

 まずそもそも、ワインの保管に適した温度である約14℃を、年間を通じて維持している定温倉庫を提供しているフォワーダーが、ドイツ・オーストリアにはいない、という悲しむべき事実があります。これはその国におけるワインという農産物の、経済と文化に占める重要性と関係しているのかもしれませんが、フランス、スペイン、イタリアならば、まがりなりにも定温倉庫が利用できます。しかし私の愛してやまないドイツ語圏では、もともと夏は涼しかったせいか、はたまた一面においてはおおらかな国民性故なのか、リーファートラックで集荷して、定温倉庫にコンテナローディングまで保管してくれる運送業者が、私の知る限りではいないのです。

 弊社がいつもお世話になっているドイツのフォワーダーには、醸造所からリーファートラックで集荷したワインを、マインツにある拠点の地下倉庫に保管してもらい、そのコンテナに搭載予定の全生産者からの集荷が完了した時点でリーファーコンテナに積み込んでもらっています。しかし気候変動の影響が顕著な昨今、地下とはいえ夏場は20℃を超えますし、何らかの理由で空調設備のない地上階に、近年は30℃を超えることもよくある外気温と同じ状態で数日置かれてからリーファーコンテナに詰め込んだところで、既に時遅し。造り手が長い時間をかけ、手塩にかけて栽培・醸造したワインの精妙な味わいは、永遠に失われてしまいます。

 ですから最高気温が30℃前後になる日が出てくる5月から9月にかけての集荷は極力避けたいのですが、醸造所から新しいヴィンテッジの出荷が始まるのは、多くのばあい5~6月。中には瓶詰したらすぐに集荷してくれないと困る、と言う生産者もいたりして、頭の痛いところです。

 また、オーストリアの複数の醸造所から集荷する場合、国内の集荷が完了するまでウィーン近郊にある運送会社の倉庫に一時保管されるのですが、ここも常温管理しかできないと言われています。そしてオーストリアでは、短距離ならば常温で集荷してもかまわないというのが、どうやら一般的な認識らしいことを、遅まきながら最近知った次第です。

 ですので、ドイツワインかオーストリアワインで、値段の割に美味しくないな、と思ったら、第一にそのワインの輸送・保管環境を疑ってみても良いと思います。そしてドイツかオーストリアで、リーファートラックでの集荷ができて、コンテナに積み込むまで定温倉庫にワインを保管していただけるフォワーダー様をご存じでしたら、ぜひお知らせくださいますよう、この場を借りてお願い申し上げるしだいです。
 世界各地でナチュラルワインが増えている昨今、醸造所から日本の倉庫まで、約14℃の環境が途切れないサプライチェーンのニーズは、いまだかつてないほど高まっているはずなのですが。

 さて、次回のエッセイはフランス在住の写真家でラシーヌのスタッフでもある田熊さんにバトンをお渡しします。ドイツにいたころは、ブドウ畑や醸造所に行って写真を撮るのが何よりの楽しみだった私にとって、プロの写真家はあこがれの存在です。お給料をいただくようになったおかげで、以前よりも機材は充実しましたが、それと反比例するように腕と意欲が落ちているように感じている今日この頃。その体たらくを挽回すべくライカへの物欲を募らせているのですが、反省の材料になるお話が伺えればと思います。

(以上)

 
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