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ファイン・ワインへの道Vol.69

2021年ヴィンテッジ、オーストリアからの朗報

目次:
1. フランスとオーストリアの明暗?
2. クリスチャン・チダが、この年につけたスコアは?
3. グレート・ヴィンテッジより、ファイン・ヴィンテッジが上? 

1.フランスとオーストリアの明暗?

 「いつになっても、また次のヴィンテッジがあるさ」と言ったのはアンドレ・シモン、20世紀半ばのイギリスで活躍した、ワイン・ライターの偉大な始祖の一人ですね。このシモンの視点を拡張すると、「フランスが苦難の年でも、他の産地があるさ」、でしょうか(?)。
 春の遅霜、夏の寒さ、多雨、雹、 病害の5重苦に多くの産地が見舞われたフランスの2021年ヴィンテッジ。この50年間で、最も困難だった年とも言われ、あの1977年と比較される苦難の年とまで言われています。その悲報は、既に皆様ご存知で、暗い気持ちになられているかと思うのですが・・・・・、そんな中突如、オーストリア・ワイン委員会から
 「2021年は夢のようなヴィンテッジ。今後何年も語り継がれるであろう年。輝かしい秋が深淵な果実味とピリッとした(zesty)ストラクチャーを持つ、エレガントな白と、エキサイティングでパワフルな赤をもたらした」とのメールが届きました。
 もちろんワイン協会発表の作柄レポートは多々、楽観的すぎる、もしくはネガティブ面隠蔽の「売り手側」見解となるゆえ・・・・・、 即座に確認のため信頼できる生産者にメールを送ってみました。
 結果はどうも、 私の猜疑心が強すぎたよう、でした。 

 

 

2.クリスティアン・チダが、この年につけたスコアは?

 「2021年は、私の人生の中で最もクレイジーなヴィンテージの一つだった。
 4月は暖かく、5月はとても涼しかったので、開花が遅れた。その後、気温は徐々に上昇したが、すべてが遅熟で冷涼なヴィンテージであることを示唆していた。
 そして8月に入ると、暑くて暖かく、しかし夜はとても寒くなり、最終的にはpH値が低く、信じられないような完熟したフレッシュなブドウが収穫できた。
 赤はいつもより長くマセラシオンしたが、ほとんど抽出作業をしなかった。ブドウはタンニンが多く、抽出しすぎたくなかったのだ・・・・・。
 白は1本を除いて、果実のスペクトル全体をとらえるために直接プレスした、私のいつものやり方です・・・・・。
 出来上がったものはゆっくりと瓶詰めされ、味も素晴らしいので、長い間楽しませてくれると思う。
 20点満点でこの年にスコアをつけるならば? 19~20点だろう。普段、私はヴィンテッジに点をつけるというようなことは、あまり考えたことはないのですが」
 と返答してくれたのは、巨星・クリスチャン・チダ。 オーストリア中東部、 ノイジードラーゼー地方からの報告です。

 さらにオーストリア北東部、ヴァッハウからも朗報が。
 「私の基準では、2021年のワインは非常に高い品質レベルにあり、20点満点で18-20をつけたい。
 春は乾燥過剰。それにより発芽が遅くなり遅霜のリスクを軽減できた。春の涼しさで開花もやや遅れたが、6月上旬の暑さで一気に進んだ。すでに6月以降、30℃を超える猛暑日が続き、しばしば激しい雨も降った。6月26日、畑の一部に雹が降り、被害を受けた畑では収穫時に約20%の収量減。
 9月は日中が涼しく、夜も冷え込んだため、成熟は早すぎない速度で進んだ。これによりphが低く、酸が高く、糖度が高すぎないブドウが私の手元に届きました」と、伝えてくれたのは、ヴァッハウの雄、 ワイングート・ヴァイダー=マルベルクのオーナー、ペーター・ヴァイダー=マルベルク。

 フランスのように過酷な霜害、病害を免れただけではなく、 地球温暖化による過酷な暑さがもたらす弊害も、2021年は免れたようで・・・・これは大いに期待できるファイン・ヴィンテッジ、になりそうですね。
 もちろんクリスチャン・チダも、マルベルクも、 話を“盛ったり”、粉飾したりする人々の真逆、ひたすら真摯で謙虚な職人気質の人であることは、ワインから十分伝わること。 そんなチダが、19~20点をつける年となれば・・・・ またまたセラーのスペースをしっかり開けてこのヴィンテッジの到着を待つ尽力が、私たちには必要かもしれません。

 

 

3.グレート・ヴィンテッジより、ファイン・ヴィンテッジが上?
 と、ここで。先に書いた“ファイン・ヴィンテッジ”との文言に「でも、 グレート・ヴィンテッジじゃないんだ」どのご質問、ごもっとも。この文言には、いわゆる一般的な(特にアメリカ・メディアが主導する)グレート・ヴィンテッジという文言に対する、私なりの離脱、猜疑(またしても)、そして抗議の気持ちが含まれています。
 従来の一般的な「暑くて濃厚でパワフルですぐに楽しめるワインができた~!」ことを基準にすると思われる、グレート・ヴィンテッジ観は、ワインの魅力の多くを逸失させる価値観であり判断基準ではないかとさえ思えるのです。
 それは、 今までの多くの生産者のセラー訪問で体験した、無数のヴァーティカル・テイスティングでの、偽らざる想いです。
 ヴァーティカルで試飲すると、 本当に。いわゆるヴィンテッジ・チャートのグレート・ヴィンテッジとされる年が、ただ単にパワフルなだけで単調(多々、退屈)、対してノーマル・ヴィンテッジ、 もしくは少し悪かったヴィンテッジとされている年の方が、一定の熟成期間を経ると、はるかに華麗で妖艶、奥行きのあるフィネスを開かせていることが本当に多かったゆえです。

 つまり、私にとっては一般に言われるグレート・ヴィンテッジは、むしろフラット(平坦な)ヴィンテッジ、と解釈しています。
 逆に、 少し涼しかったかな、というような年の方が、私にとってはグレート・ヴィンテッジなのですが、グレートと書くとアメリカ・メディアが言うそれと混同されるのは、最も癪で腹立たしいので、“ファイン・ヴィンテッジ”という言葉を考えてみたのですが、いかがでしょう?
 もちろん、ワインの命はフィネス、ですよね。パワーではなく。
 いや、フィネスよりパワーが大切だという方は、この原稿は破り捨ててください。
 そしてもちろん、ワインの話を一般化することの無理と危険は重々承知です。常にあります。例外は。

 と、話がまたややこしくなりましたが……、本当に暗澹たるニュースばかりの世で、少しでもワイン関係で明るいニュースを……と探していると、オーストリアの話になりました。待ち遠しいですね。船の到着が。

※5月16日発売の雑誌「BRUTUS」は、一冊まるごとナチュラルワイン特集です。
 私も、まとまったページを書かせてもらってます。ご笑覧いただけますと、光栄です。

 

 

今月の、ワインが美味しくなる音楽:

Laura Itandehui  『Laura Itandehui 』

スペイン語圏のトレーシー・ソーン?
素朴でゆるい歌声が、自然派・白ワインとリンク。

 昼寝中の頬をなでる、初夏の微風のような声。極々シンプルに,ギターと、癒し感ある女性ヴォーカルを軸に展開する、メロウ&レイドバック・アコースティック・アルバムです。音のタイム感で、てっきりキューバの次世代アーティストかと思ったのですが、メキシコのオアハカで去年デビューしたばかりの新人アーティストの1st.アルバム、でした。
 ゆったりほのぼのと、リラックス感ある曲調の中に、しみじみ素朴な声の残響を聞かせるセンスは、1stアルバムにして見事な名盤の域。過剰なアレンジなど”人的介入”を排した音は、まさにナチュール・ラテンな心地よさ。
 ゴールデンウィークに飲む、きれいなミネラルの白ワインの美味しさを、きっと高めてくれそうです。

https://www.youtube.com/watch?v=HQSAuTehUIY&list=OLAK5uy_m4l2Wd_KXTGlLlwDEMMFxAtQ8CYDHK8sI&index=2 

 

今月の、ワインの言葉。
「アルコール度数が上がると、香りとフィネスは自動的に下がる。現代のワイン造りは、アルコール(≒糖度)を抑制するための栽培が 最重要だ」

              クリスチャン・チダ(ノイジードラーゼー)

 

寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。


 
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