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『ラシーヌ便り』no. 187 「ドキュメンタリー”Le Champagne a rendez-vous avec la lune”」

公開日: : 最終更新日:2021/07/01 定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー

 以前からお報せしていました、ベルトラン・ゴトローの1年を追ったドキュメンタリー“Le Champagne a rendez-vous avec la lune” (邦題「シャンパーニュ 月からの呼びかけ」)が、ついにパリで上映され、その映画評が、terre de vinsのホームページに掲載されました。今月はその映画評をお届けします。
https://www.terredevins.com/actualites/film-le-champagne-a-rendez-vous-avec-la-lune?fbclid=IwAR3DXEw0AsYZwRl8BMIRvAl3-bF5TD22eSSFarbCfUWU_YldRNM9kpA84WQ
 上記URL、原文記事上で予告版を見ることができます。

 ラシーヌでは、井原 摩耶社員を中心に昨年暮れから翻訳をはじめ、専門家の助けを受けながら日本語の字幕制作を終えました。年内にはWeb上で有料配信される予定です。ワクチン接種が進み、人々が集うことが可能な状況になれば、是非ベルトランのシャンパーニュを飲みながら、この映画を楽しむ会を開催したいと思います。

《 Le Champagne a rendez-vous avec la lune 》

【シャンパーニュ 月からの呼びかけ】

 映画監督のエリー・セオネ(Elie Séonnet)は、シャンパーニュ地方の【ヴェット・エ・ソルベ】の造り手、ベルトラン・ゴトローの1年間を通して、ビオディナミ農法の謎を追った。
 さて結果は? とても有益で詩的なドキュメンタリーで、パリのLe-Saint-André-des-Arts映画館で2週間上映されます。
 このドキュメンタリーでは、コート・デ・バールの造り手ベルトラン・ゴトローが、ボーヌのブドウ栽培とワイン醸造学科を卒業したばかりの娘、エロイーズにビオディナミ農法の本質を解き明かしてゆく様子を、監督エリー・セオネが撮りおえたものです。映像の展開が巧みなため、観客は、《実際に見たものしか信じない聖トマス》のように、まだ頭で考えることしか出来ないエロイーズと自身を重ねて、引きこまれていきます。
 ベルトランはビオディナミ農法を実践したパイオニアです。ベルトランの話を聞いていると、今日、多くの人にとって、これほどまでに有機栽培が未来への道しるべとなっていることがよくわかります。彼がビオディナミを始めた頃は、色々なことが明白ではありませんでしたが。
 1998年にビオ認定を受けたベルトランは、有機栽培への転換を決めたころ、生産者共同組合から追放も同然の仕打ちを受けることになりました。「ベルトランは失敗するから、大笑いしてやろう」とばかり、彼の失敗を待ち望む者も少なからずいました。
 多くの人が彼の新しい試みを自分たちに対する侮辱とみていました。「人と違うことをすることはいつだって出来る。でもどうやってやるかが肝心だ。もしそれが大金を手に入れられたり、ヨットの大会で一位になったりするようなことなら皆も疎んだりしない。だけどそれが生産量を減らしてしまうとわかっていてみんなと違う道を選んだりしたら? ビオでの生産はどうしても生産量を減らしてしまう。それは皆を煩わせて、嫌われてしまう。というのも、それは一世紀もの時間をかけてシャンパーニュの生産量を10倍にしてきた進歩とは逆行しているからだ。(中略)自分が何か変えるということは、周りの人にあなたは間違った道を進んでいますよ、と告げるのと同じだ。」
 ナレーションの一節は、この地域が有機ワイン生産者の割合が最も低い地域の1つであると述べています。シャンパーニュの気候条件が特殊なため、有機栽培がより困難であるということを暗に示しているようです。シャンパーニュでは2014年にCIVCの主導で、新たな認証 VDC ( Viticulture Durable en Champagne)が定められた。監督は、VDCについては触れていませんが、最終的には、代替的な有機栽培についても議論されるべきなのでしょうか? 例えば病気を抑えるためのボルドー液使用は、環境への影響がないわけではありません。

【優秀な先達】 

 しかし、そんなことはどうでもよいことです。重要なことは、ビオディナミの本質を説明する、大変優れた導き手(または導師)であるベルトランの言葉の内にあります。視聴者は何も賛同する必要はありません。
 アンフォラにワインを満たしながら、ヴィニュロンは娘に尋ねます:「ニュートンがリンゴが地面に落ちる様子を見て推測した重力の法則を認める一方で、植物が太陽に向かって成長する様子を見て、植物が宇宙の力によって引き付けられていると認めないなんてことがあるだろうか?」
 ベルトランは剪定を行いながらビオディナミの月のカレンダーの原則を説明しています。「月のカレンダーは実は古代エジプト時代からあったと言われていて、彼らもそれぞれの植物に合った日というのがあるとよくわかっていたらしい。果実を収穫する植物を手入れするのに適した日、花を得るために育てる植物に適した日、葉の部分を収穫するのに育てている植物に適した日、というようにね。だから月のカレンダーには根の日、葉の日、花の日、果実の日があるんだ。だからブドウの木を世話する場合、果実を収穫するわけだから剪定作業は果実の日にするべきだ。もちろん果実の日が全ての作業に適しているわけではないけれどね。」

来日時にオフィスでアンフォラの説明をするベルトラン

 「ブドウの若い樹を選定する場合は、ニンジンを育てたいときと同じようにする。つまり根の日に剪定することで根の成長を促進させるというように。例えばワインが少し閉じていて風味に欠けているなと感じたなら、花の日を選んで作業すればいい。なぜなら花はアロマティックだから。花の日に剪定をし、花の日に畑を耕す。他にも例えば、果実の成熟がうまくいかず、果汁を少ししか得られないなら、果実の日に剪定する。」
 ビオディナミの原則もさることながら、剪定方法を考えなおすために、房がひどく干からびたブドウの樹からその原因をさぐる、《知性をもって考えるヴィニュロン》の姿には魅了されてしまいます。地球温暖化に関連するこの新しい惨劇に直面して、有機栽培で取り組むヴィニュロンは、おしきせのテクニックでなく、考えることで問題を解決しようとするので、難しい課題を超えることができます。
 「ビオやビオディナミであることは、自然と共に生きるということだ。ある年は得るものが多く、ある年は失うものが多いものだし、毎年少なからず何か失うものだということを知っている。言ってみれば、我々が自然の摂理に従うべきことを、自然が思いださせてくれるというわけ。だからこの状況(熱波による大きな収量減)は確かに辛いが、トラウマになるほどではない。HVE認証を受ける一方で、そのルールに縛られているような農家にとっては、トラウマになりうる。なぜなら彼らは失うということがどういうことなのか知らないのに、突然多くを失ってしまったのだから。
 四季をめぐるブドウの成長は大変美しく、それだけでも鑑賞の価値があります。ベルトランのちょっとしたユーモアや、その痛烈な皮肉と冗談も楽しい。手で集めた牛糞を運びながら、ヴィニュロンはにやりと笑います。「税関で捕まらないようにしなくっちゃ。(牛糞を運びながら、牛糞を危険物に例えて) 前回も違法な危険物を運んでいるんじゃないかって疑われたからね。」

 以上です。Web上で公開されたら、また、改めてご案内いたしますので、どうぞお楽しみに。


 
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