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『ラシーヌ便り』no. 178 「今、あらためて思うこと」

 9月に入って、大阪と東京でシャンパーニュ試飲会を開きました。久しぶりの広い会場での試飲会です。鹿児島、宮崎、福岡からもお越しいただき、ありがとうございました。
 この度のシャンパーニュ試飲会は、万全の衛生環境とコンディションでテイスティングしていただくために、ラシーヌ社員が総出で準備しました。すべての試飲会の中でも、見えないところなどでの準備にとくに手間がかかっています。また、この機会は私たち自身が、一つ一つのワインを味わって、その年にリリースされたワインの特徴を、明確に再確認し、記憶する機会でもあります。 
 若い造り手の成長ぶりや、味わいが面白くなっていく様子を鮮やかに感じる時は、待っていてよかったと、わくわくします。また、たまに残念な結果となることもあります。それも、造り手の人生のドラマと共に移り行くものなので、私たちが楽しめる味わいでなくなったときは、扱いをやめざるをえなくなるのは仕方のないことです。

 ところで、ラシーヌ取り扱いのシャンパーニュは、平行市場で販売されていることが見受けられます。平行で出回るワインのうち、特別希少な、正規インポーターから購入できないワイン、コレクターからオークションなどで流通するワインは、平行現象も仕方無いかもしれません。私たちも、自分たちのテイスティング用にランスから、ジャック・セロスやシャルトーニュ・タイエを日本に持ち帰ることがあります。
 また、「国内で購入するより、より良いコンディション」を求めて、現地の確かな専門店で購入されるプロフェショナルもおられます。
 しかし、ラシーヌで通常オンリストされているワインを、平行輸入されたワインが、著名なレストランやワインバーで、扱われるのをみると、ショックでひどく落ち込んでしまいます。
 特別デリケートで、扱いによってひどいダメージを受けるワインを、本来の姿とはかけ離れた味わいで販売するとしたら、これは造り手と買い手のどちらをも裏切ることになるのではないでしょうか。品質劣化を伴わない性質の商品ならともかく、ワインのように生きている品物のばあいは、不適切な輸送と保管によって回復不可能なダメージを被りやすいのです。もし、品質劣化した本来の姿とは異るものを、味わいの変異を無視して、単なるファッションブランドのように販売するとしたら、それは造り手と商品への信頼を裏切ることと同じになります。
 ラシーヌの貿易チームは、造り手の先でのピックアップ、船積み前の倉庫搬入、コンテナ組み、船積みなどの各ステップについて、綿密なやり取りを積み重ねます。それでも、なかなか思うようにいかないことがあるので、重大な事故のリスクを避けるために、夏季の船積みを止めています。リーファー輸送を、船会社に依頼さえすれば、あとは黙っていても商品が無事に届くわけではないのです。
 またヨーロッパ国内で流通しているワインを購入する場合、造り手から業者の倉庫まで、リーファー輸送されている保証はなく、また輸送業者の営業倉庫が15℃以下である場合は稀です。かつては比較的冷涼であったシャンパーニュやブルゴーニュですら、いまやワインショップの倉庫や店頭保管が理想的な環境であることは、残念ながら稀なのです。
 理想的なばあい、販売するお店がお客様にワインをおすすめすることは、造り手の作品を紹介することと同じです。お店もお客様も経験を重ねて、ワインをより深く知っていくことが可能になります。そのためにも、多少とも品質劣化が避けにくい並行商品を、そうでないものと同列に扱うことを、今一度考え直していただきたいと、切に願います。

さて、ここで新入荷からご紹介します。

1)シャンパーニュ・ラエルト・フレール
 向上著しいラエルト。オーレリアンの地道なこの10年の努力が、れっきとした味わいにようやく現れ出ました。Ultradition, Autrefois, Les Empreinte は、世界の業界筋をにぎわせるだけでなく、国内の試飲会でもしばしば話題になりました。オーレリアンに受け止められ方を伝えましたら、大変喜んでいました。近々ヴィデオメッセージで、今年の収穫の様子が届きます。Facebookでご紹介しますので、楽しみにしていてください。

  

 

2)モンテ・ダッローラ
 新着試飲会で多くの人を驚かせた、今年リリースのモンテ・ダッローラ。醸造環境が理想的に整ってきたことで、十数年を経て、ようやくとびっきりのテロワールと栽培の素晴らしさが、くっきり味わいに現れました。
 初めてアレッサンドラとカルロ夫婦に会ったのは、2003年の春。当初は言葉があまり通じず、大変苦労しました。当時セラーは建築に取り掛かったところで隙間風が通り抜け、ブドウ畑はヴァルポリチェッラの歴史的ゾーンにありながら約20年も耕作放棄され、ほぼ藪に近い状態でした。
 標高250m前後に広がる5haの畑の大半は1950年植樹の古木がまだ多く残っています。特別なゾーンでの古い畑、卓越した栽培、20年を経て醸造環境が整い、今年リリースで真価が発揮されるようになったのです。
 素晴らしいコンビを組む、畑では仕事の鬼で正確無比なカルロと、クリエイティヴな思考力にとみ、感覚の優れたアレッサンドラには、ヴァルポリチェッラの未来が輝いています。

  

 

 

3)エツィオ・トリンケロ ロッソ・ラシーヌ2016
 ウワッ、美味しい!Rosso Racines 2016  by  Ezio Trinchero ;リリースが始まりました。試飲会で特別多くの方から大きな注目をあびた、ロッソ・ラシーヌ2016。真っ当な作りで仕上げた、バルベーラを和ませるため時間をかけたワインを、手軽な価格で多くの人や若い人に楽しんでもらいたい、と2003年に始めたロッソ・ラシーヌ。エツィオの丹精した栽培と、広い地下セラーがあってこそ生まれるワインです。

 
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