合田玲英のフィールド・ノートVol.66 《 ゴウダレイの注目ワイン!2019年1月 》
公開日:
:
最終更新日:2019/01/01
ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート
《 2018年12月販売開始ワイン 》
【ジェラール・マリュラ】フランス/ロワール/シノン
「あ、カベルネ・フランて、美味しいんだな」と、僕の印象を変えてくれたのは、ジェラール・マリュラとクリスチャン・チダ(オーストリア)のカベルネ・フラン。ジェラールが亜硫酸無添加の醸造を始めて、早や十数年。2019年で20回を数える試飲会“Dive Bouteille”にも、当初から参加していたらしい。数年前にマルク・アンジェリからシノンの造り手でいい人がいるよ、と紹介してもらい、おおげさでない、美しい質感にうっとりした。パリのお気に入りの酒屋でも、毎日飲むためによく買った思い出があります。
【ドメーヌ・モレル】フランス/ジュラ
若くして、父親からポリニー村のワイナリーを継いだヴァランタンは、アルザスでの醸造学校時代に、同級生の「ノー・コントロールのヴァンサン・マリー」に、ワイナリー巡りをつき合わされたそうだ。おかげで、ずいぶんワイン造りの嗜好が変わってしまったそうだ。“les pieds sur terre”「大地に根差して」または「地に足をつけて」とも訳せる言葉をモットーに、ワインを造る。今回入荷の《Les Trouillots Semaine 16》2017は、「2017年の第16週に訪れた遅霜」の被害を免れた、少量の赤をブレンドして造られた。ヴァランタン本人は「白については、自信があるけれど、赤の醸造はもっと、改善の余地があるはずだ。ヴァン・ジョンヌに関しては、全く見当がつかない」と言っている。2018年のジュラは、何年ぶりかの質・量ともに満足のいく年だったそうなので、いろいろと実験が出来るだろう。
《 2019年1月販売開始ワイン 》
【ドメーヌ・グラムノン】フランス/ローヌ
ワイン造り40周年を記念したパーティが、今年の7月に開かれた。ティエリー・アルマンやレオン・バラルなど、南仏のナチュラルワイン生産者がこぞって集まり、夫のフィリップ亡き後、グラムノンを支えてきたミシェルを祝った。息子のマキシム・フランソワ・ローランがワイン造りに参加してしばらくたつが、ミシェルもまだまだ責任者としてワイン造りにたずさわっている。2016年に醗酵設備を一新するとともに、醸造セラーのリフォームを行ったが、高台を掘って造った、洞窟の熟成室は昔のままだ。グラムノンでも緩やかに世代交代が起こっている。
【クロ・ド・ラ・ブリュイエール(ジュリアン・クルトワ)】フランス/ロワール
クルトワ家の次男に生まれ、家を出てワイン造りを始めたジュリアンも、もうすぐ自分の名前で醸造を始めて20年になる。近年のジュリアンは、ワインには静かなエネルギーに満ちていて、それが完全に放たれる瞬間を待っているかのような、迫力を感じる。まだ、ラシーヌ倉庫で熟成中の2015年より先に、16年がリリースとなりますが、ジュリアンの自然体なたたずまいが、ワインにそのまま投影されている。
【クエンホフ・ピーター=プリガー】イタリア/アルト・アディジェ
アルプス山脈の麓、ズュートチロルでの、リースリングやシルヴァネールの栽培を早くから行ってきた、ピーターとブリジット夫妻。築300年以上の自宅兼セラーでワインを造る。マロラクティック発酵のほとんど行われないスタイルで、アルプスの絶壁を思わせる厚みのある酸を持つ。リリースされた直後と1年後とでは、驚くほどワインの表情が変わってくる。2018年からは長男がワイナリーへと戻ってきていて、ワイン造りに参加している。
【カーゼ・バッセ】イタリア/トスカーナ/モンタルチーノ
2012年の災禍以降、今年でようやくすべての大樽がいっぱいになったと、喜びの報告が訪問時にあった。ジャン・フランコ・ソルデーラは対面時の迫力はそのままに、「わからないことがあれば、何でも聞いてくれ」と、若い世代にも優しいまなざしを向けている。近年は世界各地でも若いソムリエ向けの勉強会を行い、チャリティー活動にも力を入れる。
【 イル・マッロネート】イタリア/トスカーナ/モンタルチーノ
当主のアレッサンドロ・モーリは、なんでも大げさなトスカーナ人。だが嫌味なところは全くなく、彼のフラグシップ・ワイン《マドンナ・デッレ・グラッツィエ》がパーカーポイントで100点を取った時も、子供のようにはしゃぎまわっていた。カジュアルからグランデ・ヴィーノまで、幅広く味わいを表現しうるサンジョヴェーゼは、アレッサンドロにはぴったりな品種だと、つくづく思う。
【リヴェッラ・セラフィーノ】イタリア/ピエモンテ/バルバレスコ
今となってはバルバレスコの、いやランゲの最古老の一人であるテオバルド・リヴェッラ。9月にも、バローロとイタリアナチュラルワインの精神的な柱でもあった、友人のジュゼッペ・リナルディを亡くした。1968年がファースト・ヴィンテッジだとのことゆえ、おそらくもう70歳近いのだろうが、いまだにモンテステーファノの急斜面、2haの畑を一人で管理している。それが真実なことは、日にやけた肌と、たくましい腕が証明している。自然な栽培と、テオバルドの技の粋を極めたワインは、他に類をみない完成度。ああ、この人のワインをいつまでも飲んでいたい。彼のワインを飲むたびに多くのことが学ばせてもらえる。
【ヴァイングート・マリア・ウント・セップ・ムスター】オーストリア/ズュート・シュタイヤーマルク
昨年の訪問時に、「僕(セップ)はブドウがしっかりと熟し切るまで、収穫を待ちたいのだけど、マリアは少しでも多くの果汁がとれるうちに収穫してほしいと言うんだ」と、満面の笑みで話すセップと呆れた顔のマリアが、微笑ましかった。天候不良で、この数年生産量が激減しているから、2人の子供の母としてマリアの言い分ももっともである。熟成が通常の2倍以上かかる場合でもほとんど価格を変えないセップに、もっと値段を上げてもよさそうだけどと言うと、「レイ、そんなことを考えていては、良いワインは出来ないんだよ!」とたしなめられてしまった。
《 再注目!ラシーヌの定番アイテム 》
デイリー・ワインとして活躍するワイン達。カステッリーナ・イン・キアンティで宿泊施設も営む、カーザ・フラッシ。キアンティ・コッリ・セネージで細々とワインを造ってきた、カザーレを営むジョヴァンニ翁の《ロッソ・ジョヴァンニーノ》は、バッグ・イン・ボックスでも広く親しまれる。
ヴァルディベッラはシチリア、内陸地カンポレアーレの協同組合ワイナリー。カタラット種によるビアンコ・ムニールは、定番のイタリア白ワイン。マフィア・フリー(Addio Pizzo)のスローガンを掲げる協同組合は、彼らの他にもこの地域で数件知っている。ラシーヌ取り扱いだった、カンティーナ・エリチーナが閉鎖した理由にも、マフィアの影響があるとかないとか、日本では現実感に乏しい話だが、本当に起こっていることなのだそうだ。
【テヌータ・レ・カルチナイエとイル・パラッツィーノ、エドアルド・ズデルチ】
ラシーヌのイタリア定番ワインを赤と白どちらからも、この10年支えてくれているワイナリー。カルチナイエのシモーネが醸造学校を卒業して、畑を植え、ワインを造り始めたのが1993年。すぐにオーガニック栽培の重要性を感じ、1995年に栽培を変えた。シモーネのヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノのような、軽やかで透き通った味わいのイタリアの白はありそうでない。
ガイオーレ・イン・キアンティのイル・パラッツィーノでは数年前から、息子のエドアルド・ズデルチが自分のプライベート・ブランドも造りつつ、父親のワイン造りにも加わっている。モンテヴェルティーネやサン・ジュースト・ア・レンテンナーノでも、栽培コンサルタントを行うコンサルタントグループにも助言を求めながら、父、アレッサンドロが続けてきたワイン造りに、新しい世代の風を吹き込んでいる。亜硫酸不使用のワイン(Azzero)を、最初は、こういうのも造っているんだけど、と遠慮して紹介してくれたが、こちらとしては良い意味でサプライズだった。これからの変化が楽しみで仕方がない。
プーリア州のワイナリーである。ヴァレ・デ・ラッソは2016年の、オーナーであるルイージ・ヴァッローネの死後、所有関係と組織編成が変わり、カンティーナ・フィオレンティーノという同じサレントの地域のワイナリーが経営を行うこととなる。以前と同じような、バイオロジック栽培は継続して行われる。
ファタローネはしっかりとしたブドウの成熟はありながら、一帯よりも少し小高い丘のジョイア・デッレ・コッレは、常に斜面の両側から涼しい風が吹き寄せることから、特に香り高く、綺麗な後味の酸を備えている。とてもリーズナブルな
価格ながら、非常にレベルが高く、ボトル詰め後しっかりと時間をかけて、リリースしてくれる。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2009 年~2012 年:ドメーヌ・レオン・バラル(フランス/ラングドック) で研修
2012 年~2013 年:ドメーヌ・スクラヴォス(ギリシャ/ケファロニア島) で研修
2013 年~2016 年:イタリア/トリノ在住
2017 年~:日本在住