合田玲英のフィールド・ノートVol.59 《 山のワイン 》
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《 山のワイン 》
アルプス山脈の麓のワインを飲むと、つくづくと、山のワインだということが、感じさせられます。標高はそこまで高くなくとも、空気が急に澄んだような印象を受ける地域のワイン。例えばフランスのサヴォワやイタリアのトレンティーノ、アルト・アディジェ。少し範囲を広げると、フランスのジュラ、オーストリアのズュートシュタイヤーマルク、イタリアのプロセッコ(コネリアーノなど、平地でない地域)やフリウリのワインもそういう雰囲気の漂うワインがあります。
ランゲやトスカーナでも標高が400~500mを超える畑を持つワイナリーはあるけれど、単に畑の気候が涼しいということだけではなくて、万年雪の山脈から吹き下ろす風、造り手が日々感じる温度変化、切り立つ崖や連なる峰の見える風景で生活をすること自体が、ワインの味わいを造り出しているような気がしてなりません。もしかしたらアルプス山脈からのエネルギーがワインや造り手に影響しているのかも、なんということも思ったり。
4月のヴィニタリーの期間中も、トレンティーノやアルト・アディジェの造り手たちを訪問しました。ヴェローナから北へ2時間、車で2時間ほど。フランスからイタリアへ、アルプスを超えて陸路で行くときや、ジュラからサヴォワへと向かうときと同じで、高い岸壁に挟まれた道を連なる山脈に向かって移動をするのは、何回体験してもワクワクするものです。
トレンティーノあたりまではまだ、イタリアにいるという感じはするのですが、そこからさらに北上して、アルト・アディジェの方まで行くと、文化圏が違います。単にドイツ語を話すからというだけでなく、山で生活をする人々、厳しい環境で生活をする人々、という雰囲気が漂います。
5月から、そんな山の雰囲気を感じさせる新規取引の造り手のワインが、少量ですが入荷しますので、以下で紹介いたします。《 Domaine de la Combe aux Rêves 》
ジュラ県とサヴォワ県の境、西アルプスの麓ジュルナンスの村の周辺には樹齢100年を超えるプルサーがまだ僅かに残っています。表土もほとんどなく、育つ植物は苔くらい、という土地に100年前にブドウを植えた人も植えた人だけれど、フランス各地で十数年ワイン造りを行ってきたグレゴワール・ペロンは、この畑を見るや、ここでワインを造りたいと思ったのだそうです。岩を破砕して、若木に植え替えることもできたけれど、それよりもグレゴワールはいびつに剪定された古樹に魅了されました。
所有面積は2haという小さなワイナリーですが、畑の数は15もあります。なるべく樹齢の高い畑を、と探した結果だそうですが、樹齢が高いだけでなく、ほとんどの畑で、複数の品種が混植されていて、仕立て方法をはじめ、手入れをそれぞれの品種によって変えているそうです。なので、良い手入れをするには常に感覚を働かせている必要があります。混植されたブドウはそのまま混醸されて、ゆっくりと1年以上時間をかけてワインへと変化していきます。
冬には家畜を畑に放ち、ワイン造り中心の生活ではなく、田舎の生活の中での情熱を持ったワイン造りを見事に体現しています。グレゴワールのワインは、田舎の牧歌的な風景の中で健康に育ったブドウと、アルプスの麓の空気がそのまま液体となったようで、山の静けさ、涼しさと冬の厳しさが感じらます。
~プロフィール~
合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2007年、2009年:
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫
2009年秋~2012年2月: レオン・バラルのもとで研修
2012年2月~2013年2月:ギリシャ・ケファロニア島の造り手 (ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修
2013年2月~2015年6月:イタリア・トリノ在住
2017年現在、フランス在住