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合田玲英のフィールド・ノートVol.49 《 ワインの副産物 〜農家の飲み物〜 》

戦時中の酒石酸の話などではありません。去年、ブルゴーニュのワイナリー【ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ】訪問時に、面白いものを飲む機会があった。発酵がだいたい終わる11月頃だったか、ニコラ・ヴォーティエはセラーの外に置かれている小さなタンクから、まだ発酵中の薄い赤い色の液体を飲ませてくれた。ワインっぽいのだけれど、なんだか違う。長距離移動の後で喉も渇いていたし、少し甘くてピチピチした気軽な飲み口だったので、一気に飲み干してしまった。
"Ca, c’est le vrai piquette."「これが本当のピケットさ」と、ニコラはにっこり。

ピケット(Piquette)というと、酸っぱいだけのつまらないワインだとか、単純に品質の低いワイン、いう意味で使われているものだと思っていた。けれど元々は、スキンコンタクトを終え、絞ったあとの種と果皮を水に漬け込んで、果皮の残糖分を発酵させたもの(だいたい3~4%のアルコール度数になるよう調整)を、ピケットと呼ぶのだそう。これを蒸留したものがマールやオー・ド・ヴィーになるのだろうか。一応ピケットには、「不味くアルコールが強いだけのオー・ド・ヴィー」という意味もあるようだ。要するに、まずいアルコールは全部ピケットなのだろう。

淡〜い色のピケット
※撮影:bertrant calce

ニコラは、ブドウの果皮に砂糖を添加して、もっと量を作れるように調整していたが、アルコール度数は3~4%よりもっと多く感じられた。スキンコンタクトを終えた直後の果皮を使うのですぐに発酵が始まり、1週間ほどで完成。発酵が進まない場合は、澱引き後のあまった澱を入れることもあるそうだ。

ローマ時代には、奴隷や労働者階級のためにさらに水で割ったり、ひどい味の場合はハーブやスパイスを漬け込んで、飲まれていたらしい。ロラ(Lora)の総称で呼ばれていたそうで、サングリアみたいで美味そうではある。

ニコラも完全に発酵が終わる前に、空き瓶に王冠で瓶詰めをして、スパークリングにすることで爽やかなテイストにしていた。畑仕事終わりのビールの代わりにとってもよさそう。水は井戸水で、果皮は使わなかったら肥料になるだけのもの(もちろんピケットを作った後でも肥料にはなる)。砂糖もそこまでお金がかからないだろうし、なによりとても"sympa!"「感じがいい」。アルコール度数やその他成分も少なく、収穫後の醸造が終わった時期にしか飲めなかっただろうから、冬の寒い間だけしか飲めないものだったのだろうか。今は炭酸ガスと一緒に瓶詰めできるので、セラーの温度ならば翌年までは十分にもつだろうし、ガスありで暑い時期に飲むと最高だろう。【ヴィニ・ヴィニティ・ヴィンチ】でも、ブロガーのベルトラン・カルス(http://www.wineterroirs.com)とニコラとで大いに盛り上がった。

所は変わるけれど、チリでも面白いブドウジュースを飲ませてもらったことがある。収穫してすぐに絞ったブドウの果汁に、ブドウの枝を燃やした灰を、果汁100Lあたり1kg加えて混ぜ、固形物が沈殿するのを待つと出来上がる。灰の清澄作用で発酵の始まりを抑えられるので、冷蔵庫で冷やしておけば、しばらくはジュースとして飲める。子供たちが美味しそうに飲んでいた。

 

ルイ・アントワーヌとチリの農家、ミゲルの家族。

衛生面でクリアしなければならない課題が山ほどありそうだから、製品化は無理だろうけれど、こうした副産物や再利用したりしたものは、味わいがなんとも言えず、素朴で気軽でたまらない。

ジョージアでは、副産物であるはずのチャチャの方が、ワインよりも多く消費されているような気すらする。ソビエト連邦の構成国であったころは、いったんワインにしたら国に納めなくてはならなかった。そのため、わざと果皮を絞らず、たくさん蒸留できるようにしていた時の名残りだそうだ(冗談だったのかもしれないが)。これもまた、アルコールの強さを感じさせず、胸にじんわりと染み渡る。

ジョージアのとある蒸留機。簡素&素朴。※撮影:北島裕

日本は蒸留酒に含まれるメタノール量の規制が厳しく、リットルあたり0.1%以上含まれると輸入できない(けれども、通常0.3~0.6%含まれることが多い)。醸造酒を蒸留すれば、エタノール(普通のアルコール)と同時に必ず少量のメタノールが生成される。果実酒は特にメタノールが出やすく、段階的に蒸留することでメタノールを除去することもできるが、それではやはり味わいが変わってしまいそうだ。ヨーロッパでは果実蒸留酒が食後に楽しまれることが多い。最近ではテキーラやジンにも少量生産の面白いものがたくさんあり、

メタノールの致死量は30ml~100mlで、10mlで視覚に失明の恐れがあるらしい。が、仮にメタノールが0.5%含まれる蒸留酒を飲んだとしても、2L飲まない限りそんなことにはならない勘定。蒸留酒を500mlも飲んだら、エタノールのせいで病院行きになるだろう。
そんなわけで、いくら、ちょっとくらいならと思っても、規制を上回るメタノール含有率の蒸留酒は輸入できないし、規制を下回るものはお墨付きがあっても、手を出したくない。

規制緩和、お願いします。

 

~プロフィール~

合田 玲英(ごうだ れい) 1986年生まれ。東京都出身。
2007年、2009年:
フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫
2009年秋~2012年2月: レオン・バラルのもとで研修
2012年2月~2013年2月:ギリシャ・ケファロニア島の造り手 (ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修
2013年2月~2015年6月:イタリア・トリノ在住
2017年現在、フランス在住


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