*

エッセイ:Vol.118 ワイン原論 色と形のオデュッセイ②〈エネルギーと波動〉が裏付ける、形の作用について

はじめに

 一回飛んでしまった前回の試論(2017.2.27)で、私の「色と形の仮説」を紹介しました。ワインを取り囲む、ワインの近くに配されたさまざまな色と形が、ワインの味わいに重大な影響を及ぼす、というものです。
 試論の最後に付した、長たらしい「予告編」のなかでは、ギブソンのアフォーダンス理論に説得力があることを示唆し、その理論の土台をなしている「包囲光理論」に注目しました。
 従来の伝統的な光学が、光源から直線的に進む《放射理論》なのに対し、ギブソンは放射光が散乱反射されて「媒質」を通過するとして、この媒質中に充満している光=照明を視覚の基礎にすべきだと考えました。そして、媒質中の一点を包囲する光のことを「包囲光」(ambient light)と呼び、包囲光の配列=構造が周囲にとっての情報になる、という視覚情報の視点を提出したのです。詳しくは、前回ご紹介の参考文献をご覧ください。
 ちなみにコンピュータのディスプレイから放たれる、目にとって有害な波長の青色光は、包囲光ではなく放射光であって、いきなり網膜を襲うから有害の度が強いのだそうです。
 が、アフォーダンス理論については、その説明力と説明領域がいまのところ十分に理解できていないので、ここまでにしましょう。

 

本論:かたちの力

 ところで、「色と形のオデュッセイ」という、もったいぶったタイトルをなぜ付けたのかについて。いうまでもなくこの題は、哲学者・中村雄二郎さんの著した刺激的な『かたちのオディッセイ』(岩波書店、1991)をもじったものです。哲学する行動家ともいうべき中村さんは、過去の思想や学説を整理紹介するのではなくて、現代の科学と芸術のありようを踏まえ共感しながら、さまざまな具体的問題に果敢に取り組みます。そのプロセスをひとつのかたちにした成果が、本書『かたちのオディッセイ』であって、中村さんもまた、〈かたちの力〉の謎を解こうと思ったのです。ただ、かねがね私は、〈形〉だけでなく、〈色〉もまたワインの味わいに影響を及ぼす、と考えていたので、タイトルに色を添えた、という次第です。

 

かたちの作用:シェルドレイクとボームの所説

 そこで、かたちに戻れば、「或るものの〈かたち〉は他のものに対して、時間的・空間的にどんなに離れていても、エネルギーなしで因果作用を及ぼし、〈かたち〉を刻印してメッセージを伝えうる」というのが、イギリスの生物学者ルパート・シェルドレイクの「形成的因果作用」説です。
 いいですね。ですが、この「エネルギーなしで」という点が不可解であるとして中村さんは、「内臓秩序」の観点に立つ現代物理学者デヴィッド・ボームの考え方に近づきます。つまり、「形態形成場には微細なエネルギーが内臓されている」と見るのです。ちょっとややこしいけれど、中村さんは、「微細なエネルギー」に担われた形態が発する情報がうまく伝達されれば、「振動共振の引き込みによる形態共振」が起きると考えています。たいへん興味深い「振動共振」と「引き込み」現象については直接、中村さんの著書に当たってください。
 いずれにせよ、この振動の引き込みよる形態共振の現われのひとつが、〈ワインに及ぼす形の力〉であると、私は解釈しているのです。

 

エネルギーと波動を織り込めば…

 このような見方の物理学的な基礎をなすのが、エネルギーと波動の関係をいち早く論じたハンス・イェンニの『波動学』(1967)です。イェンニの考え方は、彼の盟友でもあったルネ・ユイグの言葉を借りましょう。ユイグ畢生の大作『かたちの力』は、私の視点とは異なりますが重なる所もありますので、少なくとも熟読玩味に値します。
 なお、以下の引用部分は、奇しくも中村さんの著作に引かれているところと同じ箇所であると気づきましたので、付言しておきます。ユイグの著作の市価は高いので、『かたちのオディッセイ』(著作集にも含まれている)だけでも、こと足りるでしょう。

 「自然のなかには『どんなものにでも波動、振動、脈動の状態で存在を許している、ある周期的なリズム』が、そのリズムだけが存在する。このように始めは、エネルギーと、波の姿で振動しているその実態のみが存在する。しかもそれらは、『多様性のなかで、統一を意地している…、基底的な振動現象』なのである。その振動現象がかたちの根源にあって、いわばかたちのなかに具体化されてくるのであり、それと同様に物質の状態変化と結びついているのである。」(ルネ・ユイグ『かたちと力』、潮出版社、1988、pp.528-7)

 ここには、「かたち」「力」というキーワードに、「リズム」と「エネルギー」という物理学の視点が明快に挿入されていて、かたち論議を深める方向性が示唆されていると思います。
 いずれにせよ、ここまで説き明かされれば、ワインに対する形の作用というわが持論が、まんざら荒唐無稽ではない、と見当がつくのではないでしょうか。
 そのような見方と学説に支えられて私は、ワインボトルに貼られているエチケット(いわゆる表ラベル)と裏ラベルの形が、ワインの味わいにプラスあるいはマイナスの影響を及ぼす、と確信をもって主張するのです。ただ、世間には、物理学とは無縁ながら、化学を装った怪しげな「波動理論」があるので、惑わされないようご注意ください。

 

形の各論にむけて

 それでは、どのような形が、どのようにワインの味わいに作用し、影響するのでしょうか。私はまだ、あるいは常に、実験中と称してワインを飲み味わっているさなかなので、ここではさしあたりの仮説をご覧に入れましょう。

[前提条件] ラベルの用紙と素材によって、ワインの味わいに及ぼす影響は違う。けれども、同一のワインを収めるビンに、同一の素材でほぼ同一面積を占める、異なる形状をしたラベルを貼付する、というように実験条件を統一します。

[結果]
Ⅰ.枠の形状
①長方形または正方形という、直角(90°)を有するラベルは、その角を丸めてR状に修正したラベルに比べて、バランスを欠く、尖った味になりやすい。
②楕円または円形をしたラベルは、長方形または正方形をしたラベルおよびその修正版(②)よりも、バランスがとれ、後味が長くなる傾向がある。

Ⅱ.枠内のデザイン
①ワインの味わいを、緊張させるデザイン(図案)と、緊張開放させるデザインがある。
②私見では、緊張型デザインよりも、緊張開放型デザインのほうがより好ましく、それよりいっそう好ましいのは、適度な緊張感(焦点)と適度な解放感(広がり)を併せ持つデザインである。
③渦巻き形のデザインについては、注意を要する。一般に動物の成長した軌跡を殻に表したデザイン(貝殻、カタツムリ形、アンモナイトの化石など。対数螺旋式をコンピュータで描いたものも同じ)は、プラスの活性効果がある。これに対し、指紋や掌紋などの渦巻き形は、ネガティヴな効果があり、味わいを暗くしたり、ノイズを与えがちである。
 ちなみに、アレッサンドロ・フィリピが率いるヴィニ・ッディ・ルーチェのシンボルマークは、指導者の深い考え方を明快に示したものであって、渦巻きを内包する味わいに効果的な円形デザインである。

 


PAGE TOP ↑