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社員リレー・エッセイ 14 浅井 亮(営業部)

 4月はラシーヌ創立14年。リレー・エッセイも14号。
 そして節目の季節ということもあり、自身の14年前を思い出してみると20歳。自身にとって原点となるワインとの出会いがあったので、それについて少し。

 ヨーロッパが歴史的な猛暑に見舞われた2003年、当時はフランス南西部ロワール県の、とあるレストランで研修生として働いていた。11世紀の城砦が建つ小さな町は決して栄えているとは言えず、電車も数時間に1本という片田舎だったが、そのレストランは連日昼夜満席。某ガイドの「車を飛ばしてでも行きたい店」、という言に頷ける盛況ぶりだった。
 MOFのシェフが創る料理は非常に古典的で、豚の膀胱や鶏のとさかなど、今では見ることの少ない食材がコースの中に不断に使われており、数多くの貴重な経験をさせていただいたと、この文を書いていて思い起こす。

 この頃の自分はもっぱら料理に魅かれており、ワインにはほぼ興味が無く、酸っぱい飲み物だなぁくらいに考えていたはず。しかし、せっかくこういった場にいるのだからと、仲の良いCommis SommelierのDavidに頼んでカーヴを見せてもらったことがある。
 洞窟のようなカーヴは地下2階まで続き、最奥部は鉄格子が取り付けられ、鎖で封印された場所もあった。Davidが所々でボトルを手に取り、嬉々として見せながら説明してくれたのを良く覚えているが、こちらはまったく読めずわからず。。。現地のカーヴはさすがだな~程度の感想で、彼は残念に思ったことだろう。
 日本に戻ってきてから調べたことだが、このレストランは周辺で有数のワインストックを誇っており、ワインを目的に通い続ける顧客もいたという。撮るだけ撮っておいた当時の写真を、内容を判別できる様になった今見返してみると、素晴らしい造り手たちの作品が所狭しと寝かせられ、その量と質たるや圧巻。マデイラやポルトになると1700年代から並んでいて、目が飛び出るようなコレクションだった。

 そんな環境で過ごしていたある日のこと、仕事を終えて皆に一言かけてから帰ろうと各フロアを回っていたとき、真剣な面持ちのDavidがバックヤードでグラスを傾けているのを見つける。いつも通り声をかけて挨拶を交わし、何の気もなしに「何しているの?」と尋ねると、彼はにやりとしながら持っていたグラスをこちらへ手渡してきた。

 訝しがりながらも手に取り、鼻に近づけて香りを確かめた瞬間のことは、一生忘れられない。

 足元から頭まで瞬時に鳥肌が立ち、自分が今嗅いだ液体がいったい何なのか、自覚できなかった。恐る恐る口にすると、その味わいもまた当時の自分が知っていた「ワインの味の範囲」から大きくかけ離れたところに位置しており、そこまで辿り着く過程が全く想像できず、「美味しい」という味覚よりも圧倒的に「驚き」の感覚のほうが強かった。20歳の若造には強烈な刺激で、これがワインへの興味を持つ大きな要因となったのだろう。

 ちなみにこのターニングポイントを与えてくれたDavidは、その後Chef Sommelierに昇格し、しばらく勤務したのち、今はザ・リッツ・カールトン・モントリオールのメインダイニング、Maison BouludにてChef Sommelierを務めている。

 あの時Davidに手渡された1杯に勝る衝撃には、未だ出会えていない。物事の原点となるほどのワインとの出会い、というのはそうそう簡単には起こらず、蓄積された情報と経験値も、感動やまっとうな評価を阻害する要因になり得てしまうが、日々省みつつ、探し続け、その縁に恵まれるよう努めたい。

  偶然にも生まれ年だったそのボトルは、パニエに横たわり、今でも部屋に飾られている。

 

美野輪さん、出番です。


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