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『ラシーヌ便り』no. 137

 3月10日から駆け足で、スペイン、ブルゴーニュ、トスカーナを訪ねてきました。Vinitaly前に、いくつかの緊急の用件のために行きましたが、今月もお伝えしたいことがもりだくさんです。今年も素晴らしいワインが入荷する手ごたえを感じて帰ってきました。 その一部をご報告いたします。

 

1)【アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール

2016年は霜と雹に襲われ、アリスとオリヴィエは500リットルしか収穫できませんでした。わずか600本分だけです。そのため、南仏の友だちからブドウを貰ったり、買ったりして、醸造しました。ボジョレ南部から南仏にかけて、2016年は質量ともに恵まれた作柄でした。【ラングロール】の樹齢100年のボーブランクとグルナシュ・ブラン、【エリック・テクシエ】のクレレット、【マゼル】のシャルドネ、【グラムノン】のヴィオニエと、長年の友人たちから異なる品種のブドウを譲り受け、7回もシャブリからローヌ、タベルを行き来して、醸造しました。たくさんの量を譲り受けた【マゼル】のシャルドネは、トマ・ピコとモンタネとで分け合いました。きっと、辛さにもかかわらず、別の嬉しさを感じながらの道程ではなかったでしょうか。

どんなワインになったかですかって? 想像するだけでワクワクしてきませんか? 南のブドウで作っても、二人のちょっと冗談の効いた確かな腕が冴えていて、本当においしくて、愉快なワインです。

そして、素敵なお知らせです。「今年から、メテヤージュ(折半小作契約)で2つの1級の畑を耕すことになったのよ。 高齢になったヴィニュロンが引退して、私たちに1級畑のブドウを譲ってくれることになったの」と、2人ともとても嬉しそうでした。

 

2)【イル・マッロネート

カタルーニアからバルセロナに出て、空路ピサへ。 春のトスカーナの景色に感激しながら、キアンティからモンタルチーノに入りました。 イル・マッロネートのテラスから、シエナを眺める風景は、アレッサンドロ・モーリのご自慢です。 「この素晴らしい風景に魅せられて、父はこの別荘を買ったのだ」とは、前回と前々回にも聞いた話です。けれども、「自慢するのも無理はない」趣にみちあふれた、静かで暖かさを感じる春の夕暮れの風景を楽しみました。

 新しい大樽が7つ届き、大掛かりな入れ替え作業の真最中でした。 Madonna delle Grazie 2010 を生み出した、No18 の樽に眠る2013。優雅で複雑、アレッサンドロが思いのままに楽しく仕事をしているような明るさに満ちています。2012、2013、2015、2016とテイスティングするアレッサンドロは満面の笑みをたたえ、自信にあふれていました。いつからこんな風に作れるようになったのか、まだ私にはまだわかりませんが、世界中から寄せられる賛辞と、注文の嵐と渦の中にとても幸せそうです。 セラー環境が一層充実したので、今後出てくるワインがますます楽しみです

 

3)ポデーレ・イル・パラッツィーノ

モンタルチーノでイル・マッロネートのアレッサンドロと食事していた時、お店の人とキアンティ・クラシコの話になりました。「LaPorta di Vertine はロシア人が買ったけれど、取り引き続けるの?」 と 訊かれました。本当に大好きなワインでした。とっても辛いのですが、ジャコモ・マストレッタが去ったヴェルティーネと取り引きするわけがありません。
 「Il Palazzino を知ってるかい? 今年のアンテプリマで、とびっきり良かったよ。すぐに追加発注したよ」 と店が自慢するのを聞いて、本当に嬉しく思いました。イル・パラッツィーノとは1995年からの取引き関係ですが、去年からみごとな急回復をとげています。現在、東京で販売している2012 も、お手頃なキアンティ・クラシコの中ではダントツです。
 スーパー・トスカンのGrosso Sanese で名を馳せてきましたが、長く働いていた醸造家が病没し、状況は変わりました。当主のアレッサンドロ・ズデルチ(愛称サンドロ)は、これまでも週末にはシエナのアパートからガイオーレに帰り、ワインを造ってきましたが、醸造家の死後は銀行を辞め、やむなくワイン専業の道を歩むようになったと、私たちは想像しています。サンドロは優しく誠実で一生懸命でしたが、ワインにはかつての伸びやかな美味しさがなく、ガイオーレの厚ぼったさばかり目立ち、私たちには、正直重荷になってきていました。
 残念だけれど、そろそろ取引きをやめようかと内心思っていましたら、なぜか昨年からいきなりワインが変わって来ました。味わいにエネルギーが出てきたのです。ソルデラの訪問を終えたのが4時過ぎでしたが、急遽イル・パラッツィーノを訪ねることにしました。
 セラーに入るのは久しぶりです。息子さんの エドアルドが2015年から新しいラインを作っていました。去年の新作 Azzero (亜硫酸ゼロのサンジョヴェーゼ) 2015は、ただ亜硫酸が低いだけで美味しさを感じさせなかったのですが、2016はしっとりとした味わいに仕上がっていて、その素晴らしい出来栄えに一同驚きました。お馴染みのキュヴェも、見違えるほど良くなっています。正直に思っていることを話すと、「2013年から、モンテヴェルティーネ のアグロノミスト、ルジェーロ・マッツィーニに指導してもらっている。それに今は、エドアルドと一緒に作っている」と、サンドロは大変嬉しそうでした。イル・パラッツィーノの再生と新世代の出発―長い取引きに時代を画す、新たなページの始まりです。

 

4)【カーゼ・バッセ】ジャンフランコ・ソルデラさん、相変わらず意気軒昂
 カーゼ・バッセを訪問しました。2012年の事件このかた監視が厳重になり、セラー内は撮影禁止。最近はオフィス内と、畑の外の風景しか撮ることができません。ジャンフランコさんは、大変お元気で「やあ、よく来た、よく来た」と迎えてくださいました。元々ミラノの実業家でおられたので、うかがうといつも日本の政治や経済全般について質問されます。「うーん、聞いてると日本もイタリアもひどいね。でも経済は日本の方がましかな。イタリアはひどいもんだ。イタリアは、古い体制のままで、老人が若い人に仕事を譲らず、世代交代が少ない。だから銀行は、強制的に高年齢者を20%だけ若い世代と入れ替えた。そうしないと今の時代のシステムについていけず、銀行はダメになる一方だ。老齢化は進むけど、長生きは良くないような話はやめておこう(と、ニヤリ)。ここにいると毎日、楽しいよ。でも、この太陽があるからね。今年の暮れのビン詰めから、ようやく通常の量にもどるからね。日本も大地震、原発事故と大変な数年だったのに、苦難の時を支えてくれて、日本のマーケットに本当に感謝している。ありがとう」 と、ジャンフランコさん。今年は2010年がリリースされます。
 「ワインを味わうには、環境が大切。乾燥し、冷涼でなくてはいけない。そう言えば、ワインを飲むには、ヴェネツィアは最悪だ。当たり前だけど、ワインは生まれた場所で熟成するのが理想だ。造り手は、冷たいセラーを持ってなければいけない。フィアット500を売るのとフェラーリを売るのとは違う仕事だ。両方売るのは、至難の技。ワインも同じ。安物のワインを売るのと、真正なワインを売るのは異なる技だ。 白ワインであろうと、赤ワインであろうと、果皮にあるものを抽出したものしか、ワインではない。果皮浸漬をしないワインは、コカコーラだ。
 若い人に言いたいんだが、カンティーナを訪問したら、絶対に樽から試飲しなければならない。樽の中のワイン、それが真実だから。若い人たちが、ここにくることは大事だけれど、その前にこのワインが、どれほど他のワインと違うかが分かる人でなければならない。 正しいワインがわかる経験を重ねて来た若い人なら、次に来るとき連れて来ていいよ。一緒にとびっきりおいしい食事をしよう!」
 という言葉とともにオフィスを出て、ランドローヴァーを自分で運転しながら、行きつけのレストランに誘っていただきましたが、その健啖家ぶりにびっくりしました。いろいろと有難うございました、ジャンフランコさん。

Solderaご自慢のオリーヴオイルを前に
ご自慢のソルデラ製オリーヴオイル。「オイルは、友達用で、販売していない。こうやって食べるんだ」とお皿に塩をしてパンをのせ、パンの両面にタップリというか、ジャブジャブかけて、一盛りのパンは、あっという間になくなった。

 

 


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