Sac a vinのひとり言 其の二
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最終更新日:2018/02/05
建部 洋平の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ
先日おっとっとを食べた結果、奥歯が粉砕遊ばされました
皆様ご機嫌麗しゅう。
Comment allez vous? Quoi de neuf?
なんかガキっという音が口の中に響き、「おお! まさか此れ成るは音に聞く異物混入なるものをか!」と思い、有る意味ワクワクしつつ吐き出してみますと、まあ砕けておりました。
Qu’est ce qui se passe, qu’est ce qui se passe…c’est impossible!
まあ その様な私事はどうでも宜しい peu importe なのですが、その治療の折に奥歯を削り応急手当を施して1週間ほど過ごしてみまして、「ああ!歯ごたえというモノは何かを味わう上でなんと大切云々」 などという有りがちなオチに行き着く訳も無くて...
お腹が空いていたので余ものの唐揚げを食べてみたのです。スーパーの出来合いので可也bien cuit 気味の。奥歯は相も変わらずça ne marche pas 。普段はチープなムチムチの鶏ももも好きなのですが、食べづらいお陰で全然美味しくございません。なら目の前におわしますカチカチのむね肉様は更に悲惨な事に...などと思い、ええいままよ! と口に放り込み、アモアモと噛んでみたところ、確かに固い、硬いのだがむね肉の構造上前歯で噛むだけで細かく小さな塊に分かれ、容易に嚥下することが出来たのです。
ここで私が言いたいのは
「歯が無いと美味しくものが食べられない」や
「食感 テクスチャーは味わいの中で重要な位置を占める。」
等という自明の理ではなく、
「口の中の状態変化により、
Aのポジティブがネガティブになり、Bのネガティブがポジティブに変化しうる」ということである。
この状態変化には 年齢 国籍 健康状態 性別 生活習慣 喫煙 口内の空間の広さetc...ありとあらゆるパラメータを導入することが可能であり、且つ勘定に入れねばならない。
更にもう一歩踏み込んで考えてみると、自分が歯にダメージを負った際に痛みが原因で普段よりも少ない量しか摂取出来なかった。継続して食べること自体は可能では有ったと思うが、楽しみではなく苦痛を伴うものに成っていたであろう。「美味しく感じられる量の限界点に達した」と端的に言えるだろうか。そして考察は此処からで 先に述べた鶏のむね肉ともも肉の感じ方の変化をこの考え方に反映させると、胸と腿では明らかに限界点に差があり、また平時と負傷時ではそのポイントが容易に移り変わる。それは殊更に疾病に限ったことではない。端的に述べ上げるならば 「人 人間 知的生物は何らかの物質を摂取する際、単に栄養だけではなく快感なり嫌悪感なり生物の存続に必要とは言い切れない曖昧模糊な感覚なり感情なり脊髄よりも脳髄寄りな反応を得るが、その効果ないし効能は環境、感情、関係性、所属集団など様々な条件により容易に移り変わるものである」とでもまとめられるであろう。
Vous pensez comment?…à la la. Ça dépend, ça dépend du.. .mnmn il y a trop des choses pour continuer après de la phase de ‘ça dépend ‘…
ここまで読み進められた方の87パーセント位はおそらく「この者は何故に斯様な戯れ言を持って崇高なるラシーヌ便りの紙面を汚すなり。 之なる無知蒙昧な暴虐はゆるせぬ。 一つ彼奴の頬に痛烈な打擲” il faudrait lui donner une pêche” を呉れてやらねば 云々」と思われたであろう。 その感覚は正しきモノであるし、某も意見を同じくするであろう。
しかし後少し。 手間は取らせませぬ。 ここまでは噺の枕であり、此処からが肝、 云わば鮪の大トロなのである。もう少しお付き合い願いたい。何? 鮪は赤身の方が好き? まあここまで読まれたのだ、 毒を食われたのなら確りと皿も食べていただこうでは無いか...aller. On y va jusqu’au bout.
今迄に述べた事を踏まえて、更に自身の細やかな経験と知識から、私は少々大胆ではあるが以下の仮説を述べたい
「アルコールを普段摂取する機会が多く、且つ量的にも潤沢に飲まれる人間ほど、それ以外の条件を同じくする場合、比較対象に比べて”酸味が強く、軽やかで、ナチュラルなワイン”を好む傾向にある。」と。
※この仮説の対象はあくまで食べること、呑む(飲む)ことに何らかの拘りを持つ人間であり、皆様もそれ以外には興味はないであろう。
簡単に言えば「呑兵衛ほど飲み口の良い、更に次の日に残らない酒を無意識に好む」で あろうか。
身体は正直なモノである。
わかりやすく例を挙げよう。
喉がカラカラの時に目の前に二つの飲み物が置かれる。
甲は甘みタップリ キリリと冷えたレモネード
乙はこんこんと湧き出る岩清水 但し常温
設問1 もし今コップ一杯だけ飲めるとした場合、どちらを選ぶ。
設問2 毎日1.5Lを飲まないとならない場合、どちらを選ぶ。
想像してみれば自明の理である。
アルコールが関係無いのでは無いかという疑問は一々最も。なれど 此処で重視するべき点、ないし察せられる事は
「前後の連続性の無い 個体の志向(思考、ないし嗜好)による好悪、リビドー、外部からの何らかの影響の無い自身の消費の選択と常習 恒常的かつ根源的な欲求に依る選択の間には明確な差異があり、それは必ずしも漸進的に強化の方向に行くとは限らず、動物的な感覚に依る場合、心身共にストレスが少ない様に自然と向かいやすいモノである。」
之が考察に値するか否かは皆様の実体験と照らし合わせて頂ければ、態々紙面を費やして述べる必要もないであろう。
私はこの仮説を販売戦略の取捨選択の際に利用していますと云うだけで、殊更に私の拙文に目を落とされる数奇な皆々様方の同意を得ようなどと身の丈に会わない野心は抱きませぬ。ただこんなエリマキトカゲの様なソムリエもいるのだなあ... 等と認識してくだされば幸いであります。
少々語り過ぎた様な気がします。
又機会がありましたら、次回はもう少しまともなアフォリズムでも書くとしましょう。
~プロフィール~
建部 洋平(たてべ ようへい)
北海道出身で1983年生まれ。調理士の専門教育をへて、国内で各種料理に携わる。
ブルゴーニュで調理師の研修中、ワインに魅せられてソムリエに転身。
ボーヌのソムリエコース(BP)を2010年に修了、パリ6区の「Relais Louis XIII」にて
シェフ・ソムリエを勤める。現在フリー。