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合田玲英のフィールド・ノートVol.46

《 イヴォン・メトラ来日 》

 2月14日にイヴォン・メトラが来日しました。セラーを訪問してもなかなか多くを語ってくれることはありませんが、パートナーのグスタさんの手助けもあり、日本では終始リラックスした様子で話しをしていました。どんなワインを飲むときでも、国や品種に関係なく、先入観なく前のめりにテイスティングをしていて、ワインそのものが本当に好きなのだと、数日間近くにいて感じました。
以下イヴォン語録です。

 “日本料理を食べていると、なぜ、日本人にヴァン・ナチュールがここまで受け入れられたのかがよく分かる。ソースの味が濃いクラシックなフランス料理にはヴァン・ナチュールは合わないことが多い。対して日本料理のように薄いわけではなく、デリケートで洗練された料理にはヴァン・ナチュールがとてもよく合う。ただ、山の中で食べた料亭料理はあまりの異世界感に驚いて、味がよくわからなかったよ。日本にはマルク・アンジェリなど、フランスではほとんど見かけることのない生産者のワインがたくさんあるね。僕の古いヴィンテージも、自分のセラーにもないものが出て来て本当に驚いている。どんなワインを飲んだか息子のジュールに写真を送っても、信じてもらえないよ。合成写真かと聞き返してくるくらいだ。それにどの人もとても大切にワインを扱っているね。日本人はフランス人よりもワインを好きかもしれないなあ”。

 “今のワイン業界に対して思うことは、待つことができなくなっている、ということを常々感じている。造る側も飲む側もゆっくり腰を据えて、ワインと対することができない。若い生産者に対して伝えたいことは、待つことを知らなければいけない(Il faut savoir attendre)ということだ。ただみんな老人の言うことは聞かないからなあ。僕はオヴェルノワのところへ本当によく通った。ピエールのプルサーは50年代から全ミレジム飲ませてもらっている。今でもピエールと話すことはワインづくりにおいてとても役に立っている。ピエールは時間をかけることを惜しまない。彼は今もっぱらパンを焼いて過ごしているけれど、パン作りの姿勢も同じだ。待つこと。これがワインにとって一番大事なのだ。
ピエールはどんな時だってワインを諦めたことがない。熟成中におかしな香りのするワインだってあった。けれど、どうすればそのワインを助けることができるのかを、いつだって考えていた。万が一どうしても、うまく軌道修正のできなかったワインがあった場合、彼は瓶詰めすることがなかった。だからボトルから飲む彼のワインは亜硫酸無添加にもかかわらず、常にまっすぐ(droit)で、揮発酸とも無縁だった。うちでも亜硫酸の添加は2015年からは瓶詰め時にもしていない”。

 “揮発酸というものは、いわゆるワインの欠陥的香りの中で、唯一科学的に値が得られるものだ。それだけに話題にあげやすいがしかし、ワインの味わいというものは多くの要素が絡んでいて、狭い範囲の要素だけを取り上げて話すべきではない。必要なのは味わい全体の調和だ。還元香に関しては欠点ですらない。造り手も飲み手も待つということができていないだけだ。セミ・カーボニック・マセレーションというのは揮発酸の出やすい醸造法ではあるが、ブドウの粒が潰されることなく、その粒の中で発酵が進むことで、独特のアロマが形成されるとても興味深い醸造方法だ。
(あなたのワインにはなぜカーボニック・マセレーションらしい香りがしないのか、という質問に対して笑いながら答えて)1から10まで言うつもりはないが、どの地方や品種にも大きく醸造法というものはあるけれど、あとは細かな部分を生産者自身が自分で調整をすることが大事なのだ。多くの微調整が最終的にワインの味わいを方向づける”。

 “僕はガメイ品種のセミ・カーボニック・マセレーションの生産者だけれど、新しい醸造法というのはとても面白いものだね。20年ほど前に白の醸造は2回ほどやった。あまり好きではなかったな。5年ほど前から、家で飲んでしまうように、ジュールと一緒に甕醸造もした。家にもともと200年前に作られたティナハが置いてあって、それを使ったのだが、結局漏れがあってそこから揮発酸が発生して、思うようにはいかなかった。それから数年は収量の少ない年が続いたから、実験できるだけの余裕がなかった。最近ではスプートニクと僕らが呼んでいる発酵槽が面白い。グラスファイバー製の、卵を寝かせたような形で、だいたい500Lくらいか。醱酵槽を密閉し、全体を回転させることができるのが特徴で、とてもデリケートな抽出が可能だ。ブドウの状態がそこまで良くなくても、醸造によって大きくリカバリーできる画期的な醱酵槽だと思う。2017年がいい年になったら、最高の状態のブドウを使ってみたい”。

 “2016年、ボジョレーでは南部3クリュではとてもよい年だったが、中部北部の、モルゴン、フルーリー、シルーブルなどの地区は2回も雹が降った。通常、雹というものは局地的なものだが、2回目の雹は東西に25kmにわたり、なめるように降った。ありえないことだ。雹の頻度自体は昔よりも少ないくらいだが、降る範囲が拡大している。冬の間の水不足も問題で、統計では以前の60%しか雨がふっていないそうだ。ただ、気候変動というものは長い期間で変わるもので、数十年後にはまた気温が下がって行くという話もある。心配しすぎず、どう対応するかを考えるべきだ”。

 “現在のジュールのボジョレーの畑は偉大なワインをつくるには少したりないが、2017年ヴィンテージ用にシルーブルに畑を1ha買った。やがて自分のフルーリーの畑も継ぐことになるだろう。ジュールは僕よりもヴァン・ナチュールというものへのこだわりが強い。まだまだ危ういが一応は老人の話も聞くし、畑での仕事を怠らないから安心かな”。

 

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年~現在≫イタリア・トリノ在住


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