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合田玲英のフィールド・ノートVol.45

《 いい年、わるい年 》

 ピエモンテでは質、量ともに満足のいく年となった2016年。当然のことだがどんな年であっても生産者ごとに対応は異なる。

−フェルディナンド・プリンチピアーノ

 ”この数年、雨の多い年が続いたけれど、ようやく質も量も、どちらも納得のいく年がきた。特に白はまだ植えたばかりの若木で、ようやくよい収量を得ることができた”。ティモラッソという土着の白品種の若木は7,000L/haも収量があった。2004年に有機栽培へと方向転換し、現在は除葉やグリーンハーベストも極力行わないため、収量管理は冬の選定による所が大きい。ボスカレートの畑では、硫黄や銅の使用も2014年のように雨の多い年以外は控えている。収量をしぼり凝縮感を持たせ、果実の熟度の高いブドウでしっかりと抽出するイタリアワインの流れとは、また別の方向性の味わいを目指している。

 

−リヴェッラ・セラフィーノ

 ”今年は確かに雨も適度に降り、いい年だった。だが芽かきやグリーンハーベストなどで収量は管理している”。
テオバルド・セラフィーノの畑では2014年であっても綺麗なブドウが成っていたことに驚いた。2016年のように豊作の年であっても、収量を抑え、彼の思う理想の状態のブドウに仕上げている。現在は高級ワイン市場であっても早く飲めるワインが求められている。彼のバルバレスコはその条件を満たしながらも、長熟に耐えうる。テオバルドによると父の代は全房発酵で、しかも数ヶ月間マセレーションを行なっていたが、そうすると20年近くそのワインを飲むことはできなかったそうだ。現在は完全に除梗していて、確かに2012年などの比較的暖かい年のワインは、リリース直後からも、滑らかなタンニンが心地よい。彼のドルチェット・ダルバもドルチェットと侮るなかれ。2、3年も置いておくと、まさに職人気質の彼の世界観の片鱗に触れることができる。

 

−ロアーニャ

 ”ブドウ樹が古く、植生の多様な栽培をしていれば、今年のような気候であっても果実が多く実るということはない”。
2016年収穫前の9月、忙しい中キラリと鋭い目つきのルーカは訪問を受け入れてくれた。草が膝の高さまで茂る畑でそう言われると、説得力がある。枝先を切らないので、葉の量は他のワイナリーの畑よりもかなり多いように見える。これが彼のワインの凝縮感の凄さの要因の1つか?
 ランゲロッソで3年、バローロ、バルバレスコでは5年という長い樽熟成を行なっているロアーニャ。訪問予約もなかなか取れないので、栽培醸造の全貌はなかなか見えないが、彼の畑にはいつ来ても美しいブドウが成っている。

 

 いい年、わるい(むずかしい)年が意味するのは、量の問題で、質に関しては、ワインの特徴として味わいに現れるにすぎない(特に雨や病気の多かった地域の生産者の顔を思うとこうは言い切りにくいけれど)。最近のヴィンテージで言えば2014年は確かに、雨も多く病気も発生した。訪問すると皆、選果がどれだけ大変だったかを話してくれた。しかし、出来上がったワインに生産者たちは大変満足している。彼らの顧客の多くは、暑く乾燥した年であった2015年こそ、偉大なヴィンテージだという声が大多数だそう。一方生産者たちは、2014年をクラシックな年と呼び、(L’annee classic, L’annata classica)区画ごとの味わいの違いは、昔のような冷涼な年の方が際立つ、と話す。
”皆、2015年ばかり欲しがるから、2014年は俺の老後の楽しみにとっておいてやる!こういう年のワインがどれだけ美しく熟成するかはあまり知られていない”とティエリー・アルマンは言う。
 ロワールで比べてみても、2015年はリリース直後から素直にうまいと思える果実味が全開で、2014年は味わいがまとまるのに時間がかかる。亜流無添加で醸造しているシノンのジェラール・マリュラのワインは特にデリケートでその傾向が強い。彼はディーブ・ブテイユに初回から参加していたにもかかわらず、あまり知られることがなかった。ワイナリー訪問時と試飲会でのテイスティングの味わいの質感にこれほど違いのでる生産者も少ない。2014年はようやくカベルネ・フランの強い青臭さも落ち着いてきた。春先にはさらに開いてくれることだろう。

 

−ジェラール・シュレール・エ・フィス

 ちょうど南北に500km離れているランゲとアルザス。仕立ても大きな垣根式で、どことなく似ている。アルザスでは雹や遅霜の被害が出ることは稀だそうだ。ただし、日照や雨の多さにより、適切な果実の熟度を得ることが難しいように思える。2016年はまさにそれの典型的な年だった。しかし皆が収穫を遅めて果実の熟すを待っている中、シュレールでは10月の初めにはさっさと収穫を終わらせてしまった。こうなることをいち早く見極め、より多くの葉を残し、光合成を促進させ、果実を適切な熟度へと導いていった。2011年から毎年のように収量が減っていっているそうで、2015年は乾燥、2016年は病気、と理由は様々。セラーの中がこんなに空っぽになってしまったとブルーノは笑った。試飲した2015年はアルコール度数も高いが、アルザスらしい(ブルーノらしい?)酸がど迫力で、気圧される。
 雨が多かった年といえば、と2002年の話をしてくれた。この雨のおかげでアルザスでは2003年の酷暑・乾燥の影響が随分と柔いだ、とブルーノがいうほど、夏の間も雨が降り続いた。灰色カビが蔓延し、その年の8月にシュレールを訪問していたジュゼッペ・リナルディが”これじゃあワインはできねえな”と言った。ボルドー大学を卒業し、シュレールでちょうど研修をしていたジャン・イヴ・ペロンも同じように嘆いた。そんなジャン・イヴにブルーノは”いいか、ワインていうのはこうやって作るんだ”と腐敗果だけで仕込みを始めた。ブドウをタンクに入れ、とてもソフトなピジャージュをし、果汁が出てくると発酵が始まった。雑味となる濁りは発生する炭酸ガスで上方へと追いやられて、まだ発酵が盛んなうちにタンクの下から上澄みならぬ下澄みだけを抜き取り、発酵を終わらせた。リリース直後にその表情を読み取るのは難しかったそうだが、確かなポテンシャルを感じ取り6、7年寝かせると宝物となった。
 この発想の大胆さがブルーノだ。そしてその発想はわるいとかむずかしいとか言われる年の方に、圧倒的な個性となって活かされるのかもしれない。

 

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年~現在≫イタリア・トリノ在住

 
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