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社員リレー・エッセイ 10 徳茂 紅(業務管理部)

「自家醸造

 不思議な魅力をはなつ芸術家肌の入間川さんから、ゼップ・ムスターさんの来日前にこのリレーを受け継ぎました、2012年8月入社の徳(とく)茂(も)です。広報と事務を主に担当しておりましたが、この10月中旬より、自宅で静養して体調を整えておおります。来年1月から復職いたします。

 私は手で何かをつくることが昔からとても好きなのですが、この間もたくさんの編み物をしたり、時間をかけて料理をしたりと、本当にゆったりと過ごすことができています。

 思い出せば、小学生のころから、料理をすることが好きでした。また、料理の本を読むことにも、とてもワクワクしていた子供でした。実家には、リビングの横の小さな書斎に、壁一面に父と母が選んだ本がずらっと並んでいて、その中から自分でも読めそうなものを選んでは暇なときに読んでいました。あるときは推理小説だったり、手塚治虫のマンガだったり。でも一番よく読んでいたのは、NHK出版の「きょうの料理」や、発酵食品の本、自給自足の本、等々。そうして、料理や食材を手づくりすることが好きな父と母の影響を受けて育ちました。

 私が小学3年生の時、父が「どぶろく」なるものをつくりました。製造過程は全く覚えていませんが、出来上がったどぶろくをおいしいおいしいと、両親が飲んでいたのを思い出します。寒い冬、こたつの中で、私と姉はみかんを食べ、父と母は自前のどぶろくを啜って過ごす夜もありました。今思えばなんとも幸せな夜だったのではないでしょうか。

 どぶろくつくりが成功したので、こんどはワインもつくってみたらおいしいのでは、と父は無農薬のマスカット・ベリーAを取り寄せ、赤ワインをポリバケツで作ってみたそうです。母曰く、とてもおいしかったとのこと。約30年前につくられたそのワインが今でも1本だけ家の地下倉庫にあるというので、いつ開けてみようかと家族みんな楽しみにしています。それにしても、この話を母から聞いたとき、私は30代になってからワインや醗酵食品にめざめたとばかり思っていましたが、私とワインの係わりが自分の思っていたよりも昔からあったようで今更になっておどろいています。

 味噌やぬか漬け、ハム・ベーコンなどの、手づくり加工食品のおいしさを知っている人たちが、さらに自分の飲みたいものを好きなようにつくり、自分で飲む。当たり前のような気もしますが、日本では酒税法で自家醸造は禁止されています。それは自家醸造の文化がなくなることに繋がるような、とても残念なことだと思います。(特別区域内において許可を得ることを条件にどぶろくをつくることが可能になった、『どぶろく特区』はありますが、祭り行事や地域振興が目的で、自家醸造の自由化ではありません。)

 しかし世界では、宗教上の理由を別とすれば、自家醸造を規制する国のほうが少ないようです。ジョージアでは当たり前のように自家製ワインやチャチャ(蒸留酒)をつくり、家族で飲んだりお客にふるまったりしていますし、アメリカではビールの自家醸造がずっとブームだったり。

 明治23年、酒税法によって自家醸造が禁止されてからすでに100年以上たつ日本。もちろん父がどぶろくをつくった頃も禁止されていました。父は、13年前に他界していますが、もし生きていたら定年をむかえる頃ですので、自由な時間を酒つくりに費やしていたかもしれません。あと数十年でこの規制が変わるかどうかはわかりませんが、私が老後を迎えた頃には、「よし、明日からワインでもつくってみよう」なんて気軽に思える日本になっているといいなあ、と願っています。

 この休み中に、実家に帰ってあらためて父が参考にした酒つくりの本「趣味の酒つくり―ドブロクをつくろう実践編」(昭和57年発行、笹野好太郎著)を読み返してみました。醗酵のしくみとアルコールの関係が、ミード(蜂蜜のお酒)・紅茶きのこ・ワイン・ビール・どぶろく のそれぞれのつくり方を通して説明されていて、今読んでもとても面白い本です。例えば、ワインの項では、ブドウ以外の材料を一切使わずブドウだけを醗酵させてつくる、というナチュラルワインの定義が書かれ、始めの章にはワインつくりの基礎知識がナチュラルワインを前提として書かれています。さらに、つぎの章では補糖やドライイーストの添加などで醗酵を助ける方法などに言及されています。徹底してナチュラルワインをつくるのか、砂糖を加えてみるのかなど、つくる人の考え方や想像力、経験次第でワインの出来が大きく変わり、幾通りものワインができる指導書でした。今は絶版となってしまっていますが、ネットで探すと中古本が見つかります。

 

 さて次は、隣の席でいつも笑顔と元気をくれていた、営業部の尾崎さんに、このリレーを渡したいと思います。


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