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『ラシーヌ便り』no. 133

 風の冷たさが厳しくなってまいりました。今年の冬は、寒いようですね。2016年、ヨーロッパ各地ではブドウの成育環境が酷く、日本でも黒腐病やベト病にみまわれました。暖冬の年は、畑で菌が越冬し、病気にみまわれます。この冬は、冬らしく冷えて、2017年はいい収穫が迎えられるようにと祈るばかりです。

 来年度のカレンダーができました。例年どおり、ミシェル・トルメーの作です。ミシェルが同志とともに10月に実施した、《連帯してワイン醸造家を応援しよう》 という運動“Vendanges Solidaires”「 一致団結ワイン収穫運動」のために作成された絵を、作家の了承を得て、2017年のカレンダーといたしました。作り手の方々の困難と痛みを、そのワインを愛する方々と共に、気持の上だけでも分かち、支えあうことの一端を担えればと願っています。 

 

 1) 事務所移転

 2017年1月10日に事務所を移転することとなりました。四谷駅をはさんで麹町側の新宿通り沿いにあるセタニビル3階を、活動の場としてまいります。2003年4月、新らたにラシーヌ社を設立し、荒波の中に船出しました。 四谷を候補に選んだのは、四谷見付に立つと、南に広がる迎賓館の見える空間、東側の上智大学のイグナチオ教会、皇居につながる広い通りの大きな空間は、旅立ちを勇気づけられるように感じたからです。 三栄町の小さな一室を借りてささやかに出発しました。 2年後、現在のパークサイド四谷ビルに移りましたが、もともとこのビルのオーナーが住んでいた居室であったため、事務所というよりは、住まいのような空間でした。大きな台所があり、初めのうちはそこで試飲会をしていました。料理を作って、小さな集まりもよくしました。ヨーロッパ出張から帰ってきても、まだフランスかどこかにいるような雰囲気の、居心地のいいアパートでした。2010年に、1階を試飲室として借り足しました。しかし試飲会に月に2度ほどしか使っておらず、ふだんは倉庫使いになっていました。 5階のオフィスが手狭となり、1階と5階に分かれているのも不自由なため、合算した面積はこれまでと変わりませんが、ワンフロアの事務所に移ることとしました。三栄町の事務所と同じく、新事務所の前に公園があり、春には桜がきれいです。四谷駅から徒歩数分のところに位置します。お近くにお越しの時には、是非お気軽にお立ち寄りくださるようお願いいたします。

 

 2) セップ・ムスター来日 

セップ・ムスター セミナー

 10月25日セップ・ムスターが来日しました。オーストリア大使館主催試飲会とラシーヌ主催の催しに、大勢のご参加をいただきありがとうございました。自分のワインが、どのような場所で、どのような人の手をとおして楽しまれているかを知って、セップさんは大変喜んでくださいました。来日中本人からたくさんのお話しをうかがいましたが、その中で、特に印象に残った言葉をご紹介します。
 「10haの畑で、毎年「20000本~23000本のワインを造っています。命をかけてワインを造っているから、だからこそ、正しく伝えてくれる人に、届けてほしいと思ってきました。
 ナチュラルワインという、今までと異なったワインのマーケットが存在するようになった今日でも、「何が普通なのか?」「何をもってナチュラルであるのか?」は永遠の議題です。
 口に入った時に、味わいや成分だけではない、奥行きや深さを感じてもらいたい。私のワインはもしかしたら、一部の人には理解されても、他方では理解のしにくいワインであるのかもしれない。複雑であるがゆえに、飲み手に繊細な感受性を必要とするのかも。でも、そんなことは大きな問題ではありません。飲んでいる間もその後も、気分が良くなって幸せを感じられるような、それに食欲や元気が湧くようなワインをこれからも届けられたらと願います。」 
 土壌と栽培方法・環境、その年その年の天候からの影響を、常に自らに問いながら、経験を重ね、まさに今の境地にたどりついたと感じさせるセップのワイン。静かな中に、強い意志を感じさせてくれます。来日をとおして、彼のワインを一層好きになった方々がおられるのではないでしょうか。
 セップさんに会いに来てくださった方の中に、こんな方がいらっしゃいました。
 「私は、セップさんのワインのことを何も知らないで、飲んで、わっーこれすごい好きだって思ったんです。私はワイン全般のことも知らないから、ワインを既存のカテゴリーで分けないで、いいと感じたものを飲んでいるんです。」
 遅い時間に、セップのいる場所へ飛んできてくださった方なのですが、セップにとってこれほど嬉しい一時はなかったことでしょう。「良いワインは、たんに美味しいという域をこえ、作り手と飲み手との間をとりもって、たがいに共鳴・共感させることが出来る―この共鳴共感理論こそ、わたしのワイン観の根底にある考え方です。」(塚原 正章 ラシーヌ便りエッセイ Vol.108 ) 塚原が言っている、飲み手と作り手のレゾナンス(共鳴) を、目の当たりに見た一瞬でした。

 

3) ヨーロッパ出張

 まずアルザスとシャンパーニュを訪ね、ブルゴーニュからピエモンテをまわってきました。ダヴィッド・クロワが15年間シェフ・ド・カーヴを務めたカミーユ・ジルーを辞め、いっそうドメーヌ・デ・クロワに注力することになりました。 11月3日ダヴィッドに会った時、我が道を選んだ安堵と進み始めた新たな人生に、喜びいっぱいの様子でした。 ドメーヌ・デ・クロワでのダヴィッドのワインに、さらに期待をしたいと思います。
 今年の夏、公開されたベッキー・ヴァッサーマンのヴィデオメッセージをご覧になった方も多いと思います。
 ベッキーのヴィデオメッセージの最後に、簡潔にこう言いきっています。

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「 彼のワインは美しい。覚えていることだけれど、日本のインポーター(ラシーヌ)から、彼についてのメッセージを寄せるように頼まれた時、頭に浮かんだことは、ただ一つのことでした。最近では、歌手は歌そのものより尊重されていますが、ダヴィッドにとっては、歌い手より、歌そのものが大切なのね。」

 「いまの私にとってワインは、静かなワインか、騒がしいワインのどちらか。静かなワインからは、アペラシオンが聞こえてくる。騒がしいワインは、まるで音量の大きな音楽。歌い手がいるのに、歌が聞こえてこない。あなたのワインは、静かなワインね。あなたとともに、何年も歩みつづけることができて、ありがとう。」(2015年4月、 ダヴィッドの来日に寄せた小社広告でのメッセージ)

 

 さて、ダヴィッドの去ったあとの、カミーユ・ジルーですが、次の醸造長はCarel Voorhuis (カレル・フォーリュイス)。シルヴァン・パタイユによれば、「ダヴィッドから自分の後任候補について相談を受けたとき、僕は瞬時にカレルしかない、と言ったんだ」とのことです。オランダに生まれたカレルは、弁護士でブルゴーニュ・ワイン好きの父のもと、幼いころからワインに親しんで育ちました。父が引退後ブルゴーニュに畑を買ったことから、ボーヌに移り住み、ディジョン大学(現ブルゴーニュ大学)で醸造を学び、2002年からドメーヌ・ダルデュイの醸造担当者となりました。

 『バーガンディー・レポート』(Bill Nanson) (2016年6月29日) に載せられた、当人たちからの公式メッセージをお伝えします。

謹啓

 沢山の方々から、ご心配いただきましたが、ドメーヌ・ダルデュイとメゾン・カミーユ・ジルーの両社で醸造家が交代することをここにご報告します。ダヴィッド・クロワは15年務めたメゾン・カミーユ・ジルーの醸造長を辞し、カレル・フォーリュイスはダルデュイをやめて、ダヴィッドの後継者となります。両メゾンにおける醸造の品質とスタイルが永続するかどうかについて、懸念されるかもしれませんが、長年作り上げてきたよりよい質を求める精神で、2016年ヴィンテージは、二人がともに協力し合って醸造します。

ダヴィッド&カレル

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Chers amis,

Suite à vos nombreuses sollicitations, nous vous confirmons qu’effectivement, des changements vont avoir lieu au domaine d’Ardhuy et chez Camille Giroud. 

Après 15 ans, David Croix quitte la tête de la Maison Camille Giroud et Carel Voorhuis quitte le Domaine d’Ardhuy, prenant la succession de David. 

Les vinifications du millésime 2016 se feront de part et d’autre en binôme : les deux maisons ont le souci de la pérennisation de la qualité des vinifications et du style maison, dans l’esprit de la recherche de l’excellence qui les meut depuis de nombreuses années. 

Bien cordialement,

David et Carel 

 
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