*

合田玲英のフィールド・ノートVol.44

2016年

 今年は難しい年だった、と、この数年毎年のよう書いている気がする。幸運なことにブドウ生産地域は広く、ワインのマーケットもファンも世界中にいるので、皆で助け合っている様子がインターネットを通して見られる。収量がほとんどなくなってしまった生産者の少しでも手助けになればと、Vendanges SolidairesというFacebookグループもあった。このグループの意思に賛同するワインバーやショップは、10月3日から10月23日の間、ボトルが売れるたびに2ユーロの寄付をするというもの(ネット上の寄付も受け付けていた)。生産者にとっても消費者にとっても、心温まり勇気付けられるけれど、どのワイン生産地域も問題のない年がそろそろ来て欲しい。スズキ(ショウジョウバエ)の被害を聞くのもうんざりだ。

 南スペインは特に問題はなく、グルナッシュ種で少し、春の寒さにより花振るいがあったものの、収量には大きく影響しなかった。アリカンテのラファ・ベルナベは8月末には国立公園の美しいモスカートを摘み始めていた。カタルーニャから南仏にかけては、夏の水不足が問題となっていて、場所によってはブドウの樹1株にたった1房、それも皮が厚く、果汁のほとんどないものもあった。夏の渇水に加え、この数年は冬の雨不足がくわわって、地中の水分の貯蔵量が十分でない年が続いている。それが、ブドウ樹が乾燥した夏を耐え難くさせている要因でもある。南仏の雨は短い間にたくさん降る癖があるが、それが最近はさらに顕著になっている。なので、降ったとしても雨水が地面に染み込む前に地表を流れていってしまう。しとしとと長く降り続く雨が、減っているのだそうだ。

 南部ローヌのジル・アゾーニやドメーヌ・グラムノンは、雨に恵まれたそうだ。特にジル・アゾーニは例年よりも多くのブドウがつき、さらに果汁も多く、この地域からブドウを買う北部生産者も多くいた。北ブルゴーニュの3生産者、カデット、ド・ムール、トマ・ピコはこの地域のビオのブドウの栽培家から一緒にクラレット種を購入。同じく北ブルゴーニュのヴィニ・ヴィティ・ヴィンチでも、タヴェル(グルナッシュ、サンソー、クラレット)、ガール(シラー)、ボジョレー(ガメイ)でブドウを購入した。
 フランスの幾つかの地域では6月終わり頃まで雨が続き、その後は全く雨が降らないというのが今年の特徴のようだ。コルナスやアルザス、ロワールでは急激な気候の変化に対応できず、ブドウの果実が熟れ切らないという生産者も多くいた。そんななか、ティエリー・アルマンやブルーノ・シュレール、ピエール・フリックといった生産者は、収量を落としながらも、地域の他の生産者たちより何日も早く収穫を終え、そのうえ果実も熟れている。自然な栽培による畑の地力が、と言ってしまえばそれまでだけれど、シュレールとフリックでは雨の多かった時期に葉っぱをとりすぎなかったのだ。――と、アルザスの複数のワイナリーでコンサルをしている若いエノロゴ、ピエールが教えてくれた。“高い湿度による病気を防ぐために、房の周りの葉を除くことが多い。けれどもそれをあまりせず、葉を多く残すことで光合成を促す。果実の成熟にはブドウ樹内の水分の循環が大事で、そのためにも葉を多く残していたことが、この2生産者にとっては幸いした。本当に判断の難しい年だったと思うよ”。

・ブルーノ・シュレール
 “2011年以降、毎年収量は減る一方だ。2015年もアルコール度数は15度を超えているし、毎年初体験のことばかりだ。ちなみに2003年は、前年の2002年の降水量が多かったために、考えられているほどブドウの樹自体が乾燥に苦しんだわけではなかった。今年はまあ見ての通りだ。どの大樽も通常の半分くらいしか入っていない。でも果実は十分に熟れている。周りの畑を見てみろ。一見綺麗だが10月に入っても、熟す気配さえない。農薬を使いすぎたせいだ。病気を防いで見かけが綺麗でも、農薬を使えば使うほど、果実は熟すのが遅れる”。

・ティエリー・アルマン
 ”2015年も非常に暑く乾燥していたが、収穫前に雨が降ったことが大きい。コルナスのシラーには、8月15日前後の雨が必要なんだ。それがなければ適切な成熟が得られない。今年は待ちに待ったけれど、結局雨は訪れなかった。こういう年のために標高の高い斜面の畑と、斜面の下にある平らな畑がある。斜面の畑は、涼しく雨の多目な年でも良いブドウがなり、平らな斜面の下の畑は、今年のような乾燥した年に、地中の水分が少しでも多いのが助けになる。でも2003年よりかは、いくらかましだね。あの年は果実が熟しきる前に房が乾燥し始めてしまい、8月末を待たずして収穫せざるをえなかった”。

ティエリー・アルマン

ティエリー・アルマン

・ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ(ニコラ・ヴォーティエ)、ドメーヌ・ド・ラ・カデット(ヴァランタン・モンタネ)
 どちらも、自分の地域の畑の収量は70%以上の減。南のブドウを買い求めて醸造をしているが、めったにない機会だけに、生産者も楽しそうに話してくれた。

ニコラ・ヴォーティエ

ニコラ・ヴォーティエ

・ニコラ・ヴォーティエ
 “本当はモーゼルのリースリングを買おうという考えもあったんだけど、ちょっと間に合わなかったな。ケベックのインポーターの試飲会で、素晴らしいドイツのリースリングを飲んだんだ”――と見せてくれた写真のエチケットは、トロッセンのものだった。フランスのヴァン・ナチュールのエスプリで、モーゼルのリースリングを仕込んだら、とても面白いだろうなと思うので、実現せず残念。ニコラは買いブドウであっても自分で収穫をしにいき、ブドウを食べながらどうやって醸造をしようか考えている。今年は今までブドウを買ったことのない地域だったので、悩みながらだけれど楽しんでいる様子だった。

・ヴァランタン・モンタネ
 “自社の畑については残念だけど、経験を積むいい機会だ。実は前からガメイを醸造してみたいと思っていたんだよね。それから、マコンからもシャルドネを買うことができた。ボジョレーもマコンも霜と雹が酷いと思われているけれど、被害は局地的で、ボジョレー南部とマコン北部はブドウの状態も収量も素晴らしかったよ。買いブドウを選ぶにも、いい栽培者をしっているブドウ畑のクルティエがいるんだ。ほとんどはブドウの質を考えず、紹介するだけの人ばかりだけれど、若いクルティエのなかには、興味と情熱を持っていて、少しでも良い状態の畑を探してくれる人がいる。いい出会いがあってよかったよ”。

・トロッセン
 モーゼルもかなり作柄が心配されたが、収量は半分近く落ちたものの、ブドウの状態は良好だった。”見てごらん、このブドウを。綺麗だろう。一時期はどうなるかと思ったけれど、いいブドウが取れてほっとしているよ”。

ルドルフ・トロッセン

ルドルフ・トロッセン

・エンデルレ・ウント・モル
 アルザスとドイツの国境を南北に流れるライン川。そのドイツ側のバーデン地方でワインを造るエンデルレ・ウント・モルでは、ブドウはほとんど採れなかった。今年仕込んだ9割以上は買いブドウだけれど、幸運にも知り合いのビオロジック栽培家のブドウを買うことができた。ドイツ人というよりは、フランスのヴァン・ナチュールの若い生産者たちに似た雰囲気のスヴェン。彼のように、醸造段階で亜硫酸添加をしない生産者がもっとドイツにも増えてくれたら、楽しいことになりそうなのに。だけれど、それはまだまだ先の話だろうか。

スヴェン・エンデルレ

スヴェン・エンデルレ

・マルク・アンジェリ
 “収量は50%減といったところか。遅霜もそうだけど、そのあとのべと病の蔓延を防ぐのが一苦労だった。今年は実験的に枝先を摘まないで放置する畑があったんだけれど、どうやらその方がべと病に対する抵抗力が高いようだ。今年のようにべと病の勢力が強い年には、特に差が顕著だった。まだ本当にこれだけが理由なのかは分からないので、これからも試してみるけれど、もしそうだとしたら今まで無駄な作業に時間を費やしていたことになるなあ。まいった、まいった”。 まだまだ引退をするつもりはないが、ピエール・フリック、ドメーヌ・ド・ラ・パントで長年働いてきたブルーノ・チオフィと、今年から共同でワイン造りをしていく。

マルクとブルーノ

マルクとブルーノ

 

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年~現在≫イタリア・トリノ在住


PAGE TOP ↑