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合田玲英のフィールド・ノートVol.42

《真夏の楽しいワイン

 春秋にワインを飲むのは気分のいいものだけれど、真夏の炎天下のワインも悪くない。サンセールやモーゼル、またアルバリーニョなど、この季節に飲んで美味しい白ワインは多い。ワインだけでなく、ピンクやオレンジ色やスパークリングのグラスを傾けるのは、地中海の真夏の風物詩だ。ワインだと、涼しげな地方のものが飲まれることが多い。
 けれど、個人的には暑い日に暑い地方のワインを「暑いなー」と言いながら飲むのも大好きだ。濃い赤というわけにもいかないけれど、地中海沿岸の太陽を浴びたワインは真夏日に合う、と思っている。
 スペインとイタリアは、内陸に入るとすぐに標高が高くなることが多いので、太陽を感じてもフレッシュなワインが多い。通常はそれがワインのフィネスにつながるので好ましいけれど、真夏に飲んで楽しいワインは必ずしもそうでなくてもいい気がする。
 白で少し濁っていて、揮発酸も少し感じられるものが頭に浮かび、無性に飲みたくなる。アリカンテのラファ・ベルナベや、チリのルイ・アントワーヌのワインなどが、すぐ思い浮かぶ。彼らが栽培するミュスカ系の品種は、もともと海岸付近で栽培されてきた。そもそもブドウは水辺に分布してきたが、ミュスカ系品種は特に乾燥に強く、太陽を必要とする品種なのだ。

オレンジワイン Parque natural de La Mataにある、ティナハス・デ・ラ・マタの畑 image012

  トリンケーロのエツィオは、1日の仕事を終えて一杯目にワインを飲むのなら、彼の白のスキンコンタクトをしたワインが好きだ、と言っていた。この話をしてくれたとき僕は、暑い日にエッツィオが畑の耕作から戻って、普通の冷蔵庫に冷えているパルメ・ビアンコをコップで飲む姿を、勝手に想像した。仕事の後は、揮発酸が少しあってスキンコンタクトをした旨味たっぷりの白が美味しく感じるのは、わかる気がする。「オレンジワイン」(スキンコンタクトをした白ワイン)については、ヨーロッパのソムリエや最終消費者からも、否定的な意見は少なからずある。でも、肉体労働をしているワイン生産者がオレンジワインを好む理由は、なんとなく理解出来る。

スペインですばらしいオレンジワインを造るラウレアーノ・セレス

 ナチュラルワインの生産者なら、(味の上だけでなく、特にアンフォラ醸造ならば)原始的でシンプルなところに惹かれるのは、自然なように思う。エツィオが言うような飲んだ時のリラックス感も、肉体労働をする彼らにとっては当然ではないだろうか。

 プロセッコ・コルフォンドや、澱引きしていないペティヤン・ナチュレルも、同じような感じを覚える。濁ったスパークリングワインは、好みが大きく分かれそうだ。ステーファノ・メンティは、ロンカイエ(メンティの澱引きしていないペティヤン)は澱と混ぜたほうが “Piu divertente” (より楽しい)と、ワイナリーの訪問者に説明していた。

メンティ/ロンカイエ・スイ・リエーヴィティ

 綺麗に透き通ったスパークリングは、見た目にも綺麗で涼やかだけど、澱と混ざると味が乗ってジューシーになり、緊張感がほぐれる。この辺の「自然体な気楽さ」が、間違いなくナチュラルワインの魅力の一つだし、太陽の下で飲むのは絵になる。
 おなじナチュラルワインでも、自然への深い理解と熟練した職人芸から生まれる、洗練され澄み切った深さのある味わいは、ときに緊張感を飲み手に与える。
 シャンパーニュは、おのずとそういう緊張感を与えがちなのだ。けれど、シャンパーニュでも良い造り手は、味わいに”楽しみ”がにじみ出てきて、造り手が楽しんでワインを造っているさまが目に浮かぶ。ただ、シャンパーニュでは、年々気温が上がるにつれて果実が熟しきることが多くなり、ドザージュの必要がないほど果実味と甘みが強くなってきている。ドザージュ・ゼロの造り手が増えているのも当然で、ただの流行りではない。
 ドザージュが与えるのは、単純な甘みや熟成時のこくだけではない。ノン・ドゼのキュヴェも造っているブノワ・ライエを初夏に訪れ、ドザージュについて聞いてみた。「シャンパーニュの気候が暖かくなり、ノン・ドゼでも十分に果実味のあるシャンパーニュができています。それではブノワ・ライエでは、ドザージュはシャンパーニュに何を与えるのですか?」 

 ブノワの答えはこうだった。 “C’est le plaisir.”「飲み心地の楽しささ。」 納得した。

 

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年~現在≫イタリア・トリノ在住


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