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『ラシーヌ便り』no. 128

no.128

1.ピエール・フリック(ファッフェンハイム/アルザス)

――40年にわたる有機栽培が生み出す味わい 

Pierre Frick顔写真

 ピエール・フリックのワインを紹介始めて、20年近くになります。始めの頃は、ワインは真面目で、どうも面白くないところがあると、内心思っていました。ですが反面、安定していて、きれいな味わいなので、ひろく和食向きと推奨しましたし、小売店でもお勧めして、楽しんでいただいてきました。

 1970年から有機栽培、1981年からビオディナミを実践してきたピエールは、安定した味わいを造る一方、ヴァン・ナチュールのマーケットの流れをずっと見つめながら、亜硫酸ゼロのキュヴェを少しづつ試みてきました。試行の当初はバランスが悪くてぱっとせず、重くて暗い味わいが支配的でした。リースリング、ピノ・ブラン、シャスラーといった、アルザスの品種は、少ない亜硫酸で醸造するのは、バランスがとりづらく、本当に難しいのです。

 しかしながら、試みを重ねていくにしたがって、亜硫酸を使用するキュヴェの味わいもまた変化してきました。おり引き後に入れる亜硫酸の量が減り、瓶詰め前の調整に入れる量も大きく減り、のびやかな味わいになってきたのです。スタンダード・キュヴェはバランス良く、文句なく楽しいワインへと変化してきたと感じました。でも、それでも、まだ「ビオディナミの優等生」のような印象は消えなかったのですが、次第に味わいにクラスが備わってきました。本来の内にそなわった力が、がぜん輝きだしたのです。今では、ピュアで純粋な味わいと、品種の個性を大らかに楽しむことができます。

 2014年のピノ・ブランは、おり引き後もビン詰め前も、亜硫酸添加せずにビン詰めしました。昨年9月のリリース直後は輪郭がぼんやりしていて、酸化のニュアンスが強かったのですが、最近社内試飲をした時には、驚くほどまとまりのある味わいに変貌をとげていました。注がれたグラスの中で美しく変身していく様子が楽しめるだけではありません。抜栓2時間後、また翌日も色調に大きな変化はなく、落ち着いた味わいは損なわれることなく楽しむことができます。

 

*ピエール・フリックのパンフレットより*

 「自然をコントロールするには、自然が定めたルールに従うしかない」という格言こそ、じつは長期的な視野で農業を考える際の核心なのです。田園地帯からは人口が流出し、北半球と南半球の格差は広がる一方。エネルギー消費量が増えるかたわら、土と水、空気と景色がひとしく損なわれます。現在の主流をなす《農業モデル》が、これらすべてに拍車をかけ、《生産性至上主義》が動植物相のバランスをひどく狂わした結果、農業はさらにいっそう殺虫剤に依存せざるをえなくなりました。こうして生まれた、画一化された風味しか帯びない食の素材は、はたして美味や活力をそなえ、社会に役立つものでしょうか。」

 この言葉に、ピエールが40年にわたり、畑と共に生きて育んできた考え方が集約されます。マルク・アンジェリ、クロード・クルトワ、レオン・バラルなど、長年、自ら有機栽培と共に生きてきた造り手に共通することですが、栽培環境のバランスが整い、畑に力が備わり、ナチュラルな醸造の優れた感覚と腕が発揮されたその時を境に、他では表現できないような、気高さが味わいに現れます。20年以上にわたり果敢にナチュラルな醸造に挑戦を続けてきたピエール、これからがますます楽しみです。パンフレット(翻訳)には、彼の、真剣な叫びともいうべき、考えが紹介されています。是非お読みください。

PFパンフ

 

 2.ホアン・ダンゲラ (モンサン/スペイン)

ホアン・ダンゲラ兄弟

[造り手]
Josep Anguera Ponsホセプ・アンゲラ・ポンス、
Joan Anguera Ponsホアン・アンゲラ・ポンス

 昨年のスペイン集中訪問で出合ったワインの第3弾、ホアン・ダンゲラが、6月に入荷しました。初回は600本の入荷のため、一瞬で完売してしまいましたが、9月には再入荷しますので、しばしお待ちください。

 ホアン・ダンゲラを訪ねたのは、昨2015年12月。夕方、すでに日は暮れ、風は強く吹きすさび、耳が痛いほどの寒さに震えました。プリオラートの西に位置するモンサンは、自根のブドウが大切に栽培されています。7代にわたりブドウ栽培に従事してきた一族の新世代。2008 年からビオディナミに取り組み、一口味わって、素性の正しさが感じられました。色調は淡いながら、エキスのこもった素敵なワインを造っています。ホセプとホアン兄弟は、2000年に父がなくなり、ワイナリーを継ぎました。当時主流だった、アルコリックでタニンが強く新樽風味のワインを造り、プレスでも最高評価を得ました。しかしながら、2008年に、はたしてインターナショナル・テイストの味わいのワインは、本来自分たちが目指すものでないと思い、歩む道を根本的に考え直したのです。「何が我々のワイン文化なのだろうか、我々の拠り所は何なのか。我々は誠実に、土地と歴史を十分に反映したワイン造りをしているのだろうか。また、ワインはその時のやむを得ない事情や、軽挙の産物であってよいのか」と。

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 これらの問いは、彼らが現在のようなワイン造りをする原点となりました。自分たちの住む村からの所産感を漂わせるワインであり、逆に自分たちがこれらのワインに帰属すると感じたのです。先日、メールをチェックしていて、2004年にホアン・ダンゲラのオファーを受けていたことがわかり、驚きました。もし、当時取引していたら、ボルドー風味のワインを扱うことになって、さぞかし苦労しただろうと、今この時に取引できる幸運を喜んでいます。

  合田泰子この原稿を書いている現在、わたしはスペインのタラゴナの山奥 Prenafetaプレナフェタ村で、【H2O Vegetal】という試飲会に来ています。2014年に始まったイベントで、Laureano Serres ラウレアーノ・セレスと、Joan Ramon Escoda Martinez ホアン・ラモン・エスコーダ・マルティネスが中心となって始まった、スペイン版「ディーヴ・ブテイユ」ともいうべきサロンです。ともすれば皮相なインターナショナル・スタイルが絶賛されるスペインにあって、亜硫酸の低いワインは変人扱いされながらも、北欧やパリで大きく支持されてきました。このうねりは、海外マーケットの支持と、フランス、イタリア、ジョージア等のヴァン・ナチュールの造り手の参加によって後押しされ、大きく進んでいます。これでスペインのナチュラルな流れも、ひとしお変わってくると、確信しています。

【H2O Vegetal】

ラウレアーノ・セレス

ホセプ・アンゲラ・ポンス

パゴ・デル・ナランフエス/ アントニオ・ビルチェス・バレンスエラ

エセンシア・ルラル/フリアン・ルイス・ビリャヌエバ

クリスティアン・チダ

ノーマ/シェフソムリエ マッズ・クレッペ

  合田泰子

 


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