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ドイツワイン通信Vol.56

ドイツとジョージアのクヴェヴリワイン

 5月中旬にドイツとジョージアを訪れる機会があった。ドイツでの目的地はフランケンである。とりわけクヴェヴリと卵型コンクリートタンクを用いた生産者を訪問して、ジョージアのクヴェヴリによるワイン造りと比較してみたいと考えたからだ。しかし結論から先に言うと、両国の生活環境とワイン文化の違いを目の当たりにして、ドイツをはじめとする西ヨーロッパでクヴェヴリを用いることの意味を改めて考えさせられた。詳しくは後で触れるが、ジョージアでは自家消費用の最も身近なワインがクヴェヴリで醸造され、宴会などで一気飲みされるのに対して、ドイツでは新たな試みとして試験的に醸造されたワインが少量、それも比較的高価に販売されている。フランケンでクヴェヴリを用いている3つの醸造所の例を取り上げた後、ジョージアでの体験を振り返りつつ考えてみたい。

オーストリアに近いフランケン

 フランケンはドイツ東部に位置し、ヴィースバーデンでライン川に合流するマイン川沿いに6,124haのブドウ畑が広がっている。気候は大陸性気候で夏は暑く乾燥し、冬は非常に寒い。特徴的なのは生産地域の西から東にむかって雑色砂岩、貝殻石灰質、コイパーと三畳紀の地層が順番に切り替わることで、それぞれの地区でワインの特徴が異なっている。雑色砂岩の地域(ベライヒ・マインフィアエック)は1990年代末頃からピノ・ノワールの有力な産地として知られ、貝殻石灰質とコイパーの地域(ベライヒ・マインドライエックとシュタイガーヴァルト)では、ジルヴァーナーが主力の品種だがリースリングに力を入れる生産者もいる。近年はショイレーベの他にソーヴィニヨン・ブランやピノ・ブラン、ピノ・グリも存在感を示している。最も栽培面積が広いミュラー・トゥルガウは、その大半は醸造協同組合の手頃な価格の日常用ワインになる。

 フラケンといえば丸く扁平に下ぶくれした形のボトル「ボックスボイテル」であり、ドイツワインの中では「珍しく」辛口というイメージが一般的だがそれだけではない。バイエルン州に属するフランケンは地理的にドイツの中では最もオーストリアに近い生産地域であり、主力品種のジルヴァーナーは17世紀にオーストリアから持ち込まれている。ウィーンで今も盛んなゲミシュター・ザッツはドイツではほとんど廃れてしまったが、あえて混植栽培に取り組む生産者がフランケンには何人かいる。ノイジードラーゼーのマインクラングが2006年に導入して注目を集めた卵型のコンクリートタンクも、フランケンでは2008年からいくつかの生産者が使っている(後述)。さらにオーストリアでは2005年頃からクヴェヴリを使う生産者が登場しているが、フランケンでも2011年から試験的に使われ始めた。今回参加したVDPフランケンの新酒試飲会でもヴァッハウのスタイルを意識しているという生産者もいて、フランケンのオーストリアへの親近感を感じさせた。

 フランケンのクヴェヴリ醸造

 ドイツにおける素焼きの瓶(クヴェヴリもしくはティナハ)による醸造のパイオニアは、私の知る限りではラインガウのビオディナミの生産者、ペーター・ヤコブ・キューン醸造所Weingut Peter Jakob Kühnである(2005年から。現在は造っていない)。2011年からファルツのバッサーマン・ヨーダン醸造所Weingut Dr. Bassermann-Jordanとハイナー・ザウアー醸造所Weingut Heiner Sauer、2012年に同じくファルツのオーディンスタール醸造所Weingut Odinstal、2013年からラインヘッセンのシェッツェル醸造所Weingut Schätzelとバーデンのツィアライゼン醸造所Weingut Ziereisenが採用している(恐らくこの他にもいると思う)。ツィアライゼンを除けばいずれもビオディナミに取り組む好奇心の旺盛な生産者だが、ジョージア産のクヴェヴリではなくスペイン産のティナハを使っているのは、ジョージアからの輸送が困難だったことや、スペインのティナハを利用する地方と以前から取引があったり、参考にしたイタリアの生産者がティナハを使っていたりしたことによるようだ。一方、今回訪問したフランケンのバイエルン州立葡萄栽培園芸研究所LWG Bayern (以下LWGバイエルン)、ローテ醸造所Weingut Rothe 、アム・シュタイン醸造所Weingut am Steinではジョージアのクヴェヴリを使っている。というのも、地域の栽培醸造の指導的役割を担うLWGバイエルンが、ジョージアとの交流に積極的なことが背景にある。

(1) LWG バイエルン

 公的な研究指導機関であるLWGバイエルンは、2011年に研究プロジェクトを立ち上げてジョージアから容量900ℓのクヴェヴリを取り寄せ、敷地内の高台の斜面に埋めて屋根と囲いを取り付けてマラニを設置し、ジルヴァーナーを醸造している。2011年は10月18日に手作業で収穫した果汁糖度100エクスレの健全なブドウから果梗を取り除き、軽く破砕してからクヴェヴリに入れ、発酵で生じた二酸化炭素が逃げることが出来るように密閉せずに石の板で蓋をした。これはカヘティ地方の生産者とほぼ同じやり方だ(果梗の用い方は生産者や品種により違いがある)。地中の温度が約10℃と低かったため発酵はなかなか始まらず、真冬の時期は地面に藁などを敷いてクヴェヴリが凍結しないようにした。好ましくない微生物の繁殖を抑えるため、毎日数回果帽を押し下げ、収穫から2週間後にようやくアルコール発酵が始まると液温は速やかに上昇して25℃を超え、5日間で発酵を終えた。温暖な産地ならばアルコール発酵と同時かそれに続いて乳酸発酵が始まるところ、寒冷なフランケンでは冬を越した翌年5月~6月にかけてようやく起こった。アルコール発酵完了後からクヴェヴリと石板の間にシリコンのホースを挟み上から重しをして密封し、初夏にワインを汲み出して瓶詰めした。2011、2012年産は亜硫酸無添加、2013年は気象条件が悪く十分な量の収穫が得られなかったので醸造を断念、2014年は必要最低限の亜硫酸を瓶詰め前に添加し、遊離亜硫酸量12mg/ℓ、総亜硫酸量36mg/ℓとなった。

LWGバイエルンのマラニ。
LWGバイエルンのマラニ。

 LWGバイエルンを訪問した時は責任者不在で試飲が出来なかった。しかし思いがけないことに、その三日後にトビリシで開催された世界各国のクヴェヴリによるワインを比較試飲するイヴェントに、LWGバイエルンの2014年産ジルヴァーナーが登場した(2014 Challenge! Amphora K.)。明るくわずかに白濁し若緑色を帯びた色で、酸化の気配があまりない。酸度が低く少しねっとりとした質感とクリーンな果実味の綺麗な仕上がりに、ドイツ的な完璧主義と冷涼さを感じた。

  余談だがLWGバイエルンではクヴェヴリだけでなくティナハ、花崗岩を切り出したタンクなどがあり、卵型コンクリートタンクも2008年からライナー・ザウアー醸造所Weingut Rainer Sauerとアム・シュタイン醸造所とともに試験醸造を行っている。その時採用されたのはオーストリアのマインクラング醸造所が製造したものだが、2010年にLWGバイエルンが公表した分析結果報告(Köhler/ Geßner/ Seifert/ Schindler, Erfahrungen mit dem Einsatz eines Betonbehälters ohne Auskleidung, Veitshöchheimer Tests mit dem Beton-Ei, Rebe & Wein 11, 22-26, 2010)では、タンクの内壁をワインの酸が腐蝕して鉄とアルミニウムが溶出したこと、タンク内は空の湿った状態で黴が生えやすいこと、液漏れがあったこと、醸造作業は梯子を使ってタンクの上部から行うため危険が伴うことなどを挙げて、使用は勧められないと結論づけている。しかしライナー・ザウアー醸造所とアム・シュタイン醸造所は卵型コンクリートタンクを現在も使用し続けている。ライナー・ザウアー醸造所の若手醸造家ダニエル・ザウアーによれば、近年LWGバイエルンの醸造研究部門の責任者が交代して卵型コンクリートタンクに対する評価が修正され、改めて行われた分析ではコンクリートの成分溶出も認められず、ステンレスタンクや木樽と同様に安全な醸造容器ということになったそうだ。現在のLWGバイエルンは新しい醸造手法の研究に前向きだ。オレンジワインの醸造指導やジョージアの栽培醸造研究機関との技術交流を行っており、相互に訪問して知見を深めるとともに、2016年からは学生(LWGバイエルンはガイゼンハイムと同様に教育機関でもある)の交換留学が始まるという。時代は変わったのだ。

 (2) ローテ醸造所

 もう一軒フランケンでクヴェヴリを使っているのが、ヴュルツブルクの北東約30kmにあるノルトハイム村のローテ醸造所だ。今年4月にドイツのワインブログWein Krakeが紹介して以来気になっていた生産者である(参照:http://www.weinkrake.com/weingut-rothe/)。オーナー醸造家のマンフレッド・ローテは1970年代末の結婚以来ブドウ畑をビオロジックで世話しており、1985年にはビオラントの認証を受けている。本業はレストランの料理人で、1990年代末に現在の醸造所を知人から購入するまではブドウを醸造協同組合に納める兼業農家だった。2011年からジルヴァーナーをマセレーション発酵したいわゆるオレンジワインを手がけ、2013年から容量1200ℓのクヴェヴリ二基を使ってジルヴァーナーとツヴァイゲルトを醸造している。

  マンフレッドがクヴェヴリを導入したきっかけは、2013年1月にビオ農法認証団体の一つであるビオラントがファルツで開催した、「セラーにおけるミニマリスム」と題する自然なワイン造りの可能性についてのセミナーだった。発表者の一人でジョージアの醸造学者Dr. ダヴィド・チチュアDavid Chichuaの、クヴェヴリによる伝統的な醸造手法の紹介を聞いたマンフレッドは強く心を動かされ、その場でクヴェヴリを購入したいと申し出たのだそうだ。その年の9月にクヴェヴリが二基到着し、戦後まもなく建てられたセラーの一角の、まるでクヴェヴリを埋める為にしつらえたかのような擁壁に囲まれて一段高くなった場所にそれを設置した。醸造手法はLWGバイエルンと同じで、除梗して軽く破砕した果粒をクヴェヴリに詰めて、毎日果帽を沈める以外は手を出さずに約9~10ヶ月かけて醸造した。2014 Kvevri weiss (白)はいかにもクヴェヴリで醸したワインらしいスモーキーなアロマと、がっしりしたタンニンでカヘティ産に近い感じ。同じく赤はやはり力強いタンニンに、濃厚な黒から赤のベリー、シナモンやオレンジのヒントが品良く素直に感じられる。クヴェヴリから直接試飲させてもらった2015年産ジルヴァーナーは、液面に種がびっしりと浮いていて、囓るとナッツのように香ばしかったのは、生理的完熟に達した状態で収穫したからだ。透明感と深みのある果実味にフランケンのテロワールを感じた。

マンフレッド・ローテ氏とクヴェヴリ。
マンフレッド・ローテ氏とクヴェヴリ。

 (3) アム・シュタイン醸造所

 昨年秋の収穫直前にクヴェヴリを設置したのは、ヴュルツブルクの市街地を見下ろす高台にあるアム・シュタイン醸造所である。オーナーのルートヴィヒ・クノールは1990年に両親から醸造所を継ぐ以前、ガイゼンハイムに在学中の1987年に栽培をビオロジックに切り替え、2006年にビオディナミを採用した。2005年に落成したガラスと木材で構成されたモダンなデザインの醸造所が当時話題となったが、そのセラーに2008年にLWGバイエルンとの試験醸造プロジェクトで卵型コンクリートタンクを導入した。醸造所設立125周年を迎えた昨年、新たに増築したセラーにノンブロ製の容量1700ℓの卵型コンクリートタンク7基を導入。東西方向へ横一列に並べ、その上に開いた窓から陽光が取り込まれ、背後の壁を伝って常時水が流れ落ちるという凝った造りのセラーである。卵型タンクに向き合うようにして容量5~600ℓのジョージア産クヴェヴリ5基が埋められ、ブドウ畑から持って来た化石混じりの貝殻石灰質の石が敷き詰められていた。

 「醸造手法の幅を広げたかった」とクヴェヴリ導入の理由を話すルートヴィヒは、実は2008年秋に出演したラジオ番組で「これまでに飲んだ中で一番ひどかったワインは何ですか?」という質問に対して、ジョージアのクヴェヴリで醸造したワインを挙げている。「ちょっと難しい質問だけど、そう、25年位前にガイゼンハイムの研修旅行でジョージアを訪れた時、一年以上果皮、種、果梗と一緒に地中に埋められた瓶の中に貯蔵されたワインに出会った。それが伝統的なやり方だそうだけど、引率の教授が『これは次の千年にとっておくべきワインだ』と言ったように、飲めたものじゃなかったよ」と笑いながら語っている(参照:“Ludwig Knoll in Eins zu Eins. der Talk” in B2)。その点について今回指摘したところ、「いや、あれはもう30年くらい前の学生時代のことだし考えも変わったよ」と、シレっとかわされた。ただ、昔から常に新しいことに前向きに取り組んできた生産者であることは確かだ。

 クヴェヴリで醸造した2015年産のジルヴァーナー(2015 Vinz Silvaner alte Reben)は、ノンブロ製卵型コンクリートタンクで醸造したジルヴァーナーとブレンドして5月上旬にリリース済みである。ブレンド比率はクヴェヴリ1に対して卵型コンクリートタンク9の割合。この醸造所ではこれまでも卵型コンクリートタンクで醸造したものは単独ではリリースせず、必ず木樽かステンレスタンクで醸造したものとブレンドしてリリースしてきた。リリース前に従業員一同が集まって試飲し、意見を聞きながら比率を決めるそうだ。しかし2015年産はクヴェヴリで醸造したワインを補い、あえて個性を強める方向に持ってきており、混沌として底知れない力が伝わってくる様なワインに仕上がっていた。そして約30年前とはいえジョージアの伝統的醸造手法を原始的と見下していた生産者が、クヴェヴリをノンブロ製の卵型コンクリートタンクと同時に導入したことは、この約7000年前から続く太古の醸造手法がドイツの醸造業界の最先端のトレンドでもあることを示している。

アム・シュタイン醸造所のクヴェヴリ。
アム・シュタイン醸造所のクヴェヴリ。

 

ドイツ産クヴェヴリワインに対するジョージアの生産者の意見

 さて、このアム・シュタイン醸造所の、10%とはいえクヴェヴリで醸造したものが入っているジルヴァーナーと、ローテ醸造所が100%クヴェヴリで醸造した2014年産ジルヴァーナーとツヴァイゲルトを、トビリシのナチュラルワインバー「ヴィノ・アンダーグラウンド」に持ち込んで、ソリコ、ニキ、ラマズらクヴェヴリワインアソシエーションのメンバーに試飲してもらった。

 「おぉ、ゲルマヌリ・グヴィニス(ドイツワイン)か」と興味深そうにしていた彼らは、アム・シュタインのワインを口にしたとたんに口々に何かを批判しはじめた。ニキは言った。「このワインの総亜硫酸量は恐らくEUがビオワインに定めた量の上限(150mg/ℓ、残糖2g/ℓ以下の場合)に近い。少なく見積もってもその半分はあるだろう。我々の造るワインとは違うね」と言う。一方ローテ醸造所のワインは「悪くないね。よく考えながら造られたワインであることがわかるよ」と概ね好評だったのは、やはり素直な飲み口が彼らのワインと共通していたからだろう。いわゆるヴァン・ナチュール的な亜硫酸を使わないか極力控えめに用いた素直な口当たりが、恐らくジョージアの大半の消費者が慣れ親しんだ味であるように思われる。

 ジョージアにおける自家醸造の伝統

 というのも、一説によればジョージアでは国民の約80%が農民で、そのほぼ100%が自家醸造してワインを造っていて、さらに首都トビリシに住む人々の少なからぬ割合が、隣接するカヘティなどのブドウ栽培地域の農家からブドウを購入して自家醸造してワインを造っているらしいからだ。5月14日にトビリシで開催された新酒祭りには、102軒の家族経営の醸造所と78軒の大規模醸造所が出展していたが、その他にも大体10ℓは入りそうなキャニスターに自家製ワインを入れて持参して、友人達と楽しんでいる姿が随所に見られた。

 ジョージアの人々にとってワインは無くてはならないものだ。普段の食事はもとより冠婚葬祭、誕生日や聖人の祝日、あるいは来客の際に開催される宴会(スプラ)で、乾杯の度に一気飲みされる。「家族に」「妻達に」「祖先に」「祖国に」「愛に」と杯をささげて乾杯したら、その乾杯を捧げた人と捧げられた対象に敬意を表し、基本的に一気に飲み干すのが一応の礼儀である(飲み干さなくても咎められることはないけれど)。そして大抵の自家醸造ワインは喉に引っかかること無くスルスルと流れ落ち、体の中に穏やかに染み渡っていく。一回の乾杯で大体100~200ml位飲み干し、それが控えめに見積もって5, 6回はあるので一回の宴会で一人あたり大体1ℓ前後は飲むことになる。しかし意外なほど酔いのまわり方が穏やかなのだ。


真摯な面持ちで乾杯の辞を述べる「タマダ」と呼ばれる宴会の仕切り役。2, 3分のスピーチに耳を傾けた後、参加者は乾杯とともに一気にグラスを干す。タマダでなくても、思いついた人が何かしら乾杯の辞を述べることもある。

 こうした一気飲みに耐える、あるいは一気飲みのために造られているようなワインと、一口づつ、もっぱら食事とともに賞味する飲み方が一般的な西ヨーロッパのワインとでは、その存在理由が根本的に異なるはずだ。どちらも根底にはキリスト教信仰が伝統として息づいているとはいえ、ジョージアのワインはある意味では精神的な飲み物として、宴席をかこむ人々と、乾杯で引き合いに出された彼岸と此岸の人々を結びつけることが中心的な機能である。西ヨーロッパでも中世にはギルド、ツンフト、兄弟団で同様の飲み方がされていたが、15世紀頃から醸造業の専門化と商業の発達を通じて嗜好品と日常酒の分化が進み、消費の多様化とともに個々の社会集団の永続的な精神的連帯を強める意味は薄れていった。

 クヴェヴリ醸造の可能性を西ヨーロッパに示したヨスコ・グラヴナーが2000年5月に初めてジョージアを訪れ、カヘティ地方でクヴェヴリから汲み出したカツィテリを口にしたとき、「一口試飲するだけのつもりが夢中になって飲んでしまった。本当に素晴らしいワインだった」というエピソード(参照:https://youtu.be/16dSa99sKk4)は、自家醸造されたワインの素直な飲み口をよく伝えている。ジョージアのクヴェヴリで醸造したワインは一気飲みしてこそ真価が発揮されるのではないかと、現地で連日宴会続きだった今回の経験から思われるのである。

 ドイツにおけるクヴェヴリ醸造の意味

 ジョージアでのクヴェヴリによるワインが主として日常消費用であるのに対して、ドイツ産のクヴェヴリやティナハで醸造したワインは、設備投資を行い手間暇かけて(でもなるべく手を加えないで自然に)醸造した特別で個性的なワインとして、伝統的な木樽やステンレスタンクで醸造したワインよりも高めの価格設定が行われている。クヴェヴリやティナハで醸造したワインは一般の消費者にはまだ知られておらず、味わいも独特なので、背後にあるストーリーを丁寧に伝えなければならないため、生産だけでなく販売にも手間がかかる。だからインセンティヴとして多少多めにマージンを載せた小売り価格設定にしているのだと、ある生産者は明かしてくれた。

 クヴェヴリをジョージア以外の産地で使えば、それまでにない独特な個性のワインが出来ることは間違いない。優れたブドウ畑で栽培し、収穫量を抑え、衛生環境などに細心の注意を払いつつ丁寧に醸造をした、複雑で凝縮感のある優れたワインは周知の通り存在するし、ドイツの生産者が目指すのはそうしたワインだ。しかしそれはジョージアの伝統と文化に根ざした消費形態-宴会と乾杯-から切り離され、西ヨーロッパ的な嗜好が求めるワインである。だからジョージアにおけるクヴェヴリワインと、ティナハが伝統的に用いられている地域以外で醸造された西ヨーロッパのクヴェヴリワインは別物と考えた方が良い。喉を潤すように飲めて体に優しいワインならば、醸造容器にかかわらず亜硫酸の使用を出来るだけ控えた、いわゆるヴァン・ナチュールで十分である。そして自家醸造で素朴に造ってもそれなりに美味しいワインが出来てしまうジョージアの伝統とテロワールに敬意と羨望を感じる一方、栽培醸造技術は素朴であってもよく考えて造られた、独自の魅力を備えたワインを見い出すことの難しさを思わずにはいられない。

 ジョージアから帰ってきて1週間になるが、そろそろ乾杯と一気飲みが恋しくなってきた。とはいえ懐事情もあるので、手頃な価格のヴァン・ナチュールを探すか、いっそのこと自家醸造に挑戦してみようかと少しだけ考えている今日このごろである。

(以上)

 北嶋 裕 氏 プロフィール:
ワインライター。1998年渡独、トリーア在住。2005年からヴィノテーク誌にドイツを主に現地取材レポートを寄稿するほか、ブログ「モーゼルだより」 (http://plaza.rakuten.co.jp/mosel2002/)などでワイン事情を伝えている。
2010年トリーア大学中世史学科で論 文「中世後期北ドイツ都市におけるワインの社会的機能について」で博士号を取得。国際ワイン&スピリッツ・ジャーナリスト&ライター協会(FIJEV)会員。

 

 
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