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合田玲英のフィールド・ノートVol.40

公開日: : 最終更新日:2016/05/31 ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート

Vol.40

《 モンテ・ダッローラ 》

 「アマローネは、数あるワインの中でも特に技術的な介入がある醸造法だ。それだけ造り手の考えが大きく影響する。収穫から1年を待たず売り出されるサセーティのようなワインの場合、造り手の介入の度合いは、数字でたとえて言うのなら10%ほどしかない。その点アマローネは50%、人の手が造りだすものだ」モンテ・ダッローラ:カルロ・ヴェントゥーリニ。
 モンテ・ダッローラでは、2011年ヴィンテージからアマローネを1種類に絞ることに決めた。もともとは樹齢と区画の違いにより、2種類のアマローネ(アマローネ・クラッシコとアマローネ・ストローパ)を造り分けてきたが、より樹齢の高いブドウ樹からのみから造られるアマローネ・ストローパに注力することにした。これにより自分の考えや土地の個性をより投影することができると、カルロは考えている。
 また、上記の理由から、2種類のアマローネを造ることに労力を割き続けることが、醸造を始めて20年、カルロにとって居心地悪く感じてきたそうだ。とても個人的な感覚で説明するのが難しい、とカルロは言っていたけれど、ある程度醸造経験を重ねた生産者が、キュヴェ数を絞ることは珍しくない。2013、14年と難しい年が続き、アマローネの仕込みができなかったことも影響しているのかもしれない。 
 アマローネの総生産量は減るけれど、その分だけベースのキュヴェに、今までアマローネ・クラッシコへ使われていたブドウが使われることになるので、全体のワインの品質向上にもつながる。
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 今年は少し遅かったが、モンテ・ダッローラを3月に訪問すると満開の桜が迎えてくれる。カルロとアレッサンドラの二人は、ブドウと桜が共生していることをとても大事にしている。ヴァルポリチェッラはさくらんぼの産地としても有名だったので、20年前には春になるとどこも真っ白だったと、アレッサンドラ。現在では桜の林がアマローネのDOCGが取れる場所に残っていることは少なく、遠くから見ると、この丘にだけぽっかりと雲が浮かんでいるよう。

 

《 モンテ・デイ・ラーニ 》

 モンテ・デイ・ラーニでも、3年ぶりにアマローネを仕込むことができた。2015年の作柄について聞くと、造り手のゼノ・ズィニョーリも思わずニヤリとした。フマーネの丘の小さな集落で生まれ、試飲会に顔を出しているのは見たことはないが、馬での耕作やポリカルチャーについて地域の農業セミナーで話をしたりと、地元での活動に力を入れている。所有面積8haのうちブドウ畑は2haで、そのほかはオリーヴ、野菜や果樹、穀物などを栽培するために使われている。彼のワイン醸造の哲学である、「ブドウ樹の周りにある環境の多様性がワインに複雑性を与える」という考えを、自分の生活にとことん落とし込んでいる。ワイン造りのために敢えてやっているのか、彼自身の居心地がいいようにしているのか分からないけれど、年中なにかしらの農作業がある彼の生活が、ワインに影響を与えているのは言うまでもない。ゼノのワイン造りがその土地に根ざしていることは、馬やその他の動物たちが彼の掛け声にすぐに反応することからもうかがえる。
 去年に0.2haほど新たに植えた小さな区画にはトネリコ科の木を植え、その幹と腕木を生えているままペルゴラ仕立ての支柱に利用するつもりだそうだ。ゼノのすることは何をするにしても自然体に見えるし、なによりワインに説得力があるので話してくれることに感嘆するばかり。
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《 アマローネ 》

 モンテ・ダッローラとモンテ・デイ・ラーニ。どちらのワイナリーも、畑は全て斜面に位置している。ゼノは生まれた集落がフマーネの丘の上にあり、畑も180mから400mの標高にある。モンテ・ダッローラは20年前に畑の購入を考えていた時、たまたまカステルロットの丘に畑を購入することができた。「当時はアマローネへの関心が今よりは薄く、丘の畑は作業が大変な分、僕らのような若い人間に機会が回ってきたのだろう。アマローネのようなワインの場合、斜面の与えるストラクチャーがないと、ただ甘く重いだけのワインになってしまう。この土地を変えたことは本当に幸運なことだった」とカルロ。 
 ゼノもインタビューで、「あなたにとってアマローネとはなんですか」という質問に、「なによりもまず、ここに生まれたことに感謝することを忘れることはない」という、謙虚な言葉から話し始めた。
 アマローネが他のどんなワインとも違うところは、やはりアパッシメントの工程があること。両生産者とも、風通しの良いところにフルッタイオ(乾燥室)を建てて、2~3ヶ月間自然乾燥させている。自然乾燥を採用するのは、以下のような理由からだ。大きな扇風機と除湿機を設置した乾燥室では、乾燥が急激に進み、その結果出来上がるアマローネには、熱の入った果汁のようなニュアンスが出てきてしまう。モンテ・ダッローラでは、木箱に収めたブドウの房の向きを、風の吹く方向に揃えて乾燥。
 モンテ・デイ・ラーニでは、天井から吊った網に一つ一つ房をかけて乾燥させるという、さらに手間のかかる方法。だが、この手数をかけるから、腐敗果が自動的に下に落ちるし、問題があった時に対処できる。

  カルロによると、サセーティは90%、アマローネは50%、ブドウさえよければできる、と言っていた。けれども、その10%、50%の人の手がかかる部分に、どれだけ手をかけられるかが、出来上がるワインにさらに差が出るところなのだろう。2014年にモンテ・ダッローラの収穫を見学したとき、雹や雨の影響で不敗果が多く、その選果を全てのキュヴェのブドウに対して同じ水準で行っていた。白ワインの醸造で、発酵槽に入れてから熟成まで何もしないという生産者が多いけれど、詳しく聞けば聞くほど細かなところに気を使っていることがわかる。そしてそういうワインには飲んで納得出来るだけの説得力があるのが面白い。

 

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年~現在≫イタリア・トリノ在住

 
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