合田玲英のフィールド・ノートVol.37
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ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート
Vol.37
試飲会はもっぱらナチュラルワインのものが多い。イタリアでは最近マルケ州の新しい小規模の生産者をよく見かけるようになった。数年前からのジュラ地方のワインのように流行ったりするだろうかと思って見ているけれど、まだそこまで人数も多くはない。3年前に初めて行ったジュラの生産者による試飲会ル・ネ・ダン・ル・ヴェールでは30人余りの若手を多く含む地域の生産者が参加していて、今年はパリでも行われた。2013年の時点から日本人の来場者が多く、来場者の10%は日本人かと思えるほど。ジュラとサヴォワは長らく生産地区分でもジュラ・サヴォワとまとめられてきてしまっているけれど、どちらも昔からナチュラルワイン愛好家にとってはスター的な生産者がいたから生産地としては名前は知られている。サヴォワも毎年パリに15人ほど生産者が集まって試飲会を開いている。
フランスでは地域ごとに生産者が集まってそこそこの大きさの試飲会を開かれているがイタリアでも各地域の生産者だけでナチュラルワインの試飲会をできるほど浸透してくるのだろうか。モリーゼ州に至っては一度もワインを飲んだことがない。ヴィニタリーのような大きな試飲会でしかモリーゼのワインは見かけない。トスカーナ州ジリオ島でワインを造るフランチェスコはモリーゼの出身だ。彼のワインは父親が造っていたように、多くの品種を混醸して造る。単一品種から出来るワインの持つ緊張感はないけれど、イタリアらしい魅力がつまっていて、イタリアワインていいなぁと飲むたびに思う。赤のキュヴェ名のサヴェリオは彼の父親の名前で、フランチェスコが子供の頃にサヴェリオがモリーゼ州で造っていたワインとそっくりの味わいだそうだ。
数で見るとフランスの方が開かれるナチュラルワインの試飲会は多いけれど、イタリアにも面白い試飲会がある。中でもヴィニ・コルサーリというバローロ城で開かれる試飲会は、ピエモンテ以外のワイン生産地のワインが30社参加。バローロのリナルディ家と彼らのポルトガルのインポーターが企画していてドイツ、オーストリア、カナリア諸島、フランスなどのワインが集まる。テイスティングに訪れるピエモンテの生産者が多いことからもレベルの高さが伺える。チリのナチュラルな造りをしている生産者たちがピエモンテへ来た時も生産者同士の交流の会を企画していたようで、ワイン業界だけではなくもうすこし生産者よりに活動しているのを感じる。
毎年1月末はロワールでルネッサンス・ド・アペラシオンやディーヴ・ブテイユなどの試飲会が開かれる。何百社と生産者が集まりここ数年は多くの若い生産者が新たに参加しているが、古くから参加している生産者でも全く把握しきれていない。去年にマルク・アンジェリの紹介で訪問したシノンの造り手ジェラール・マルラもその一人で彼はディーヴ・ブテイユに10年来参加してきた。亜硫酸無添加で素晴らしいカベルネ・フランを造るのだが、デリケートな品質のためか試飲会場ではこれを飲んでも引っかからないだろうなという味わいだった。試飲会ではワインが揺れてしまうからねと本人も言っていたし、改めて試飲会で味を判断するのは難しいと思うと同時に、生産者に紹介をしてもらうのが一番確実で近道なのだなと痛感。だけれど試飲会には(ディーヴ・ブテイユにはジョージアやチリなど)普段簡単に会えない生産者も来ることがあるので、彼らに会うのもまた楽しみの一つだ。
初めてイタリアの試飲会に来た、アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール。彼らをフランス国外で見るのはなかなか新鮮。2015年はfacebook上で収穫中に雹が降ったと投稿があったので心配だったけれど、元々のブドウの状態も良かった。結果としてこの数年で一番収量の多い年となったそうだ。
合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年~現在≫イタリア・トリノ在住
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