合田玲英のフィールド・ノートVol.19
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最終更新日:2014/09/08
ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート
vol.19
試飲会・ヴェローナ
多くの試飲会が開かれる4月。ヴェローナで開かれる《ヴィニタリー》 2014年は、4月6日から9日までの4日間。ほぼ同時期にヴェローナ近くのチェレアとヴィッラ・ファヴォリータで、《ヴィニ・ヴェーリ》と《ヴィンナトゥール》の企画する試飲会が開かれました。今年第48回目を迎えるヴィニタリーは、出展社数4000社、来場者155,000人と桁違いです。ヴィニ・ヴェーリとヴィンナトゥールは、ナチュラルワインを造る小規模生産者の集まりで、ヴィニタリーの中にもまたヴィヴィットと呼ばれる生産者の集まりがあります。今年からは新たに「ビオワイン」ブースが、ヴィヴィットと同じくらいの小さなスペースながらも設けられました。ビオワインのブースは認証機関のマークがチケットに印刷されていれば出展できるそうですが、他の3つの試飲会はそれぞれに参加を申し込んで一定の審査の後、出展することが出来るそうです。例えば、ヴィヴィットでは醸造したワインとテクニカルノートを審査員に送り、テイスターが試飲したのちにグループに入れるのかどうかが決められます。が、そのテイスター名は公表されておらず、審査基準は彼らによっています。
生産者も来場者も多くの人からこれらの3つ、ビオワインのブースを入れれば4つのグループが一緒に開催することを望む声が聞こえてきますが、なかなかそうはならないようです。僕自身が見ていても、上記の試飲会の内の2つに出展している生産者もいますし、数年前から出展しているジョージア生産者たちは、ほぼ毎回出店場所が変わっていたりして、皆が一つになる方法があればと思います。一つ一つの会場は車で1時間ほど離れていて、開始、終了時間もバラバラ。より小さな集まりだと、ヴィニ・ヴェーリやヴィンナトゥールのように美しくてより心地の良い会場を選べますが、グループ内で閉じている感じが少ししてしまいます。そしてヴィヴィットに出展している生産者の中には、ヴィニタリー自体の規模が大きいなかで、彼らのような小規模生産者には多くの一般客に試飲させられるだけのワインが無いという問題があります。特にジョージアワインのように比較的最近に話題になってきた生産者はその傾向が顕著だとかで、そう簡単には一つになることはなさそうです。いずれにせよ、このナチュラルワインを求める動きは確実に大きくなっていっていることがうかがえます。
試飲会・シャンパーニュ
ヴェローナでの試飲会の数日後、フランスのシャンパーニュでも多くの試飲会が開かれます。最近では《グラン・ジュール・ド・シャンパーニュ》と呼ばれる期間中、開催された小中規模の試飲会が9つ。今年は4月12日から16日まで繰り広げられました。それに加えて、各ワイナリーが個々に開く試飲会が幾つかあります。僕にとって初めてのシャンパーニュの試飲会でしたが、学ぶことが沢山ありました。酸度の高いシャンパーニュ、特にヴァン・クレール(vin clair:シャンパーニュとして熟成される前の、前年収穫の非発泡性ワイン)を何日間も試飲し続けると、歯の表面が溶かされてしまい、前歯全体が知覚過敏状態になって痛みました。今まで行ってきた多くの試飲会と違い、ビオやナチュールという括りで開催されるわけではないし、醸造前の補糖や一次発酵時の酵母添加の有無を、シャンパーニュ試飲の説明の中で言及されること自体が、驚きでした。聞こえてくる会話も英語が多く、それだけ多く海外へと輸出されているのだと分かります。 どの試飲会でも、何社かはビオロジックやビオディナミでの栽培、添加酵母の不使用での醸造を行っているところが何社かありました。彼らにビオ生産者だけで試飲会を開くという計画はあったりするのかと聞くと、来場者が少なくなる可能性が大きくなると言っていました。1つ1つがどういう括りで生産者を集めているのかは分かりませんが、例えば今年初めて試飲会を開くクラブ・トレゾール・ド・シャンパーニュは、グループ自体は何年も前に、レコルタン・マニピュランの生産者のみで結成されたグループです。またシャンパーニュの試飲会でも、やはり2つ以上の試飲会に参加している生産者がいました。
その試飲会の中の1つである《テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ》や、ジャック・セロスやジェローム・プレヴォーの出展する《トレドゥ・ユニオン》その他のシャンパーニュの試飲会に比べ、ナチュラルな造りのシャンパーニュが多いように思えます。テール・エ・ヴァンでは、スタンドもシンプルで樽の上にボトルを置き、シャンパーニュが冷えすぎるていることもあまりありませんでした。今回初参加のエマニュエル・ブロシェは、時間によっては日光が当たってしまう場所だったので暑すぎるくらいだ、とぼやいていましたが。それでも個人的には冷たすぎるよりかは、いいと思います。以前エマニュエル・ブロシェを訪問した時、彼は売り先によってドサージュの量を変えていると言っていました。シャンパーニュでさえあればなんでもいいという風にシャンパーニュを飲むのではなく、適切な温度で非発泡性ワインと同じように飲んでくれると思える人には、甘味調整のためのドザージュを減らして出荷している、とのことでした。極度に冷やされたシャンパーニュは、甘味以外の味がしなくなってしまうからです。ただドザージュをすれば甘さを強く感じるとか、しなければ甘くないという単純なものではなく、シャンパーニュの中にあるブドウ由来の他の成分とのバランスがやはり大事なのです。つまりは、健康な土壌からなる健康なブドウが不可欠だということ。また、糖分にも抗酸化作用があるという生産者によれば、長期間(10年単位)熟成させるのに、ドザージュが上手く機能するのだそうです。これは、赤ワインの長期熟成に対する亜硫酸添加の必要性と似ていますが、同一シャンパーニュのドザージュ有り/無しを飲み比べてみたいものです。 シャンパーニュは他の地域や国に比べて情報量が多く、この一地域だけで他国の大ブドウ産地と同じくらい細かく説明付けがされていて、まだまだ自分は何も知らないのだと感じました。
パスクァ
4月20日の日曜日は、パスクァ(キリストの復活祭、イースター)でした。日本ではその名前こそ知られていますが、クリスマスやヴァレンタイン・デーなどのようには定着していません。春分後の最初の満月の次の日曜日、と日にちが毎年違う《移動祝日》(ヘミングウェイの小説の題名になっている)なので、新しく取り入れるにはあまり商業的ではないのかもしれません。今年は3月21日の春分の直前、4日前の3月17日が満月だったので、その分だけパスクァが遅れました。4月の満月は15日でした。
イタリアのトスカーナ州イゾラ・デル・ジリオ島で、とても個性的なワインを生産しているアルトゥーラ社。去年は一昨年から1年以上雨が全く降らなかったという過酷な環境のなかで、15年前から放棄されて林になってしまったブドウ畑を手入れし直し、ワイン醸造を行っています。最高の料理人でもあり、歌い手でもある当主のフランチェスコは、あふれでるユーモアとふと見せる力強い眼差しが印象深い人です。そんな彼らのジリオ島でのパスクァは印象的です。
友人を呼び、料理とワインを振る舞い、最後に皆で歌うという、絵にかいたようなイタリア人らしい過ごし方でした。大きな3リットルのビンにタンクから直接ワインを入れ、ラベルの無いワインを楽しんで飲む。これだけで、なんて楽しいのかと思えてしまいます。ニコラ・ジョリーの本の中で「現在ほど皆が切磋琢磨し、美味しいワインが生産されている時代はないが、昔は本物のワインが沢山あった」と書かれていたのを思い出しました。と同時に、上記のシャンパーニュのように、知識を蓄えて他の年代や産地・区画と比べたりしながら、生産者の感性の賜物のようなワインを生産者は造り、消費者(飲む側)は探していけるというものもあるわけで、このワインという飲みものは本当に奥深くて楽しいものです。
合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。 ≪ 2007年、2009年≫ フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫 ≪ 2009年秋~2012年2月≫ レオン・バラルのもとで生活 ≪ 2012年2月~2013年2月≫ ギリシャ・ケファロニア島の造り手 (ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活 ≪ 2013年≫ 現在、イタリア・ヴェローナ在住
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