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『ラシーヌ便り』no. 121

公開日: : 最終更新日:2019/02/06 定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー

no. 121

早12月となりました。 8月に久しぶりにスペインを訪ねて、ポルトガルをまわり、10月もほぼ同じゾーンをたずねました。ラシーヌでは長らくスペインワインは、リッカルド・パラシオス、オリヴァーレスのみの扱いでした。一つ扱っていた、リベラ・デル・ドゥエロの自根の素晴らしいワインがありましたが、たった3ヴィンテッジで作りが変わった結果、取り扱いをやめて以来、積極的に探してきませんでした。

スペインには、各地に樹齢が高く、素晴らしい畑が残っています。そこで意欲ある造り手が高品質なワインを作ってきていますが、極端なほど高額なのに驚くことが少なくありません。 スペインには有名なレストランが何軒もあるので、高額であっても世界中からのゲストで賑わうレストランがこぞって買い付け、売り切れているのでしょうか。生産本数が少ない場合は供給側が強いのは分かりますが、果たして輸入して売れるかどうか、難しさを感じます。

ガリシア地方 2012年から少しずつリサーチを始めて、Bernabe Navarro (アリカンテ)、Esencia Rural ( ラ・マンチャ)、Pago Del Naranjuez (グラナダ)をご紹介し始めました。ラファとエセンシアのワインは、ゴブレ仕立て、一部自根、ナチュラルな栽培と醸造の三拍子が揃って、しかも驚くほど安くて美味しいので、瞬く間にラシーヌの人気ワインとなりました。 もちろん現地から冷蔵輸送、通関、保管を徹底しているのでスペインの低価格なワインにありがちな、焼けた平板な味わいがなく、ピュアな飲み心地で、芯の通った味わいです。 最近、フランス、イタリアのヴァン・ナチュールが値上がりし、扱いにくい価格になってきているので、そこに登場した救世主といえるのではないでしょうか。 一方ナランフェスは、標高900mの自根の畑から生まれ、亜硫酸ゼロながら安定した味わいで、お手頃な価格です。何よりも味わいにクラスを感じさせる、正調派のスタイルがあり、なかなかスタイルが渋い。 ワインバーはもちろん中華料理、焼き鳥店などで、実力を発揮しています。 この3つのワインに出会えた幸運を上回る、真の実力を持つワインに新たに出会えるか、容易ではありません。

サラマンカの畑

樹齢100年以上のブドウ樹(マドリッド近郊)

 最終日はサラマンカから、マドリッド近くの二軒のワイナリーを訪問しました。 標高900mほどの畑に、古い樹が残っています。とりわけ、生息数がわずか4つがいになってしまった野鳥の保護森林の中にある畑は、隣人がおらず長年有機栽培されてきました。「2005年までは、スペインには優れたワインはほとんどなかった」とは、事情に通じた作り手本人の言葉。 40haの畑をもつワイナリーでは、実によく考えられたセラー設計で、発酵槽は2000リットルのティナ、小樽熟成後のアッソンブラージュタンクはコンクリートタンクという具合。このワイナリーの初期設計をした醸造家の、確かな考え方がよく表れていました。マイナーアペラシオンでは、新しいワイナリーでこのような醸造環境はフランス、イタリアでも見かけないので大変驚きました。 マドリッド近辺の生産地にも若い世代が、クオリティ・ワインを目指しています。幸い古い良いセラーが残っていて、彼らのワイン造りをよりよい方向に助けています。 当然のことですが、価格はやや高く、醸造的にはレベルはさまざま、どこまでも本人の腕次第です。 スペインのインサイダーから意見を求められ、思った通りを述べると、一人については、「頭で考えすぎ、感覚的な点が足りないかな」と言っていました。 久しぶりのスペインリサーチ、まだまだ面白くなりそうです。 この度の旅程は、ブルゴーニュを訪問後、スペインに入り、ガリシア地方、ポルトガルのDaoを経由して、東へ200km移動、サラマンカ近くの畑を見に行きました。 ガリシアもサラマンカも標高750m、一つの畑からせいぜい600本の生産量、栽培はゴブレで、樹齢の高い素晴らしい畑でした。 ワインは色淡く、花のような香りで、かつ、きちっとした味わいの美しいワインでした。 4月にはお目見えの予定です。

ティナ アッサンブラージュタンク 100年以上前のコンクリートタンク

スペインのヴァン・ナチュール事情 

スペインでは、数年前からカタルーニァ地方にヴァン・ナチュールの大きな波がおしよせ、 熱狂的なオレンジワイン・ブームがバルセロナ、タラゴナを中心に一大勢力となっていることは、ラシーヌ便り95号でお知らせしました。 しかし、カタルーニァを離れると、いやいやいや、どこへいっても、ヴァン・ナチュールへの抵抗は大きいですね。 「1本25ユーロのワインを一ケース買って、1-2本しか飲めなかったら、1本の値段は、150ユーロから300ユーロだろう? あたればいいけれど外れたらただの出来損ないのワイン、そんなの売っちゃダメだよ」 となんども聞きました。 樹齢100年から、特別な樹は300年のブドウがスペイン各地に残っていたので、樹の存在を心から尊敬し、上手に美味しく、大切に作ってと、思わず絶叫したくなります。 夏の暑さが厳しいため、新しい建物では、作り手のセラーでも、温度が高い場合が多く、実際、ラ・マンチャで仕入れたワインは、ほとんど噴いていて、料理ように販売せざるをえなかったことがありました。 まして、街のワイン・ショップでは、特別な扱いをしなければ、どんなワインも傷んでしまいます。 ポルトガルも、風がここちよく、地元の食事が美味しく、いい畑があるので、きっと誰か、あるいは新世代が現れるはずと期待がふくらみます。ポルトガルとスペインで、どうか、クルトワ家族、ニコラ・ルナールやブルーノ・シュレールのような人に会えますようにと、願いながらの出張でした。

帰国前日、マドリッドのCuenllas というタパスバルと軽食のレストランに行きました。 軽食といっても、写真の通りの料理、決して軽食ではありません。ワインを楽しむために洗練された小皿が次々と登場。ハモン・セラーノに合わせて小さなボデガの極上のアモンティリャード。 「この組み合わせは、天国だね」といいつつ、マドリッドでカーヴを営む友人はアモンティリャードを次々と空けました。 彼の選んだワインは王道のクラシック。スペインのヴァン・ナチュール世界がまだまだ一部の小さな存在だとあらためて認識しました。

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