合田玲英のフィールド・ノートVol.34
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最終更新日:2015/11/05
ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート
Vol.34
ネッビオーロの名前の由来は、霧を意味するネッビア。ランゲの秋は毎朝濃い霧が出て、昼頃になり太陽が高く上ると少し霧が晴れ、日差しが陰るとまた霧が出る。ネッビオーロは霧の出る頃に収穫するのが良いと言わるが、今年は10月前に収穫を終えた生産者も多い。フェルディナンド・プリンチピアーノでは、ドゥセット(早飲み型デイリーワイン)用のドルチェットを、今年は8月末に収穫している。ただ暑かっただけではなく、雨が定期的に降ったのが、生育を早やめた理由だ。エウジェニオ・ボッキーノでは7月の末以降、畑のトリートメントをせずに済んだほど、ブドウの状態も良かった。一部では雹に見舞われた地域もあるが、去年のような難しい年のあと、このような年を迎えられるとホッとする。
ランゲ地方で大樽(ボッテ)で熟成された、クラシックな造りのワインは、ネッビオーロに限らずとも、澱から移った独特の香りが本当に美しい。澱臭いときは別として、柑橘系の香りを発していると、ため息が出るほど美味い。先日飲んだフェルディナンド・プリンチピアーノのバローロ・ボスカレート2009は、ちょうどギリギリの香りで絶妙だった。それと同時に、やはりこの香りは澱からくる香りなのだと分かる。発酵槽としても熟成用としても、大樽はつくづく素敵だと思う。
ピエモンテ州とトスカーナ州では、ガルベッロット社製の大樽をよく見かける。イタリアのヴェネト州に工場を持つこの会社は、自社でも木材用にオークの森林を育て、その木材を研究対象にもしている。詳しくは分からないが、バローロの生産者と協力して、製造された樽の年代によって、出来上がるワインの品質にどのような差が出るか、という調査も行っているらしい。昔の材木のほうが環境 汚染が少なく品質が高かった、などと言われても悲しいだけだが、結論はまだ分からない。そこで、新しい樽に買い換える生産者もいれば、廃棄される古樽を狙ってわざわざ買おうとする生産者もいる。もちろん、新しいオークほど香りと味がつきやすいので、それが目的ならば買い換えるのは当然だろう。
フェルディナンド・プリンチピアーノでは今年、容量100HLの50年ものの熟成用大樽を、2つ購入することが出来た。100HLというサイズは初めて見るので圧巻。その生産者にしてみれば、手放すだけの理由があるのだろう。目減りは早いし、もしかしたら漏れが生じたり、変な香りがついてしまっているのかもしれない。だが、同じサイズの新樽と古樽の値段を聞くと、古樽は価値のある投資のように思える。もちろん古樽のほうがだいぶ安いが、そのうち値段が逆転することもあるかもしれない。フェルディナンドは、この200HL分の大樽をバローロ・セッラルンガの熟成用にするらしく、新しいセラーが完成してから使う予定。今のセラーは少し狭いので、買った古樽は借りているセラーに一時的に置いてある。
ちなみにこの貸しセラーは、ジャコモ・コンテルノの昔のセラーの跡地にある。現在敷地は人手に渡っているが、1912年とも20年の建設とも言われる、モンフォルティーノが生まれたと覚しいセラーは、一応は形が残っている。
今は見る影もない
合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年~現在≫イタリア・トリノ在住
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