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『ラシーヌ便り』no. 118

公開日: : 最終更新日:2015/09/01 定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー

no. 118

マルク・アンジェリの来日

 8月15日にマルク・アンジェリが来日しました。この度の主眼は、試飲会というよりも、彼のワイン造りの背景を知る会であったように思います。マルクの一言一句に込められた意味と経験の裏付けには重みがあり、深く印象に残るお話しばかりでした。 ワインの素晴らしさはいうまでもありませんが、あらためてマルクの高潔な志と人柄にうたれ、環境保全や後世への責任などを考えさせられた一週間でした。

伊勢丹新宿B2 マルク・アンジェリ来日トークショー

 マルク・アンジェリの歩み

1990年 アンジュ地区コトー・デュ・レイヨンとボヌゾーに7haの畑を購入し、ワイン造りを始める。

1994年 ヴィーニュ・フランセーズを植える。

1998年 ル・テロワール(ラシーヌの前身)と取引を始める。 

2000年 ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンの活動を始める。当初メンバー40名、現在250名。

2005年 アンジェのグルニエ・サンジャンにて、第1回試飲会を主催する。

2006年 フィロキセラ禍のために、ヴィーニュ・フランセーズを抜く。

2009年 マダガスカルの支援をラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンのメンバー全員で始める。

2010年 再び、別の区画にヴィーニュ・フランセーズを植える。

2013年 秋、赤ワインの醸造法を変える。ラ・リュンヌ畑産ブドウで、クヴェヴリ醸造を試みる。

 

 マルクと取引を始めて早や16年がたちました。マルクの歩みを振り返りますと、妥協せずにビオディナミを実践しているだけでなく、栽培・醸造の両面でたゆまぬ工夫と革新を続けていることに、驚かされます。ワインには進歩の跡が鮮やかに刻み込まれているため、 この度の1990年代にさかのぼる試飲でも、近作の素晴らしさに感激しました。 また、ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンの活動にとどまらず、自らグルニエ・サンジャンの試飲会を主催し、若手を育ててデビューを助けるかたわら、フランス以外の優れた造り手の参加の機会を設けるという具合に、優れたワインが生まれる運動を無心に続けてきました。 「ワインを造るということは、ほぼ毎日畑にでること。畑で仕事をしていると直接地球の変化に気づく。また、ワイン造りの仕事や催しを通じて、他の産地や国々の造り手たちと連帯感を感じる」と話していましたが、この思いが、ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオン運動の原動力なのでしょう。

 滞在中にマルクから聞いた話から、いくつかお伝えいたします。

 

 マルク語録

1)ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンのメンバーは、当初40名で始まったが、現在は250名で構成される。毎年、世界中から参加の申し込みがあるが、12人でテイスティングして、参加の是非を決める。ワインについて事前情報なしに、味わって心を動かされるかどうかで、参加資格を判断する。メンバーには、ビオロジック栽培である以上に、まっとうな方法で造って欲しい。高い品質、魂を持ったワインを造ってほしい、と話している。

2)ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンのメンバーに申し込みをしてくる人の中には、スター・ワイン・メーカーであると自認している人がいるし、自分中心な人が多い。フランスのシェフもそういう人が多いね。日本に来ると、オープンキッチンの中でシェフが片づけをしているのが見える。フランスではどんな小さな店でもありえないことだ。自分が一番だと思っている人は、いいものが作れない。

ヴァン・ナチュールには3つのタイプがある。

  1)良い栽培をして、SO2は少なくてもおいしいワインを造っている人

  2)良い栽培をして、SO2は少ないが、欠陥だらけのワインを造って平気な造り手。若い人に多い。

  3)言葉巧みで、言うばっかり。栽培も醸造も何らナチュラルでなく、認証規定がないから勝手にナチュラルと言って売っている人。

4)認証をとることは、費用がかかるが、それで地球が少しでも汚染されなければよい。最初に認証をとろうとしたとき、2000ユーロかかると言われた。内訳は、手続き費用のほかに、調べにくるための人件費、交通費などだった。それで、近隣の作り手に声をかけて5人で申請し、費用を分担した。工夫をすることが大事だ。

5)1ヘクタール当たり30hlの収量で造っていたなら、どこの生産地でも良いワインはできるだろう。 現状は、有名な生産地であるほど、1ヘクタール当たりの収量は多い。有名な生産地ではワインの販売価格は高く、高く売れるから生産量を増やして、より儲けようということになる。ワインから、水道水に許可されている残留農薬値の3000倍の残留農薬が検出されたという報告がある。有機栽培のワインを楽しむことは、未来に健全な土地を残すことになる。低価格なワインを楽しむ場合も、有機認証を取得したワインを飲んでほしい。

6)砂地にはヴィーニュ・フランセーズを植えよう。収穫は極端に少なく、1994年に植えた畑(0.15haと3ha)では、毎年100本ほどしかとれなかった。しかしいつも、アルコール度数が1度ほど低く、エレガントなワインができた。残念ながら2006年にフィロキセラのために抜いた。最近新しくヴィーニュ・フランセーズを植えたけれど、今年の収穫は5リットルほどだ。 小さなクヴェヴリで造るつもりだ。

7)北半球の生活の安易さは、南半球の人たちの犠牲の上に成り立っている。それに気づいて、南半球で必要としている人がいたら、援助をするのは当たり前のことだ。貧困にあえいでいて、自ら改善しようという意思があって、援助を必要としているところとして考えたのは1) ハイチ、2) シエラ・レオーネ、3) マダガスカル。ハイチは政情不安で危険だし、シエラ・レオーネはフランス語が通じない。それで、マダガスカルを援助することになった。支援している場所には、水道、電気、道路、家と言えるほどのものはなく、各家庭に料理をするための大きな鍋が一つあるだけ。だけれど、彼らの笑顔は美しく、スパイスの天国だ。スパイスの品質は、他と比較にならず、間違いなく世界最上の品質だ。

8)COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)は1995年に始まったが、各国関係者が集まるための費用は、どれくらいの金額になるだろうか。木を1本植えるのに30円かかるが、1995年から木を植えていたら、森ができているだろう。 会議をする前に、木を1本でも植えるほうが、どれほど効果があるかわからない。

 

 この十数年、マルクは日本のマーケットを最優先して、大切なキュヴェを出してくれました。多くの方々がサンソニエールを訪問されたこともあり、来日の際に経験したことを通してビジネスを超えた信頼関係が、日本との間に築かれてきたのだと思います。この度も、彼のワインを大切に味わってくださっている多くの方々に会い、マルクにとっては感動の毎日のようでした。「日本に来ると、もっといい仕事をしようという励みになる。また5年後に来たい」とのこと。 マルクの姿勢に見習い、ラシーヌもささやかながら今年度からマダガスカルの支援に、取り組むこととしました。 

日本ワイン生産者との座談会

 次の来日までには、マルクの新しいこころみとして、1000ℓのドイツ製の炻器(1200度で焼かれたもの)で醸造されたワインが入荷しているでしょう。マルクの新しい世界を、みなさんと共に楽しみたいものです。ありがとうございました。 

マルクを囲んでのお食事会

 


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