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合田玲英のフィールド・ノートVol.33

公開日: : 最終更新日:2015/08/04 ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート

 

Vol.33

 ヨーロッパでは暑い日が続いています。フランスのボジョレーでは2ヶ月近く雨が降らず、水不足のため2015年の収量は少なくなりそうですが、他の地方、国では概ね良い状態の気候が続いています。写真はボジョレーのクロテール・ミシャルの畑のブドウです。水不足ゆえに粒は少し小さめで、房の数も減りました。病気の被害は少なく、数回の農薬散布のみで済んでいます。

ミシャルのブドウ

《 チンクエ・カンピ 》

 ラシーヌで初めてのランブルスコの生産者です。ニッツォリ家はレッジョ・エミリアの街近くで、200年近く農家を営んでいます。現在も4haの畑に加えて麦や家庭菜園の畑を合わせ20ha以上の土地を所有しています。2003年に現在の当主のヴァンニ・ニッツォリが経営を始めるとともに、畑の栽培をビオロジック栽培へと転向し、ワイナリーでの元詰めを始めました。2005年にはグラスパロッサやスペルゴラといった地品種の畑を引き取るなど希少品種の保存にも力を入れています。また、ワインだけでなくごく少量のバルサミコ酢も作っていて、昔からの農家らしく多種の農作物を生産しています。

チンクエ・カンピ

 畑の管理は現在ではビオディナミの調合剤や柳科の植物の煎じたものを散布し、硫黄やボルドー液の散布は極力減らせるようにしています。耕作も2年に1度行うのみで、自根の100歳を超える白品種スペルゴラの植わる畑では土の不耕作にも挑戦しており、畑が健全な状態を自然に保てるよう試みています。写真は収穫後の畑の様子です。不耕作の畑では地面がとてもフカフカしていて、自生している植物の種類も多く、なにより居心地が良かったのを覚えています。僕はどうしても手入れのたくさんしてある畑より、こういう方向性の畑に惹かれてしまいます。

 以前は醸造過程において少ないながらも亜硫酸添加をし、瓶内2次発酵を行うキュヴェの糖分と酵母の添加には、市販のものを使っていました。現在では醸造は亜硫酸無添加で行い、糖分はその年に収穫したブドウ果汁を5度に冷蔵していたものを使用しています。(本人の言葉ではありませんが)よりナチュラルな味わいを目指す内に、畑の状態が向上していっていることから、余計なものを添加しない醸造に変わっていったように思えます。1次発酵にスターターを用意したり、2009年に建てた新しいセラーの地下部分は土の面を残していることからも、慎重に考え、実践していることが伺えます。アタックから後味まで一貫して透き通っていて、彼の考えがよく反映されたワインに仕上がっています。

チンクエ・カンピ畑チンクエ・カンピ セラー

 正直なところ、赤のスパークリングは個人的にはタンニンとスパークリングという組み合わせが苦手で、これまで敬遠してきました。イタリアでもエミリア=ロマーニャ地方のワインバーでしかあまり見かけないランブルスコですが、ヴァンニのランブルスコを飲んでからからは、意外といけるなあと思い始めました。特に今年は、昨年までと違って猛暑日が続いているので、そんな日にグビグビと飲むには最高です。

『 新版ワインの科学 』 

 最近読んで面白かった本の、感想文ではありませんが紹介をしたいと思います。ここで取り上げるまでもなく、ジェイミー・グッドの著作として有名な本ですが、やはりとても勉強になります。2008年に出版された『ワインの科学』に加筆修正されたものが、今回の『新版ワインの科学』で、去年出版されました。著者のジェイミー・グッドは植物科学者であり、科学誌の編集者でもありましたが、現在はワインライターとして活動しています。

 内容はタイトルの通り、ワインに関わることが、ブドウの栽培から実際に飲むまで、何が起こっているのかを科学的なアプローチで解説されています。科学的に、と言っても醗酵中のメカニズムの説明だけではなく、「ビオディナミを科学で検証」という章もあることからもわかるように、ワイン業界で語られていることが広い範囲でそれでも十分に深く掘り下げて、しかもわかりやすく解説されています。ビオディナミについてはまだ十分な科学的な調査がなされていないようですが、結果として畑の土壌の状態は良く、収穫されるブドウの成分のバランスが良いことが確認できる、とありました。この本によると、ビオディナミのどの要素がそれぞれの結果に、どのように関係しているかを解明しようという試みすら、まだ始まっていません。なんでも科学的に解明しようとするのは、ちょっと野暮に思える時もあるし、本に書いてある通り「従来の科学は偏った自然観しか与えてくれない」と考える実践者がいるのも分かりますが、科学的に説明できる要素が少しでも増えればと思います。

 「亜硫酸の働きと添加の是非」という章は、「亜硫酸。これほど議論されながら、これほど誤解されているテーマも珍しい。」という一文から始まります。亜硫酸を正しく使うことが必要と説いていて、長所と短所という立場でなく、中立に実際の科学的に証明されている影響のみが紹介されています。何かと極端な意見が聞こえてくる議題ですので、よく読み返しています。僕は“亜硫酸無添加のワイン”は大好きですが、一部の(ナチュラルワインの)生産者の間で“このワインはちょっと変な臭いがするな、じゃあ日本向けだな”なんてことが冗談になってしまっている現状は、いただけません。

 この本には、一般消費者には専門的すぎると思えるところもありますが、生産者と消費者の間に立つワイン関係者の方に、特に読んでほしいと思います。先日同世代のソムリエの友人と話していた時のことです。

友人「最近ワインが高くなっているね」――この場合は特に1つのキュヴェに関しての値段についての話でした。

自分「運送費の変化や、2013年14年と収量の少ない年が続いたからだと思う」

友人「それだと収量の確保できた年は値段が下がるのかという話になるね」

 『新版ワインの科学』は、ワインの値段のつけ方までには説き及んでいませんが、ブドウ栽培の過程で剪定やグリーンハーヴェストによる収量調整を行っていることを知っていれば、こういう意見は出てこないと思います。亜硫酸や収量の調整については、この本だけに書かれているわけではありませんが、(僕も含め)誤解がまだ多く残っているワインの世界ですので、必要なことが十分にわかる貴重な一冊だと思います。

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年~現在≫イタリア・トリノ在住


 
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