『ラシーヌ便り』no. 117
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定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
no. 117
ヴァンナチュールの精髄/マルク・アンジェリの来日
夏の畑の手入れが一段落し、収穫までの短い合間をぬって、8月15日にマルク・アンジェリが来日します。ご存知のようにマルクは、ニコラ・ジョリーとギィ・ボサールとともにラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンを盛り立て、ヨーロッパの造り手たちに真剣に有機栽培を取り組む運動をおこしてきました。なかでもマルクは、活動の方針を考え、積極的な役割を担ってきました。優しく、おだやかな人柄の底に、強い意志と正義感があふれる、有言実行の人です。まだ、ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンができる前、2月に行われるサロン・ド・ロワールの集まりで、熱く語りながら仲間づくりに奔走していたことを思いだします。
1990年にアンジュ地区コトー・デュ・レイヨンとボヌゾーに7haの畑を購入し、ワイン造りを始めたマルクは、現在10haを栽培しています。長年ビオディナミで丹精された畑には、活き活きとした生命感があふれ、畑にたつと心が落ち着くような、不思議な気持になります。そのようなブドウから生まれるワインですから、私はワインのなかに気高さを感じとり、たとえようのないピュアな美しさにうたれるような思いがします。
妥協せずにワイン造りの原点を求めてやまない研鑽の結果、どのキュヴェも一層の洗練さを備えてきています。演奏家に例えるならば、音楽家が新たな境地に達し、従来と異なった新しい音を奏でるかのようです。 この度の来日セミナーでごらんいただくワインは、難しい天候続きでしたが、いずれも前進し続けるマルクの最上の表現を感じていただけると信じます。
今回の来日では、ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンの重要な活動である、マダガスカルの支援について、詳しくお知らせいたします。この活動は2009年から始まり、人々の自立支援と植林を続けています。後者は、植林を続けることを通じて、はげ山になってしまっていたマダガスカル島を、50年後に樹々で覆われることを目指すという、遠い未来を見据えたプロジェクトです。このように、寄付の方法は多肢にわたりますが、直接的には植林で島全体の生態系の改善を図るとともに、女性のワークショップ支援をつうじて、マダガスカルの人々が自立して特産品を生産することを支持し、生産された産物を購入することによって、経済支援をしています。特産品としては、〈バニラ・ビーンズなどの最上質の香辛料〉、〈天然由来の香油の原料〉、〈ワークショップで紡がれ、染められて織られたスカーフ〉などです。また、ラ・ルネッサンス・デ・アペラシオンの入場料の全額と、各ヴィニュロン(142名)が350€を寄付しています。マルク自身はワインの年間売り上げの1/12を寄付し、支援の実施のために毎年マダガスカルに自費で10日間滞在しています。
ちなみにスカーフは、以前ラシーヌが輸入し、フェスティヴァンで販売いたしました。 エシャルプ(ショール)は、南部の高地にある小さな村に生活する女性達が活動するワークショップで作られていて、現地を訪ねて直接購入しており、WWFとは関係なく、全売上をZafimaniryの人々を援助する“Babakoto”協会へ寄付しています。 マルクのパンフレットには、次のように紹介されています。
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マダガスカルには「landibe ランディブ」という天蚕(野生の蚕、山繭)がいたるところにいます。蚕はこの地方固有の植物 tabiaだけを餌にしています。自然の中で採取された繭から糸房に仕上げられ、その風合いはざっくりとして、植物染料だけで染められています。
例えば、赤色にはナト、青色にはインディゴ=ブルー、白色には米が使われます。このエシャルプ(ショール)は、南部の高地にある小さな村に生活する女性達が活動するワークショップで作られ、一枚に3日かけて仕上げられます。私はマダガスカルの島と人々が好きで、長年にわたり支援活動をしています。
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マダガスカルの活動については、合田玲英のフィールド・ノートNo.17 http://racines.co.jp/?p=328 に詳しく紹介されていますので、ご参照ください。
今回は、2013年に、ジョージアのアンフォラ(「クヴェヴリ」。名人ザリコ製。容量200ℓ)一基で醸造された、ラ・リュンヌをご紹介いたします。残念ながら、生産量が少ないので販売はできませんが、〈格別なクオリティのブドウ〉〈屋外の地中に埋められたクヴェヴリ〉〈考え抜かれた技法〉の三拍子がそろいました。はたして生まれたワインは、繊細にして複雑、品の良い余韻と絶妙な心地よさをそなえています。ごく限られた量ながら、本年1月に日本に到着しましたが、マルクのファンのため、半年あまり寝かせて落ち着かせ、ここにお披露目の会を迎えます。
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