*

『ラシーヌ便り』no. 116

 no. 116

ラシーヌの本命、イタリア・ワイントスカーナが、ますます充実の途に

=新規取り扱いワイン到着のお知らせ=
 Il Marronet    《イル・マロネット》  Brunello di Montalcino
 L’Aietta        《ライエッタ》         Brunelllo di Montalcino
 Podere 414     《ポデーレ414》    Morellino di Scansano
 Le Calle         《レ・カッレ》        Montecucco

 ラシーヌは発足したさい、フランスワインの仕入れから出発しました。わたし自身も四半世紀前に仕入れの仕事に就いたとき、定番どおりフランスから始めました。そのせいもあって、ラシーヌのイタリアワインはフランスワインの陰に隠れている、と思われているかもしれません。
 しかし実際のところ、イタリアワインの開発と仕入れには、大変な力を入れてきました。1990年代始めから塚原と合田は、「イタリア熱」に冒されたみたいにイタリアワインに熱中し、以来20年以上もそれは変わりません。ジャンシス・ロビンソンも指摘しているように、優れたイタリアワインは独特な風味に富み、気迫と創造力にあふれています。イタリア芸術を代表する、優れた絵画・彫刻・音楽作品に劣らず、イタリアのワインは優雅で魅力があり、いったんその虜になると、抗しがたい魔力から逃れられません。イタリアワインの仕事にこそ、ワイン・ビジネスの醍醐味があると言えるくらいです。

 1960年代に「イタリアワインのルネサンス現象」が起きたあと、この20数年間にイタリアワインがたどった変遷をみると、世界マーケットに振り回されながらも、多くの造り手が、真に伝統的なファインワインを目指してきたように思います。
 この間、巨匠と呼ばれた造り手が次々と亡くなり、ワイナリーが次世代に継がれる一方で、新たな造り手が登場するというぐあいで、つねに目が離せません。30年ほど前は、大量生産で質の低い安価なワインが市場の大部分をしめるかたわらで、特別優れた伝統的な造りをする一握りの生産者が、一部の熱狂的なイタリアワインの愛好家を魅了していました。
 その後、フランス流の醸造法や国際品種に惑わされたワインが流行した時期もありましたが、多くの若者が有機栽培と低収量高品質なワイン造りを目指しはじめました。おかげで最近は、古典的な醸造法で造られた、イタリアならではの個性を発揮するワインが次々と生まれてきました。この数年は、巨匠たちの姿が消えゆき、寂しい思いをしていますが、数々の良質なワインが楽しめる点では、長いイタリアワインの歴史のなかで、最も幸せな時期なのかもしれません。 
 ラシーヌは設立以来、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリアとピエモンテ地方のワイン開発に力を注いできましたが、同時にトスカーナの充実を心掛けてきました。トスカーナと言えば、まずジャンフランコ・ソルデラ氏《カーゼ・バッセ》と仕事できる名誉にくらべられるものはありません。が、若き天才ジャコモ・マストレッタさん《ラ・ポルタ・ディ・ヴェルティーネ》に出会えたことは、これまた大きな喜びです。最晩年のジューリオ・ガンベッリの薫陶を受けたジャコモのワインは、すでにトスカーナの「新たな古典」であるといっても過言ではありません。
 加えて、この春のヴィニタリーでは、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのテイスティングに注力した結果、《イル・マロネット》と《ライエッタ》があらたに陣容に加わりました。わけても1246年に建てられた荘重な建物のなかで造られるイル・マロネットは、精妙な複雑さと重厚さを備えた、優雅なブルネッロです。まもなく入港しますが、リリースにつきましては、追ってご報告させていただきます。
 二つのブルネッロ・ディ・モンタルチーノと同時に、《ポデーレ414》モレリーノ・ディ・スカンサーノが到着します。ヴィニタリー会場内で、サンジョヴェーゼを集中的にテイスティングしたなかでも、深く印象に残ったワインです。素晴らしくバランスのとれた上品な味わいで、活き活きとした味わいのなかに温かさを感じます。ヴィニタリー後にローマに出る道程で、日曜日でしたが思い切ってセラーを訪ねてみました。テニスから戻ったオーナー兼エノロゴのシモーネ・カステッリさんにセラーを案内していただき、幸運にも取引が決まりました。

シモーネ・カステッリ

IMG_3666

 《ポデーレ414》は、シモーネさんが1998年に創立したものですが、その父君は高名なエノロゴである、マウリツィオ・カステッリ(グラッタマッコ、マストロヤンニの醸造コンサルタント)です。マウリツィオはバートン・アンダーソン著『イタリア―味の原点を求めて』にしばしば登場するので、読者はご記憶のことでしょう。その父親から受け継いだワイン造りの叡智が、ここでは良い意味で発揮されています。ナチュラルをモットーにして、見事に美しく仕上げられた、魅力あふれるワインです。ちなみにワイナリー名にある〝414″は、1960年代に大農園の再分割がなされた時に、この農地につけられた区画番号だとか。
 モレリーノ・ディ・スカンサーノは、トスカーナの南部、グロセートの東南に位置するスカンサーノ地区で造られます。モレリーノはこの地域ではサンジョヴェーゼを意味しますが、キャンティと比べるとより柔らかくて軽やかで、たっぷりとした豊かな果実味があり、やや大柄で、上質なものは美しく熟成します。モレリーノという言葉は、ワインの色調に由来する、小さなサクランボを意味するという説と、かつて生活に欠かせなかった馬の繁殖(cavalli morelli)に由来するという両説があります。歴史的には、沼地が点在するマレンマに住む人たちが、厳しい夏をしのぐために、丘陵地のこのエリアに避暑にやってきて、ワインを造るようになったのが始まりです。

 
PAGE TOP ↑