『ラシーヌ便り』no. 115
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最終更新日:2015/07/01
定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー
no. 115
ジョージアを訪問後、5月14日からピエモンテにまわり、3月にヴィニ・ヴェーリで出会った、Eugenio e Cinzia Bocchinoウジェニオ・エ・チンツィア・ボッキーノ(ラ・モッラ/バローロ)を取引開始にあたって訪ねました。また、カッシーナ・フォンタナとフェルディナンド・プリンチピアーノを再訪し、常に前進し続けるワイン造りの現場を確認しました。
カッシーナ・フォンタナの当主マリオ・フォンタナは、2010年にコンクリートタンクを購入。バローロは大樽での熟成の後、さらに1年コンクリートタンクでの熟成が加わり、より深さと柔らかな印象が加わりました。また、バルトロ・マスカレッロの姪にあるマリオの奥様の実家から受け継いだラ・モッラのブドウが新たにバローロに加わりました。マリオのバローロは、もともとカスティリオーネ・ファレットのなかでも傑出したゾーンの中心部にある-ヴィッレーロとヴッレッティ産ですから、今後ますます注目される存在となっていくにちがいありません。今年のリリースから、久しぶりにオンリストしますので、どうぞご期待ください。
*将来に向けて確かな歩みを続けるフェルディナンド・プリンチピア-ノ
2013年6月にフェルディナンド・プリンチピアーノの第一便が、ラシーヌに入荷。以来、わずかな間にプリンチピアーノのワインは、「現代のクラシック」というべき存在になり、ファインワインとしての地位を確かなものにしました。複雑かつ優雅で親しみやすさを備え、完成度が高夷――というぐあいに、いずれのキュヴェも、さまざまな場面で魅力を存分に発揮してくれます。フェルディナンドは、ワイナリーの将来に向けた高い経営目標のもと、ヴィジョンを行動に移し続けていますから、訪問の度に新たな進展に驚かされます。
ご承知のように、フェルディナンドは2009年、ボスカレートを樽の中、素足でもって全梗ブドウを潰し、樽で発酵を始めました。昔からピエモンテでは、足踏みで潰すとよりスムーズに発酵が始まると言われてきましたが、今年はその第一作がいよいよリリースです。今回は最初に畑に行きましたが、たゆまず話し続けるフェルディナンドの考え方には、納得することばかり。深く論理的に思考を重ねた結果が、素直にワインの味わいに映し出されている。これには驚きました。畑での時間が大変長くなり、ティスティングの時間がなくなってしまいましたが、それほど畑とバローロの歴史について、貴重な話を伺うことができました。
この数年で大きく変わったことは、凝縮度を高めるために青いブドウの間引き「ディラダメンテ」を2010年からやめたことです。その結果、ブドウの熟し方が自然なバランスがとれ、アルコール度数が13度台に下がり、ワインに清涼感があらわれ、セッラルンガらしいミネラルが感じられるようになりました。
ついで2011年からは、ボスカレートのキュヴェ用に選果した残りのブドウを、セッラルンガに加えたために、セッラルンガの質がより向上しました。またセッラルンガは、栽培と醸造の両面からして優れたワインであるだけでなく、驚くほどリーズナブルな価格です。フェルディナンドがこのセッラルンガに込めたのは、質とリーズナブルな価格の両方を実現すること。「過度な凝縮をするために、収穫量を落して、アルコール度数を上げるよりも、自然なバランスがあり、度数が低く、かつ本来の個性が表現されたワインを造りたかった。結果、生産本数が増えたから、収入全体は変わらない。価格がリーズナブルだから、レストランでより多くの人に楽しんでもらえるようになった。レストランでは100ユーロ以上もするバローロを、誰もが飲めるわけではない。」(フェルディナンド談)
今年リリースされるワインは以下12種類、2010年にセッラルンガの南境界線に接するMontagliatoモンタリアートにある畑8haを購入したことにより、今後スタンダードラインのワインが増えてきます。
Dolcetto d‘Alba Dosset 2014
Dolcetto d’Alba St.Anna 2013
Barbera d’Alba Laura 2013
Langhe Nebbiolo Coste 2013
Langhe Freisa Chila 2013
Langhe Bianco 2013
Nebbiolo d’Alba Montagliato 2013
Barolo Serralunga 2011
Barolo Ravera 2011
Barolo Boooscareto 2009
Barbera d’Alba La Romualda 2012
Spumante Extra Brut Rose Belen 2013
モンタリアートは、この地域を見下ろす丘を中心として一つの区画にまとまった畑です。すでに1haのフレイザ(樹齢60年)、ドルチェット(樹齢20年)、ネッビオーロ(樹齢20年)が植えられており、幸運にも長年農薬を使用しないで栽培されてきました。2015年の収穫からは、2010年に植えられたネッビオーロが加わり、生産本数が増えます。フェルディナンドがこの地域を新たに購入しただ理由は、セッラルンガから続く石灰岩土壌の地層がある最後の地域にあり、歴史的にも重要な生産地であったからです。ここは砂質を含み、バローロの銘醸地と比べ、花のような表情があり、より果実を感じ、エレガントで早く楽しめるワインができます。
「幸運にも、この丘のまとまった一区画を購入することができた。バローロの作り手たちは長い間、日常楽しめるワインを造る努力をしないで、濃くて強いワインばかり造ろうとしてきた。もちろん、ボスカレートのような特別なクリュは、真に偉大なワインとして造らなければならない。しかし日曜の午後には、ドゥセットのようなワインを気軽に飲みたい。祖父の時代、ドルチェットは淡い色調のがぶ飲みワインだった。昔は、銘醸地であっても南向きの斜面にはネッビオーロを植え、西と北向き斜面にはバルベーラ、ドルチェット、フレイザを植えていた。しかし畑名が有名だから、全部ネッビオーロに植え替えてしまった。バローロは、ブルゴーニュのコート・ドールのような連続する斜面でなく、小さな丘が無数にあり、モザイク状に異なった土壌があり、それぞれの丘に微気象がある。だからそれぞれの畑にあったブドウを植えるべきだ。ネッビオーロとバルベーラで、手頃な価格帯の上質なワインを造らなければ、ワイン人口が少なくなってしまう。」
「2013年、ドルチェットでドゥセットを造ったのは、降り続く雨でブドウが傷み、選果をしてサンタンナを15000本造り、残りのブドウで3000本のドセット(アルコール度数11%)を造った。僕はドゥセットが大好きだから、収量の低かった2014年はサンタンナを造らず、ドゥセットのみを8000本(アルコール度数10.8%)造った。通常より一週間早く収穫し、昔おじいさんたちが飲んでいたような、Vino Quotidiano を造りたかったんだ。」
一連の話を聞きながら、かつてアルド・コンテルノが作ったブッシア・ネッラ(微発泡のフレイザ)と、ジャコモ・コンテルノの官能的で感覚がとけてしまいそうに思ったカッシーナ・フランチャのバルベーラとフレイザを、造り手宅やワインバーなどでよく楽しんだことを思いだしました。「アルドは、ピエモンテの農民たちにとって、領主のような存在だったけれど、本当に心が広く、共に畑に入って働いた。ブッシア・ネッラは、一日の仕事を終えて、皆がバルで一杯楽しんだ、バローロの皆が愛したワインだった」と、かつてバルバレスコの造り手から聞いたことがあります。
セッラルンガを代表する畑に数えられるボスカレートの最上部を受け継いだことの幸運に感謝し、よりよいワイン造りを目指して大胆に進むフェルディナンドのワインは、ビロードのような肌理と、ピュアで魅惑的な香気に溢れかつ、親しみやすい理想的なワインです。
今後がますます楽しみです。
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