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『ラシーヌ便り』no. 112

公開日: : 最終更新日:2015/03/30 定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り, ライブラリー

no. 112

NOMA東京

 NOMA東京のご成功、おめでとうございます。

 本年1月9日から2月14日まで、レストラン・ノーマがスタッフ総勢60名で来日し、マンダリン・オリエンタルホテルにてノーマ・東京が開かれました。ラシーヌは、ワインのメイン・サプライヤーに指名されるという光栄に浴しました。無事にその使命を果たすことができたことを、社員一同とともに喜んでおります。世界中から注目されていた、デンマーク国外で初の「ポップ・アップ」レストランが、ノーマ流にまったく妥協なしに実現されたことは、まるで奇跡のようです。
 6週間の期間中、毎週日曜はきっちり休み、36日間毎日100席の予約だったとか。
 またThe Guardianのウェブhttp://www.theguardian.com/lifeandstyle/2014/dec/26/noma-restaurant-tokyo-japanを見ると、60000を超える申し込みがあったと紹介されています。
 ノーマのワインリストと、ラシーヌの取り扱いリストの多くが重なっていることは、かねてより造り手たちから聞いていました。が、昨年ノーマから連絡を受け、あらためてHPのワインリストを見て、あまりの重なり方に驚きました。シェフ・ソムリエのマッズが準備のため9月に来日し、互いのワイン観を話し合いました。その後ワインの選択と本数の確保について、毎日のように連絡が始まりました。マッズがラシーヌから選んだワインは、フランス、イタリア、ドイツ、オーストリア、ジョージアから20種類をこえました。そのうえ、最終週直前にたまたまオフィスでお出ししたトルコのゲルヴェリ醸造所(ウド・ヒルシュ)の白ワインが絶賛をうけ、急遽オンリストしていただきました。
 彼らの滞在中、東京のヴァンナチュール・ワインバーは、連日ノーマのスタッフと、彼らをおいかけてきた北欧を中心としたワイン関係者やジャーナリストで占領されたようでした。東京じゅうのワインバーの貴重な在庫はほぼ飲みつくされたのではと思うほどでした。一向はよく食べよく飲み、日本のヴァンナチュールを「状態が良い」と讃え、バーの賑わいをともに楽しんでおられました。
 予約が困難と聞き、私は出席をあきらめていましたが、思いがけずキッチンの中の特別テーブルにご招待いただきました。サービスカウンターの左端に、檜の大きなまな板をおいて、めまぐるしく料理が仕上げられるのを見ながら、食事をいただきました。「なぜ、スタッフ総出で来日されたのか」と思っていましたが、どのスタッフも大切な一員であり、あたかも大きな船の一員として、前進するために欠かせない重要なエネルギーになっていると感じました。一人一人が極度に集中し、創造的に考えることが求められ、そのためには全人的な資質の高さが必須であることが感じとられました。トップメンバー側は根底に一人一人のスタッフに対する優しさと信頼をもちながら、現状に満足せずもっと面白いことをやっていこうというメッセージを明確にうちだしていることに、感銘を受けました。ワインの輸入会社にもそのまま、あてはまることばかりです。多くのことを学ばせていただき、ありがとうございました。
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《Tschida Illmitzチダ・イルミッツ》
ノイジードラーゼ/オーストリア・ブルゲンラント州
 じつは昨年9月、ノーマのマッズさんから紹介を受けてチダを訪問しました。初回は少量ながらロゼ2012(カベルネ・フラン)とノン・トラディション2012(白ワイン)を輸入しました。
 ノーマの最終営業日にあわせて、造り手のクリスティアン・チダが来日し、お持ちいただいた3種類の赤ワインと、入荷した2種類をオフィスでテイスティングしました。9月に訪問した時は、夕方遅くに着いたうえ時間もないという慌ただしさのさなかでした。いずれのワインにもエキスがこもり、スケールは壮大ながら、アルコール度数は低く、繊細そのものの美しいワインでしたが、それにしても価格の高さには驚きました。「すごいのはわかるけれども、はたしてこのクオリティの素晴らしさがうまく伝えられるだろうか」と思いました。しかし、オフィスでのテイスティングでその心配は瞬時に消え、味わいの驚きとかくも素晴らしいワインに出会えた喜びでいっぱいになりました。社員の感想も同じであったはずです。
 チダ家は数世代にわたり、この地でブドウ栽培をしてきましたが、クリスティアンの父君はかなり強い味わいの赤ワインを造っていたそうです。クリスティアンはグラフィックデザイナーの仕事をしていましたが、2007年に10haの畑を継ぎました。アルフレート・フリドリチカ(2009年12月に他界したウィーン在住の著名な芸術家)と親交が深く、ラベルには彼の作品がつかわれています。1982年に発表されたシューベルト・シリーズのエッチングの一つ『地上の天国』ですが、作品名と同じ「ヒンメル・アウフ・エルデ(地上の天国)」というワインを造りました。「この絵の憂いのない享楽的な雰囲気が、フリドリチカの作品へのオマージュをワインで造りあげるインスピレーションとなった」とクリスチャンは述べています。
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 目に知性を漂わせながら話すクリスティアンの人となりは、明るく快活で、しかも非常に繊細な印象を受けます。フリドリチカとの親交から想像するに、芸術・音楽を楽しみ、するどい感性の持ち主のように思います。それを象徴するのが、彼のカベルネ・フランだと思います。
 カベルネ・フランから造られる「ドン・カピテル」は、私と塚原にとって、至上のカベルネ・フランといっても過言でありません。すでに見知っているロワールやボルドー右岸などのいかなる著名カベルネ・フランとも違う、「クリスティアンの世界」というべき至純の作品です。ときに優雅で明るく、ときに愉快で、あるいは静かで深い味わいがあるという具合。飲み手によってその印象を変えるくらいの、奥行と多様性が備わっています。
 チダは以下の7種類のワインを造っています。いずれのワインも、大変な深みと緊張感に満ち溢れていながら、あまりにおいしくて微笑みがこぼれ、嬉しくて飲むことをやめられない、とんでもなく上質で楽しいワインです。

 

*Himmel auf erden  (地上の天国) 
 品種:ショイレーベ、ピノ・ブラン、12か月醸造 (参考上代5000円)

*Himmel auf erden II skinferemented (地上の天国 スキンコンタクト) 
 品種:ショイレーベ、ピノ・ブラン、24か月醸造 (参考上代5000円)

*Non tradition 2012 (ノン トラディション) 
 品種:グリューナー・フェルトリーナー 24か月醸造 (希望小売価格9800円)

*himmel auf erden rosé 2012 (地上の天国 ロゼ) 
 品種:カベルネ・フラン 24か月醸造 2012(希望小売価格5000円)

*Kapitel I (カピテルⅠ) 
 品種:ツヴァイゲルト、カベルネ・フラン 24か月醸造、昔の修道院が所有していた特別な区画 (参考上代9800円)

*Domkapitel (ドンカピテル)
 品種:カベルネ・フラン100% 48か月醸造、Kapitel 1 より、さらに重要な区画 (参考上代9800円)

*FELSEN BLAUFRÄNKISCH (フェルセン ブラウフレンキッシュ) 
 品種:ブラウフランキッシュ100% 36か月醸造(参考上代9800円)

 IMG_1706TschidaマセレーションIMG_1710Tschida大樽

 チダのHPを開くと、最初に出てくる言葉がLaisse Faire「レッセ・フェール、自由放任」。彼の特徴的な考え方を示しており、古木のポテンシャルをひきだし、静かに成り行きに任せることをモットーにしています。「ワインはそっと静かにしておく。そうして彼らは内面的バランスに到達するのだ。」この言葉は、今までに幾度聞いてきたことでしょうか。どの造り手も、みな同じようなことを言います。しかし、ゆっくり時間をかけて造りだされるクリスティアンのワインを味わうと、彼の言わんとすることがうなずけます。あとは、是非味わって、ご確認ください。本年6月に上記赤ワインが入荷します。私たちと同じく、このワインに出会えた幸運に、きっと感動なさることでしょう。

 
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