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合田玲英のフィールド・ノートVol.15

公開日: : 最終更新日:2014/12/26 ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート

Vol.15

この1ヶ月、日本ではシャンパーニュの生産者、オリヴィエ・コラン、シャンパーニュの複数のワイナリーのエノロゴであるエルヴェ・ジェスタン、土壌学者 のブルギニョン夫妻が来日し、セミナーや囲む会が開かれました。僕は参加が出来ませんでしたが、人伝えに聞いたり、北嶋裕さんのブログのブルギニョン夫妻 来日公演の記事から会の様子を一部ですがうかがい知ることが出来ました。

驚いたことの一つに、セミナーの中での発言かどうかは分かりませんが、ブルギニョン夫妻がオーストリアのセップ・ムスターのワインを飲み、このワインに はキャノピー・フリー(パリサージュをしている仕立てで、針金をはみ出た上の部分を刈り取らないで残しておくこと。特別な名前があるかは分かりませんがこ こでは仮にこう呼びます)のニュアンスがある、と言ったのだそうです。 今までそこに注意を払ってワインを飲んだことが無いので、ワインの味や香りのどの部 分にそのニュアンスを見出せるのかは分かりませんが、とても興味深いです。訪問をした時にキャノピー・フリーに言及をする生産者は多くはありません。言う までも無く、当たり前のことだと考える生産者もいると思いますが、ゴブレやアルベレッロ等の一本仕立てでは行わない作業です。その代わりに、枝の間引きを することもありますが。 北イタリアなどの雨の多い地域でよく見られるペルゴラでは株を人の背の高さほどまで仕立て、上から垂れる枝を針金に這わせます。こ の場合も枝の間引きをする ことはありますが、枝先が切られているのは見たことはありません。 ただ、枝先を切ることでさえ、醸造後のワインの味を変えうるとすると、枝を根元から切る ことも影響を与えるとは思いますが、全ては葡萄の株に与えるストレスをいかに軽減するか、ということだと思います。ちなみにセップ・ムスターの仕立て方は シングル・ワイヤー仕立てで、野性的で原始的に見えます。クリの木で作られた杭に沿って背を高くし、およそ1.8mの高さで、枝木がワイヤーから垂れ下が ります。 フリウリのヴィニャイ・ダ・ドゥリネでは背の高いグイヨー、そしてキャノピー・フリーで仕立てています。当主のロレンツォは、農薬が発明される前は剪定 が病害に対する唯一の対応策だったと言い、それだけ剪定に重きを置いていることが分かります。

この話を聞いたときには、キャノピー・フリーという発想に重 きを置いていませんでしたが、やはり 、剪定後にどのように針金に枝を這わせるかを考えなければいけないのでしょう。枝先を切るつもりなら枝を垂直に這わせ、切ればいいのですが(実際にはこん なに簡単に書いてしまえるほど単純ではないと思いますが)、枝先を切らずに残すためには枝をなるべく斜めに這わせながらも、他の株の枝と重ならないように もしなければいけない、とロレンツォは言います。 株へのストレスを最小限に抑えようと試みるヴィニャイ・ダ・ドゥリネでは2~3歳までの株以外の畑では耕 作をせずに、豆類やハーブの種を撒くことで土地改良を行っています。葡萄栽培におけるビオディナミの概念を醸造方法にまで昇華させたエルヴェ・ジェスタン は、セラー内での果汁やワインに対するストレスを軽減するべく出来る限り 金属製品を排除し、ステンレスタンクにはアースをつけて電磁波のタンク内の液体への影響を最小限にとどめているそうです。 また、畑の中での金属の影響について、フリウリのレ・ドゥエ・テッレのフラヴィオが興味深い本を見せてくれまし た。

その本はホメオディナミという栽培方法について書かれたもので、ホメオディナミというのは読んで字のごとく、ホメオパシーとビオディナミの考えをより 深く融合させたものです(ものすごく簡単に言えば、です)。 その中で、パリサージュの際の注意点について、勿論使わなくて済む場合はそれが一番いいのです が、水平に伸びる針金と垂直に地面に刺さる支柱を、間に絶縁体を挟む等して触れさせないようにした方が良い、と書いてありました。それは針金によって増幅 された電磁波の影響が支柱を伝って地中にまで及ぶのを防ぐためだそうです。 そのように説明をしてくれたフラヴィオは畑の中で銅などの薬剤を撒く際は、容器に薬剤をとり、その容器で縦に8の字を描くことによって薬剤の効果を高め (ダイナミゼーション)てから 、畑に散布すると言っていました。エルヴェ・ジェスタンの亜硫酸の使用方法も、同じ発想によるものだと思います。使用する薬剤の効力を最大限高めて、使用 量を最小限に抑えているのです。 ソアヴェのワイン醸造・販売コンサルタント会社のヴィニ・ディ・ルーチェでは醸造だけをコンサルタントすることは 無理だという信念により、葡萄栽培から販売まで全てをコンサルタントしています。 エルヴェ・ジェスタンもまたビオディナミで栽培された葡萄は、醸造もまた ビオディナミであるべきだという考えから、ビオディナミの概念による醸造に取り組んでいます。その仕事ぶりは徹底していて、果汁やワインに触れるものは全 て、瓶詰機装置もなにもかも、ワインと水を合わせダイナミゼーションした液体でチューブの中まで洗っているそうです。これは畑の中で生まれた葡萄本来の味 わいとエネルギーを損なわずに醸造・瓶詰まですることがどんなに繊細な作業が必要なのかを表していると思います。 そしてこのように造られたワインを保管す る場合も、同じように注意を払わなければと思います。口に入るまでに一度でも栽培・醸造された哲学から外れてしまうと、味は損なわれてしまうのか、変わり うると思います。 北嶋裕さんのブログのブルギニョン夫妻来日公演の記事の中で「ビオディナミは黒魔術のように思われていた」とありました。

むしろ現在でもビオのワイン生 産者は隣人から気違いだと思われながらも、そんな野次はどこ吹く風という様で、自分の信じるワイン造りをして います。そしてその信じるワイン造りを説明しているときの生産者の顔はとても活き活きとしていて、更に、理解しあえたと感じた時は本当に嬉しそうな表情を してくれます。 オリヴィエ・コランは中でもとても感受性の強い、表情の豊かな生産者だと訪問した時に感じました。本当に嬉しそうに醸造について話してく れ、何か新しい話しを聞くときも、例えそれが自分の考えと合わない受け入れ難いものであっても 「J’ecoutes, j’ecoutes!」と最大の好奇心をもって耳を傾けてくれます。上記のような話をする時にでも、やはり、全ての生産者に話せる事ではなく、彼なら、と いう生産者にのみにしか話せません。 それはやっぱり、話をして、通じ合えない時ほど虚しいことはなく、分かりあえた時ほど嬉しいことはないからだと思いま す。だからこそ”自然派ワイン”の生産者はグループを作り、あつまって試飲会を開くのだと思います。そして試飲会を訪れて毎回思うのは、国や地方などスタ ンドを設ける場所が毎回バラバラであると気づきます。初めのころは、なんて分かりづらい順番で一貫性がないのかと思っていましたが、試飲会は生産者にとっ て大切な情報交換の場なのだと最近気づきました。毎回同じ地方の近所の生産者と隣あるよりも、気候も土壌も全く関係ない生産者との、常に新しい情報交換を 欲しているのだと最近気づきました。 よって新しいグループによって開かれた試飲会ほどまとまりがなく、主催者と参加生産者の考え方に統一感が無く趣旨が分からないことが、何回かありまし た。そういうときは普段飲んで、知っているワインほど美味しくなく感じられます。どんな時でもワインの味が同じであることは1度としてありませんでした。 そして、ブショネでも、貯蔵中の温度管理による品質の損失でも無いと感じる時があります。そんな時はどこで、何が味を損ねてしまったのか自分の何がいけな かった、そしてどうすればもっと美味しく飲めるのかと考えずにはいられません。

 今回のエッセイは、この1ヶ月に日本を訪れた3人の重要なワイン関係者の話から感じたことを、つらつらと書いてい るだけなのでまとまりが無いと思いますが、最後にまた、オリヴィエ・コランが来日中に話したことについて感じたことを書かせてください。

オリヴィエは収穫 が始まってから約半年間、携帯電話を一切取らないそうです。それは醸造に集中するためであり、来客を極力避けるためだそうです 。それでも予約なしの来客は後を絶たないそうですが、今年の10月にバローロのフェルディナンド・プリンチピアーノで少しの間作業を体験させてもらえた時 も、有名生産地の生産者はこんなにも来客が来るものなのかと感じました。バローロの収穫の時期は丁度アルバのトリュフ祭りと重なる時期で、そのせいかもし れませんが、毎日絶え間なく来客があり、セラーでの作業用に開けておいた時間でも飛び込み来客がありました。フェルディナンドは出来る限りは対応をしてい ましたが、時にはいないといってくれと、従業員や奥さんに頼み、黙々と醸造を行っていました。

このような姿を見ると、訪問する時はなるべく、他の人と一緒 に予定を合わせなければと思います。”自然派ワイン”を造る生産者は自分が そういうワインを造る事だけでなく、広めることも使命だと感じているように思いますが、あれだけ来客が多いと制限をするのもやむおえないかと思います。 (載せない方がいいかもしれませんが、フェルディナンドの息子は学校で父親の仕事について聞かれて、ワインを造っていると答えた自分に疑問を感じたらし く、パパは喋ってるだけじゃん!とフェルディナンドに言ったそうです。実際がそうではないから、フェルディナンドは笑い話として話してくれたのだと思いま すが、笑い話じゃないと思いました)。

 2013年4月からイタリアに住みはじめ一つのワイナリーで過ごすのではなく、複数のワイナリーを定期的に訪問す ることで、より広くワインの世界があることを知りました。このように自分の考えを文章にして、読んでいただける機会が与えられていることを深く感謝してい ます。そして更に広く、深く知っていけるように2014年も励み、読んでいただいている方々に伝えて行きたいと思っていますので、今年もよろしくお願いい たします。

 

合田玲英

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール:

1986年生まれ。東京都出身。 《2007年、2009年》 フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル)で 収穫 《2009年秋~2012年2月》 レオン・バラルのもとで生活 《2012年現在》 ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで生活中 《2013年現在》イタリア在住


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