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『ラシーヌ便り』no. 99

公開日: : 最終更新日:2014/09/03 定番エッセイ, 合田 泰子のラシーヌ便り

no.99

―ヴィニャイ・ダ・ドゥリネ速報

新年おめでとうございます。 皆様のご多幸と平和を、心よりお祈り申し上げます。

 昨年は、オリヴィエ・コランが初来日いたしました。ファースト・ヴィンテッジ2004年からのヴァーティカル・テ イスティングをしましたが、あらためて2004年当初からのずば抜けた完成度に驚きました。しかしもっと驚いたことは、作柄によるクオリティ差ではなく、 年を追うごとにさらに味わいの輝きが増していることでした。畑の向上に、醸造の経験が映され、年を追って進化しているのです。考えてみれば、ジェローム・ プレヴォー、ベルトラン・ゴトロー、オリヴィエ・コラン、ブノワ・ライエ、そしてブノワ・マルゲ――いずれのシャンパーニュの造り手たちも、留まることな く常に前進しています。ラシーヌもまた留まることなく、社員全員がこのようなワインにふさわしい仕事をしてゆく所存です。よろしくお願い申し上げます。

暮れに、寒波が伝えられるヨーロッパへ恐るおそる出発しましたが、滞在中は驚くほどの暖かな日和に恵まれ、実り多い訪問を終えることができました。

昨年の1月のラシーヌ便りは、ヴィニャイ・ダ・ドゥリネのご紹介で幕開けをしました。 昨年は、その神髄を知ってもらえるよう真剣に取り組んできました が、ロレンツォとフェデリカ・モッキウッティの夫妻が精魂込めて造るワインの驚くべき真価を、まだ十分にはお伝えしきれない憾みがありました。ですがこの 一年間、私たちは、ワインの実力を発揮させるよう努めて習熟した結果、いよいよその素晴らしさに心服せざるをえなくなりました。比類を絶した、唯一無二と いっても過言ではない彼らのワインは、イタリア国内をふくむヨーロッパ全土ですら、まだ広く浸透しているわけではありません。けれども、そのワインを知れ ば知るほど、作品にはますます進境著しいものがあると見うけられます。独自の精神世界を極めつつある造り手夫妻は、ワインの域を超えて、家具デザイナーや 彫刻家、音楽家など多岐にわたる文化分野の人々とも交流を重ねています。 ピノ・ネロの畑

ところで、素晴らしいホット・ニュースがあります。

12月17日に久しぶりに訪問をし、最初に連れていっていただいたのは、カーヴのあるサン・ジョヴァン ニ・アル・ナティゾーネ村のラ・ドゥリネの畑。素晴らしく手入れされた見慣れた畑の隣に、やや東向きに傾斜した同形の土地2haが裸で広がっています。去 年はトウモロコシが栽培され、その前の年は豆が栽培されていたよしです。この隣地の畑こそ、ロレンツォの父と叔父(父の兄)が70年代に4haの畑を 2haずつ相続した畑の、叔父家族分の土地なのでした。じつは、訪ねた前日に、夫妻はこの貴重な土地を所有者から正式に譲り受けたばかりでした。その叔父 がなくなり、ロレンツォの従弟から、「あなたたちは、この畑でよい仕事をすることができるだろうから」と、譲渡の申し出があり、夫妻の夢が実現したのでし た。新しい畑を前にして、「周りに守護神のマルベリーを植えて、畑を準備して植えていくんだ」と、本当にうれしそうな姿でした。 そういえば10年前、シャンパーニュのジェローム・プレヴォーを訪問した折にも、「叔母から畑を譲り受け、昨日は銀行ローンの許可が下りた記念すべき日 なんだ」と言って、お祝いをしたことを思い出しました。当時まだ無名だったジェロームに頼まれて、フランスの銀行宛に「ラシーヌは、ジェローム・プレ ヴォーのワイン造りを高く評価し、毎年彼からワインを買い続けます」という手紙を書いたことを、すっかり忘れていました。ロレンツォとフェデリカの二人 が、これから新しい歴史を刻んでいく記念すべき日に訪問でき、心から祝わずにおれませんでした。 99_02

今年は二人にとって、記念すべきワインが市場に出ます。

2001年に友人のフランチェスコ・バローリが長年有機農法で大切に栽培してきたロンコ・ピトッ ティ(5ha)の手入れを任されましたが、その一部にピノ・ネロがひっそり植えられていました。以来、試行錯誤と度重なる実験を重ねてきましたが、一度も リリースされませんでした。が、ついに彼らは、求める深さがようやく表れたと判断し、2009年ヴィンテッジのリリースを決断しました。色調は淡く、味わ いはデリケートでのびやかにして複雑。ピノ・ノワールの高貴さが、なんともいえない美しい余韻をもたらします。舌の感覚に静かに染みわたる細やかな味わい が心地よく、なんとも幸せな気持ちになることができました。かくも素敵な液体との出会いに、またしても驚かずにおれません。クラシック音楽に例えれば、天 才と呼ばれる演奏家の数ある録音の中でも最も好きな、「アドルフ・ブッシュとルドルフ・ゼルキンのデュオによる、シューベルトのヴァイオリン・ソナタ」を 休日に聴いているときの、例えようのない至福の時と重なります。ラシーヌの新年会では、ゆっくりと皆で味わいたいと思っています。生産本数はわずか600 本ですが、貴重な120本が入荷しました。 今年は是非、ヴィニャイ・ダ・ドゥリネの作品に出会ってください。 99_03

 
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