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合田玲英のフィールド・ノートVol.26

公開日: : 最終更新日:2015/01/30 ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート

Vol.26

 前号に引き続き、イタリアの2014年の収穫と、その後の醸造の様子をお届けいたします。前回トスカーナの記事でもふれましたが、イタリアは8月終盤からの好天と収穫期の天候にめぐまれ、予想されていたよりも状態の良いブドウが収穫できました。それでも日照不足に変わりはなく、ブドウの果実も完熟したわけではありません。けれども、このような年だからこそ見られる、畑ごとの違いや生産者の考えの違いがあります。しかし、ひとつ共通していたのは、どの生産者も収穫の1週間ほど前に、あまりにも状態の悪いブドウをひととおり摘んで捨ててしまい、「2回目の収穫」でさらに入念に選果したという事実でした。

《バローロ、バルバレスコ》

 バローロとバルバレスコのエリアでは、9月10日前後にドルチェットの収穫が始まり、10月の第4週までにはほとんどのワイナリーがネッビオーロの収穫を終えました。一般にナチュラルワインの生産者は、そうでない生産者に比べて収穫時期が遅いことが多いようです。さて今年、フェルディンド・プリンチピアーノの畑では、過度の水分や雹(とそれらに対する手入れなど)によるストレスで、果実が熟しきる前にブドウ樹が果実の成熟を止めてしまっているのが見て取れたそうです。例えば茎の部分が熟れて茶色くならずに、枯れて萎んでいくような状態に見えたとか。フェルディナンドのバローロ・ボスカレートは、2009年から1000Lの木桶で全房醗酵を行い、ピジャージュは毎年友人を招いて足で踏んできましたが、今年は除梗機にかけステンレスタンクで醗酵を行いました。そのボスカレートの畑では、2010年から硫黄やボルドー液の散布をやめ、海藻のエキスや様々なハーブの煎じ液で畑の病気策をしてきました。しかし今年は、ボルドー液なしには対処しきれなかったそうです。そのような様子の今年のネッビオーロでしたが、ルモンタージュの作業の期間中、花の蜜のような香りが漂っていたので、出来上がるワインの姿が思いうかび、わくわくしました。フェルディナンドのはなしでは、ネッビオーロの醗酵中は毎年このような香りがするとのこと。天候が悪く成熟度の低い果実の場合には、その香りの繊細さが増し、さらにその香りが醗酵を終えて熟成段階に入ったあとも保たれるそうです。そのようにして出来たバローロは、超長期の熟成には向かないかもしれませんが、中~長期の熟成で飲み頃を迎えるとのことです。

イノックスタンクで発酵中の バローロ・ボスカレート

 バルバレスコのリヴェッラ・セラフィーノ社のテオバルドは、2.5haの畑を1人で管理しています。彼の畑ではブドウ樹は成長段階ごとに徹底的に管理され、ドルチェットとネッビオーロは彼の思う理想の状態へと導かれます。収穫前までテオバルドは何度もブドウの状態を確認し、芽かきやグリーン・ハーヴェストも丁寧に行い、収穫は妻のマリアさんと彼女の友人とテオバルドの3人で行われます。収穫前にテオバルドが徹底的に選果しているので、収穫期にブドウ樹に残っているブドウは綺麗なものばかり、とマリアさん。テオバルドは、今年は例年よりも少しばかり多くのブドウを捨てることになってしまっただけさ、と言っていました。彼は写真では少し強面でおっかなそうに見えますが、60歳を過ぎてもまだまだ現役で働けるたくましい体と日焼けした肌、そして陽気な話し方がとても頼もしく感じられます。2014年の彼のワインがどのように仕上がるのか、今から楽しみです。

リヴェッラ・セラフィーノでのネッビオーロの収穫リヴェッラ・セラフィーノ当主のテオバルド

《ヴァルポリチェッラ》

 モンテ・ダッローラ社を、収穫終了後の11月初めの週に訪問。まず当主のカルロの目を見て驚きました。いつもはスマートな冗談を言い、笑顔の絶えないカルロですが、訪問時には張りつめた雰囲気がありました。緊張や不安ではなく、神経がビリビリと研ぎ澄まされているような感じなのです。ヴァルポリチェッラでは雹害こそほとんど無かったものの、7月と8月の間に陽光が差した日の合計が20日足らずに終わりました。収穫されたブドウは長時間の選果作業のおかげで綺麗なものでしたが、アパッシメント(アマローネやレチョット用にブドウ果を屋内乾燥させる工程)向きとはいえず、まだ乾燥中ながら2014年にアマローネを造れるかどうかは決められない、と言っていました。アパッシメント3週間になるブドウを食べると、良くいえば摘みたてのようなフレッシュさと爽やかな風味。ですが、アマローネに必要とされる凝縮感が乏しいように思えました。収穫期以後の天候は晴れが続いて風も良く吹いていたため、ブドウ果は問題なく乾燥していましたが、残りの2か月から3か月の間によっぽど晴れ続きでないと、狙いどおりの凝縮感は得られなさそうです。

モンテ・ダッローラでのアパッシメントモンテ・ダッローラ当主のカルロ

 訪問したときカルロはしきりに、醗酵を導く“guidare la fermentazione”という言葉を使っていました。出来るだけ自然なアプローチで「醗酵を導く」ためにモンテ・ダッローラでは、収穫を始める前に選ばれた果房からのスターター(1週間ほど前に少量だけ収穫し醗酵させたもの)を3種類用意し、その中からスターターとして使うものを選び出します。ナチュラルワイン生産者の間では、醗酵前に亜硫酸を入れて他の酵母や菌の働きを抑えるという方法も一般的です。けれどもモンテ・ダッローラでは、優良な酵母だけを働かせるために、スターターを3つ用意し、もっとも好ましい酵母が優勢状態にある果汁(スターター)に、収穫したブドウを足すという方法を採用しています。これまで何度もカルロに会っていますが、この手法については今回初めて聞きました。そのほか、温度コントロール可能なタンクを使用する理由(醗酵中の果汁温度が30℃を超えたときだけ、冷却用に用いる)など、醸造上の細かい気配りについて話してくれました。キーワードは、常に醗酵を「導く」ということ。どのような年にあっても、その年の良い面の引き出されたワインを目指して神経を張りめぐらしているカルロの言葉は、一言一句が心に響きました。

《作柄について》

 ワインの有名産地では(特に長期熟成型のワイン生産地では)、年ごとの良し悪しを示す表を見かけます。たいてい最低ラインが「普通」で、「良い」「特に良い」「最高」というように続いており、ヌーヴォーの毎年の紋切型と一緒で、絶対に悪いようには言わないのでしょう。が、その通りなのだろうなと、思わないでもありません。生産者も「悪い」という単語を避け、「難しい」という言葉を使っています。それはその年の長所をワインに反映させるのが難しいという意味なのでしょう。さすがに雹が降ったらそもそもブドウ樹が実をつけないので悪い年と言えるかもしれませんが。

 最後に、2014年が難しかった理由の大きな原因のひとつに、2013年の収穫後、冬の気温が下がりきらなかったことがあるとされています。冬が寒ければ虫や菌が死滅し、畑の中の状態が一度リセットされますが、今年はそれができなかったため、特に小蠅による被害が甚大でした。小蠅がブドウの皮を食い破ったため、果汁が漏れてカビが生えていたり、ブドウから酢めいた香りがしてしまったことが、よく見られました。同じ理由で、オリーブの収量にもかなりの被害がありました。今までもこの話は聞いたことがありましたが、今年は嫌でも思い知らされました。 

 これからの冬の天気は、やや暖かめになりそうだとか。11月1日はイタリアでは聖人となった人たちが返ってくるという、日本のお盆のような日です(ハロウィンではありません!)。毎年お墓参りをするこの日は何枚着こんでも寒いのに、今年はジャケットを羽織るだけだったと、ラルコ社のルッカは語っていました。

 今年の冬は適度に寒くなって欲しいものです。

 

合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年現在≫イタリア・トリノ在住


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