合田玲英のフィールド・ノートVol.25
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最終更新日:2014/12/26
ライブラリー, 新・連載エッセイ, 合田 玲英のフィールドノート
Vol.25
10月も残すところ少なくなり、2014年のイタリアでのブドウの収穫は、ピエモンテの一部を残しほぼ終了しました。8月末までにイタリア各地から聞こえてくるブドウ畑の状況は、降り続く雨と病害によって多くの果実がやられているというものでした。雨による湿度もそうですが、日照時間が絶対的に不足して果実が熟しきらないのではないか、という不安もありました。しかし本当に幸運なことに9月に入る直前から日差しのある日が増え始め、最悪の事態は免れた、というところでしょうか。訪問した多くの生産者が「こんなに綺麗なブドウを収穫できるとは、8月の時点では思ってもみなかった」と、胸をなでおろしていました。
《 南部トスカーナ 》
トスカーナ南部のモンタルチーノやモンテプルチアーノでは、サンジョヴェーゼの収穫を例年より2週間以上遅い9月の最終週に始めました。収穫時の天候は8月までに比べるとよかったようで、天気の様子を見ながら晴れの日にどのワイナリーも一斉に収穫を行いました。モンタルチーノではブドウの状態からして、どれほど大変な年だったかが容易に想像出来ました。日照不足に加え、雹が一部では降り、収量が大きくダウン。ブルネッロを造るサン・ポリーノでは、9年前から硫黄や硫酸銅さえも使わず、ビオディナミの調合剤などにより畑の管理を行ってきました。けれども、今年だけは硫酸銅の使用に踏み切りました。サン・ポリーノでは距離が離れた3区画の畑を所有していますが、幸いそのうちの1つの畑では例年と比べても遜色のない美しい実を収穫することが出来ました。
モンテプルチアーノはモンタルチーノから内陸に向けて30kmほどで、それほど離れてはいませんがブドウの様子はとても綺麗でした。訪問したボスカレッリとポデーレ・イル・マッキオーネにそのように伝えると、「この綺麗なブドウを得るためにどれほど大変だったか…」と言われてしまいました。機械を入れないイル・マッキオーネの樹齢75歳の古い畑は、一際美しさが目立ちました。収穫の数日前には1度すべてのブドウをチェックして、カビや病気の害のひどいものは全て先に落としてしまい、残ったいくらかの房が綺麗な実をつけているのでした。
《 キアンティ 》
北部でも赤についていえば南部とほぼ同時期に収穫が始まり、南部と同じく例年よりも2週間ほど遅れて収穫を開始。キアンティ・クラッシコを造るポルタ・ディ・ヴェルティーネのサンジョヴェーゼの実を食べて見て、南部との熟し具合の差に驚きました。見ための大きさも、キアンティのサンジョヴェーゼは小さく引き締まっていました。と、ここでポデーレ・イル・マッキオーネのシモーネがこんなに実の大きなサンジョヴェーゼ(水を多く吸ったことによる)は見たことが無い、と言っていたことを思い出しました。ポルタ・ディ・ヴェルティーネのエノロゴであるジャコモによると、9月に入ってからの天候が特に素晴らしく、8月までの遅れを取り返すことが出来たそうです。収量も激減ということは無く、ほっとした様子でした。
《 トスカーナ・その他の地域 》
トスカーナの南西に浮かぶジリオ島では冬と春が温かくて、例年より1ヶ月も早くブドウの芽が出ましたが、結局収穫は例年よりも遅くにずれ込みました。この島で個性的なワインを造るのが、アルトゥーラのフランチェスコ。「何が何だかわからないおかしな天候だ。けれども、自然な方法での畑の管理はいつも僕を裏切らない!」とメールで連絡をくれました。
西の海岸地域に位置するボルゲリのカルラ・シモネッティでは、ほんの0.87haの畑からワインを造っています。畑は海と丘のちょうど間にあり、海抜は何メートルもありません。が、朝晩に吹く海風と丘からの風が、畑の湿度をよく払ってくれました。畑の管理は大変だったけれども、収量はそこそこあり、満足のいく収穫だったそうです。ボルゲリのワインは複数種混醸することが許可され(最近また少し品種のパーセンテージが変わったとか)、少ない土地に5種類の品種を植えています。そのため、年ごとに各品種の適した気候条件があり、小さい面積の畑ながらも、(ある年はカベルネが多くてメルローが少なく、別の年はその逆という具合に)収量に大きな被害を出さずにすみます。ここでは果実の成熟がいくらか早かったとみえ、9月20日には収穫を終えていた――と、マリアキアーラはにこやかに話してくれました。
カルラ・シモネッティは初めての訪問でしたが、マリアキアーラの喜びに溢れた人柄は、試飲会場でも印象的です。彼女のワインやアルトゥーラのフランチェスコのワインを飲むと、ワインとは生産者の人柄を反映していることが如実にわかります。
以上、トスカーナの収穫の様子をお伝えしました。どこのブドウも水を吸って少し大き目で、強めに握ると簡単に実が割れてしまう状態のところもありました。本当に難しい年だったと誰しも言いますが、いい年ばかり続くわけがないとも言っています。
今年のような年には畑が平坦か斜面か、斜面はどの方角で風が吹き抜けているかなどにより、ブドウの状態が歴然と違っており、畑の環境の重要性がよく分かりました。畑の手入れの仕方についても、野性的な環境の整っている畑の方が綺麗な果実をつけているように見えました。が、これは、先入観でしょうか。美味しいワインづくりには最高の天候条件が望ましいのですが、やはり悪い年には学ぶことが多くあります。出来上がったワインをテイスティングしてみないと分かりませんが、こういう年にこそ各ワイナリーがどこに重きを置き、どれだけ徹底してその作業を行っているか、という差が見て取れます。そしてワイナリーの大きさ、設備、地域、天候などの個別の条件・状況の中で、それぞれがそのワイナリーで出来る最上の方法で仕事をすることが、大事なのだと当然ながら思いました。
合田 玲英(ごうだ れい)プロフィール
1986年生まれ。東京都出身。≪2007年、2009年≫フランスの造り手(ドメーヌ・レオン・バラル:写真左)で収穫≪2009年秋~2012年2月≫レオン・バラルのもとで研修 ≪2012年2月~2013年2月≫ギリシャ・ケファロニア島の造り手(ドメーヌ・スクラヴォス)のもとで研修 ≪2014年現在≫イタリア・トリノ在住
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