ファイン・ワインへの道Vol.93
公開日:
:
最終更新日:2024/06/01
寺下 光彦の連載コラム, ライブラリー, 新・連載エッセイ ダッセムス, PIWI, RAW WINE, メオゴム, マリクダ・ワイン, BEHINDTHESMILE, ローワイン, イザベル・レジュロン, オフビート・ワインズ
RAW WINE TOKYO雑記。北の国のワインやいかに。
ボルドーワイン価格の大暴落(シャトー・ラフィット2023プリムール価格、対前年比37%ダウン!) というニュースも新鮮(爽快?)だった5月でもありますが・・・・・・、 今月は、やはりナチュラルワイン・ラヴァ―が待ちに待った大型フェア、『RAW WINE TOKYO 2024』レビューが、より重要ですよね。
目次:
1:2024年から酸化防止剤の上限規定を引き下げ
2:PIWI品種のみ栽培で、ボルドー液も不使用! のワイナリー出現
3:韓国ほか、アジアの国にもナチュールの芽吹き
2024年から酸化防止剤の上限規定を引き下げ
世界各地から136社のワイナリーが集結して行われたこの試飲会、 マスター・オブ・ワインの中で数少ないナチュラルワインの推進者、イザベル・レジュロンが主催し、 世界各国で行われています。 フェアは、事前にホームページで出品者のほぼ全てのワインについて酸化防止剤量が明記され、 当日会場で配布される フロアマップにも酸化防止剤無添加の生産者と、トータル35mg/l 以下の生産者が 色分けされるという入念さでした。このあたりの入念さ(正直さ。誠実さ)は、 日本のデパートやワインショップでも取り入れてくれたらいいのになぁ 、というのは広く消費者の正直な心持ちでしょう。
ちなみにRAW WINEへのワイナリーの参加条件は、昨年までは酸化防止剤70mg/l以下が必須だったのですが、2024年からより厳しく引き下げられ、50mg/l以下となったのも、今後広く“ナチュラルワイン”の指針を考える上で有効なことでしょう。
PIWI品種のみ栽培で、ボルドー液も不使用! のワイナリー出現
今回のフェアで、個人的に優先試飲したかったのは、北の国のワインの数々、でした。ウェブサイトに事前告知されていた気になる北の国は、オランダ、ベルギー、イギリス、フィンランド、スウェーデン。それらの国のワインから、もし、今や多くの伝統的ワイン産地で”美しい昔話”になりつつある「冷涼気候」の美点があるワインが発見できれば ・・・・・・、と虫のいい期待をしたのです。
その身勝手な期待に相対的に一番応えてくれたのは、意外にもオランダ、でした。オランダ南部の町、カーム(Chaam)に畑を持つダッセムス(Dassemus)なるワイナリー。彼らが手がける”ヴィルドゥ・ロゼ”は、目覚ましくクリーンでピュア、透明感ある果実味、チェリーとハーブの澄んだ香りが心を洗う良作だったのです。
冷涼産地に期待する凛々しい多面性ある酸の輝きも、とても印象的でした。なんと このワイナリー が栽培するのは話題のPIWI品種(耐病性の高いハイブリッド品種)のみ。ゆえ、畑はビオディナミで無農薬というだけではなく、 ボルドー液(=重金属含有) さえも撒かれていないということも、なかなかに画期的。そうです。無農薬と言いつつも・・・・・・銅を含むボルドー液だけは、歴史的かつ慣習的にお目こぼしされてきており・・・・・・、土壌への銅の蓄積は折に触れ、問題視されていたのは皆様ご存じのとおり。その難関をPIWI品種で乗り越えたこのワイナリーの作は、完全無農薬栽培の力ゆえか、ぶどうの卓越した健全さも舌から 伝わった気がしました。 ちなみにこのヴィルドゥ・ロゼは「カベルネ・ジュラ」と「カベルネ・カントル」品種のブレンド、でありました。
次に印象的だったのはイギリス、ウィルトシャーに2010年に植樹したオフビート・ワインズ(Offbeat Wines)。その”マジック・ナンバーN.V”.は、ピノ・ノワール47%、ピノ・ムニエ23%、ピノ・ブラン23%をブレンドしたスティルの赤。ピノ・ノワールの非常に繊細な酸と、アセロラやチェリーの香りが、酸化防止剤無添加醸造で微笑ましく際立つ、なごやかなデイリーワインでした。オーナーのダニエル・ハム氏にピノ・ブランをブレンドした狙いを尋ねると「適度なフルーティーさを、ピノ・ノワール主体のワインに与えてくれるから」とのこと。その発想の柔軟度と自由度、そして的確さも、なかなかに痛快、でした。
残念ながら期待した北欧2ヶ国は、ともに各国から1社のみ参加で、スウェーデンはシードルのみ、フィンランドはオーストリア、ブルゲンラントからの買い葡萄で醸造とのことで、私にとっては肩すかし、でした。
韓国ほか、アジアの国にもナチュールの芽吹き
もう一つ、事前リストで目を引いたのが、韓国と台湾のナチュール・ワイナリー。韓国、メオゴム(Meogom)ワイナリーはチェオンスー(Cheongsoo)なる白の固有品種を活用するとの点にも惹かれたのですが・・・・・・、ワインは白、赤とも鈍く甘い香りが際立ち、余韻にも短く単調な甘みが残るもので、まだまだワイナリーとして発展途上段階といった印象。
台湾のマリクダ・ワイン(Malikuda Wine)は、ニュージーランド産ブドウと台湾産ブドウをブレンドしたワインだけでなく、餅米とブドウを併用しブレンドするという大技も敢行。なかなかに大胆な試みなのですが、これが意外と味わいに立体感と奥行きがあり、キワモノ扱いよりは、ペアリングのアクセントとして面白く活用できるようにも感じられました。
そんな、怒涛の集中試飲を終えた後、じんわり感じられたのは、世界各地でのナチュラルワイン造りへの意志の広がりだけでなく、 普段日常的に飲んでいるナチュラルワインのありがたさ、ひいてはそれを既に発見し日本に届けてくれる多くの輸入元さんの慧眼と先取性・・・・・・でした。これほど多くのワインを集中的に試飲しても、 決定的かつ熱狂的にエキサイトできる名品は極々ひと握り。かつそのほとんどは既に日本に輸入されていて、おそらくは皆様もご存じのワイン、だったのです。
その実感は昨年私が参加したパリでのより大規模なRAW WINEでも、ほぼ同じでした。
本当に、真に深遠なナチュラルワインを新たに探し当てることは、簡単ではありませんねぇ、と実感。だからこそ、真摯に日々の試飲機会を逃さないことの重要性を、今回もまたかみしめた次第です。皆さんはいかがでしたか?
今月の、ワインが美味しくなる音楽:
脱力、納涼力、特大。
バンコク・ネオ・アコで、ゆる涼み。
BEHINDTHESMILE 『Neon』 ←グループ名、ワンワードです。
タイ、バンコク発と信じるのに少し時間がかかるほど(?)瀟洒でメロウ、洗練されたスロー・アコースティック・サウンド。でもその奥に、酷暑の国で、なんとかゆる~い音で涼をとろうとするトーンが、どうにも心地いいユニットなのです。ギターとヴォーカル、シンプルなバッキングのみで、音の隙間を聞かせる術は、どこかアンビエント心もあり、熱帯のアンビエント・ネオ・アコとも思える音の浮遊感もたまりません。梅雨時にも夏にも、プレイするだけで風鈴がわりにも。テーブルには、キリッと冷やしたミネラリーな白ワインなどがあれば、ピースフル度・倍増ですね。
ちなみにこのユニット、他にも名曲無数なのですが、SPOTIFYでも多くの曲名がタイ語表記のみ(!)で、このコラムで紹介できず・・・・・・。是非、何枚かのアルバムを通してお聞きいただくと・・・・・・、この夏の酷暑対策の優しく微笑ましい味方になってくれるはずですよ。きっと。
https://www.youtube.com/watch?v=57MCF8mkauA
今月の言葉:
「ほとんどのワインは、現在ではブドウだけから作られることはなくなりました。これらは農薬食品産業の製品です。ワインの“詩”、その芸術性やロマンティシズム、あるいは生産地の感覚を持つ製品としてのワインの例外性といった概念は、ますます稀になりつつあります」
イザベル・レジュロンM.W.
寺下光彦
ワイン/フード・ジャーナリスト
「(旧)ヴィノテーク」、「BRUTUS」、「MEETS REGIONAL」等に長年ワイン関連記
事を寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン 大阪校」、自然派ワイン、および40年以上熟
成イタリア・ワイン、各クラス講師。イタリア、ヴィニタリーのワイン品評会・審査
員の経歴も。音楽関連記事も「MUSIC MAGAZINE」に約20年、連載した。
- PREV ファイン・ワインへの道Vol.92
- NEXT ファイン・ワインへの道Vol.94